第1章 第4話
ある王国軍基地にて。
「隊長さん、コイツどう考えてもおかしいです。プログラムをどう弄っても反抗してきます。科学的に解明不可能で、本物の魂でも持っている言われた方が納得できるぐらいです。」王国屈指の技術者が昨日付けで国王軍の隊長になった男──佐貫一将──が運んできた芽衣子さん二号のことを指しながら報告した。
「ご主人様のことは何が何でも守ります。貴方たちなんかにこの身と心を捧げたりなんてしません。」
「そんなこと言ったって、所詮はロボットなんだから、どこかに性格データがあるだろ。」
「それがまったく見つからないんです。」
「そうか。」
「すみません。」
「いや、焼け焦げたバッテリーの代わりを作って充電したんだ。それだけでもかなり助かる。しかし、コイツを改造出来ないのは辛い、いや、そんなこと言ってもしょうがないか。」
「ほう、お困りのようじゃな。」
「貴女は! 」声のした方に振り向くと顔中しわだらけの老婆が立っていた。彼女は王国で最も権威のある占い師の鬼龍院魔貴子。かなり昔から占い師として仕えており、軍人や文官の大ベテランよりもキャリアが長いらしい。みんなからは陰で魔女と呼ばれており、王国ができて百年ほどの間ずっと仕えているという噂すらある。
「ほう、占いでここに来たら良いと出たが、これは予想以上じゃなぁ。」
「それは良かった。俺は作戦がうまくいかなくて最悪なんだが。」
「そういっても、うまくいった部分もあるから、お主はこの地区の隊長になったんじゃろう? 二兎追うものは一兎も得ずと言うじゃろ? うまくいった部分があればそれでいいんじゃよ。」
「そうだが。」
「お主が納得いかないんじゃったら、この娘を譲ってくれんかのう? さすれば、国王陛下に口利きしてやろうぞ。」
「ううう、ご主人様、もう限界です。」芽衣子三号が苦しそうに声を絞り出した。ここはクレーター盆地の上空五百メートル。クレーター盆地は広大なデザート砂漠の中央にある半径五キロに及ぶ奇麗な円形状のクレーターのような窪地だ。かつて行われた地質調査でこの地形ができたのは百年ほど前と判明しているが、隕石や爆薬などの痕跡がまったく検出されず、どうやってこの地形ができたのかは不明である。
「ご主人様、処置は終わりました。金属片をすべて取り出すことはできませんでしたが、これだけ取り出したら回復できます。」
「そうか、二人ともありがとう。」そう言うのと同時に芽衣子さん三号がパラシュートを開いた。その後優姫ちゃんに負担がかからないように考慮しながら着陸した。そして、俺と芽衣子さんたちでテントを設営したり、火起こしをし手料理を作ったり、テントの中で優姫ちゃんの看病をしたりした。いろいろあった疲れもあり、気づいたら眠ってしまっていた。
「ちょっと、これだけのものどうやって運んだのかと思って芽衣子さんに聞いたら、異次元カバンって意味が分からないです。」優姫ちゃんが目を覚ましたようだ。元気そうで何より。雀も優姫ちゃんの手術の成功を祝うように朗らかに鳴いており、日の出直後のすがすがしい空気をより一層美味しくしている。
「異次元カバンは異次元カバンだよ。地下基地の取り出し口につながってて、中身を取り出したり、カバンの中に物を入れたりできるんだよ。あくまで物だけで生物は出し入れできないのが難点だけど。」そう、処置に使った麻酔やメス、縫い糸にテントや燃料も異次元カバンから引っ張り出したのだ。一度どのくらい入るのかを実験してみたが、収穫した作物など持ち物を全て入れてみたが限界量には達しなかったが、物を転送するたびに負担がかかるらしく手に持てないほど熱くなった。カバンを解析してどこに保存されているのかを調べてみたがこの地球上にはなかった。
「そういえば、芽衣子さん三号はどこに行ったんですか? 」
「焚火の燃料に着火させたら、完全に電池切れになってしまって、今はカバンの中で眠ってもらってる。」
「芽衣子さんは生物に入らないんですね。」以前実験したことがあるんだが、電源が入ってたら生物扱いになって出入りできないけど、電源を切っていたら物扱いになるらしい、そんなことどうでもいいけど。閑話休題。
「優姫さん、ご主人様、御飯ができましたよ。」さっきからいい匂いがしてたんだった。美味しそうな匂いに引き寄せられるように俺たちは焚火のほうに歩いて行った。ただ、引き寄せられたのが俺たちだけではなかったのが問題だった。
「おい、お前、食料と女をさしだせ。そうすれば命は助けてやる。」刃物を持った男五人が俺たちを取り囲んだ。そもそもなんでこんな砂漠の真ん中に人がいるんだ?
「そんなことできるわけないだろ。」食料は取られても問題ないが、優姫ちゃんと芽衣子さんは譲れない。
「命が惜しくないのか?」そう言いながら一人の男がナイフと突き出してきた。
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