第34話 第八章 姫がラスボス(4/4)
【約3500文字】
【スクマミロンへの執着によって呪いを跳ね
「なんか怪しいっす。アタイはずっと、セクシーリミットに引っかかっていたっすよ。姫様が勇太と会った時の鼻血と、このキスと、何か関係あるんじゃないっすか?」
ナーガはいやらしい目をして見せた。
セクシーリミットとは、勇太の鼻血にかけた治癒魔法の呪文である。その時以上の刺激がなければ、鼻からは出血しないという効果があるのだ。(第5話参照)
いきなり出たセクシーリミットいう単語に、ミマはビックリ。
そして、なぜか領主もビックリ。
「なんと! この少年は姫を見て鼻血を出したのか?」
鼻血にビックリだった。
メイド達もひそひそと始めた。
ナーガは
「そうなんすよ。会って早々だったっす」
「早々とは、まさしく本能のプロポーズではないのか? それで、さっきも『愛してる』と言ったのだな」
「あっ、それは、勇太本人の
聞いていたメイドたちは、がっかりしたようだった。
ナーガが続ける。
「そっちはいいにしても、鼻血、そして、キスっすよ!」
その言葉に納得の表情を浮かべる領主である。
「そのキスが、プロポーズの返事という訳か」
メイド達もキャッキャと言いだした。
ここで、本能のプロポーズとは何だろうか? それは、異性を見てすぐに鼻血を出す行為のことである。
本人の意思や気持ちに関係なく、異性を性的に認め子孫を欲しいという肉体的というか、遺伝子的なプロポーズであると、このトロピ界では認識されているのだ。
そして、プロポーズにOKという返事が、キスという訳だ。
当然勇太は、そんなことは知らない。ただの男子高校生的な反応というだけであった。
しかしこのトロピ界の男子は、女子のビキニを見慣れている。勇太のようにビキニを見て即鼻血ということは、まず無いのである。
ナーガも領主に同調する。
「バーゼさんの言う通りっすよ。姫様は本能のプロポーズにOKの返事をしたことになるっす。それに、アタイはセクシーリミットも、プロポーズに関係があると思っているっす!」
慌てるミマ。
「ち、違いますわ! セクシーリミットは返事には関係ありませんし、キスが返事と言うのも、少し違うのですわ。だ、だって、キスと言っても本人には意識がありませんわ。だから、プロポーズの返事にはなりませんわ」
プロポーズにOKという意味ではなかったらしい。
でも、ナーガには納得がいかない。
「勇太は異世界人っす。本能のプロポーズなんて知らないはずっす。それに寝てるから、返事でないとは分かるっすけど、『少し違う』とは、どういうことっすか?」
ミマは恥ずかしそうに口に手をやる。
「ナガイが見てないところで、占いババがあたしだけに言ったのですわ。近々本能のプロポーズがあるから、その時は、その者を大切にするようにと。
その想いから、あたしは……(キスを)……したのですわ」
ナーガは目を吊り上げる。
「何を言ってるっすか?! 大切どころか、勇太の毒見を信じなかったじゃないっすか!」
ナーガはそっちに怒った。
ミマは視線を
「そ、『
ハハーンとナーガ。
「色気より食い気って訳っすね。それに、寝てる時のキスっす。姫様の恋愛レベルが分かった気がするっすよ。アタイは安心したっす。
それで、セクシーリミットはどうしてっすか?」
鼻血の治癒魔法について聞いている。それ以上の刺激を感じないと出血しない治癒魔法だ。
ミマはもじもじとする。
「は、初めてのプロポーズだったのですわ。占いがなくても大切にしたいのですわ。
勇太は異世界人ですから、鼻血が出易いかも知れませんわ。
だから、セクシーリミットを使ってあたし以下の刺激には反応しないようにしたのですわ。
もしぃ~~、あたし以外の女にぃ~~、鼻血を出したのなら~~、あたし以上の刺激ということでぇ~~、即、浮気と認定するところだったのですわ~~。
つまり、浮気のチェックなのですわ!」
途中声のトーンが低くなった。
「スケベのバロメーターにしたっすか!」
ナーガは馬鹿っぽく口を開けて、ハアと息を一つ吐いたのだった。
また、勇太はすぐに帰るので、本能のプロポーズについては、本人には内緒にすることに決まった。
………………………………
「い、いてっ!」
勇太が全身の痛みを感じて目を覚ます。
目の前には、点滅するカエルシールのチクミと、丸みを帯びた赤と緑の線があった。
一番上の青は見えないが王家の3本線だ。その奥に逆さまになったミマの顔が勇太には見えた。
勇太は目をパチパチ!
「目を覚ましましたわ」
ヤバイと思い勇太は飛び起きようとした。
「い、いてっ!」
やっぱり、全身の筋肉が痛い。達人のエキスがまだ影響していた。
上体を起こすのがやっとで、どうにか芝生に敷かれたバスタオルの上に座った。
「良かったですわ! 起き上がる元気が戻りましたわ!」
ギュッ!
後ろから抱きつかれた!
せ、背中に、む、胸が! ……や、柔らかい……。
勇太はトロンとしてしまうが、ミマは勇太の体温も確認したのである。もう勇太の体は冷えていなかった。(ナーガが勇太に使った酸素薬には、体温を低下させる副作用があったのだ)
領主が感心する。
「さすがは異世界人だな。胴体を刺されたというのに回復が早い」
勇太はトロピ界では不死身なのだ。
「姫様に感謝するっすよ!」
ナーガが言っているのは、ミマの治癒魔法についてだと勇太にはすぐに分かった。
「ミマが治癒魔法をかけてくれたんだろう。ありがとう」
ミマはキスを思い出し、声には恥ずかしさが乗る。
「そ、そんなの当然なのですわ! こ、今度は前からですわ!」
ミマが離れ、勇太の前側へ回った!
バッ!
ギュッ!
ミマが正面から抱きつき、勇太は押し倒される。
む、胸が……。
心地よく感じながらも、勇太の意識がはっきりとしてくる。
「お、俺はどのくらい寝てたの?」
「ほんの、2、3分だケロ! 苦しいケロ! 離れるケロよ!」
押されて
苦しいいう言葉に、勇太は大事なことを思い出した。苦しかった元凶。
「ミ、ミマ! ガーゾイルは?」
怒りの影がミマを包む。
「あたしはガーゾイルを恨むのですわ。好物のスクマミロンを使って、あたしを苦しめ、さらに勝手にあたしの剣技を解放したのですわっ!」
スクマミロンを毒として利用し、勇太に隠していた剣の技を代わりに使ったのだ。
「そ、それは分かるけど、着てた呪いのビキニ、あ、呪いの服はどうなったの?」
ミマが勇太から離れて指を差した。
「そこに、つぶれていますわ!」
呪いのビキニがトップもボトムも、ペラッと芝生の上にひれ伏している。
芝生は雨を吸い込んで青くみずみずしい。そんな立ち昇るような生命力が、闘いの終わりを告げていた。
「呪いの服を、そのままにしてて、いいの?」
「もう風もありませんし、少しくらい大丈夫ですわ。そんなことはいいとして、勇太、ありがとう、なのですわ! 呪いを解いてくれて、ありがとうなのですわ!」
ミマが立ち上がり、改まって頭を深々と下げた。
「俺こそ、信じてもらえない毒見役でゴメン」
勇太は体を起こし座ったまま頭を下げた。痛みのために、まだ立ち上がることができなかったのだ。
ミマこそ慌てる。
「そ、そんなことございませんわ。
あたしが勇太の言葉を信じられれば、こんなことにはなりませんでしたわ。あたしの方こそ、恥ずかしくて、恥ずかしくてたまりませんわ。
スクマミロンを食べたい想いが強いあまりに、勇太を信じ切れませんでしたの。だから、あたしが悪いのですわ」
ミマはちょっとうつむいた。だが、すぐに顔を上げて続ける。
「そんなあたしに、勇太はスクマミロンへの想いが、一番強い心の力と教えてくれましたわ」
勇太がスクマミロンを食べて、皮を落として見せたことを言っているのだ。
そして、ミマが晴れやかな顔を見せる。
「だから、あたしは正気を取り戻せましたわ!
あたしがガーゾイルの呪いを跳ね返せたのは、勇太のお陰ですわ。スクマミロンの想いを教えてくれた勇太を、あたしは最後に信じることができたのですわ!」
信じることにたどり着いたとは、言い過ぎと勇太は思ったが、それはミマの感覚と考え、特に否定はしなかった。
そのミマが最後に宣言する。
「信じる力の勝利なのですわ!」
聞いた勇太は、ああ、ミマは信じた自分に酔いたかったのだ、と理解した。
ミマの宣言と同時に、心地よくも暖かいそよ風が吹き、雲の間から日光が差し込んでくる。
頬を明るく照らされた勇太の心は、雲1つないくらいに晴れ渡ったのは言うまでもなかった。
【ミマも勇太も元に戻ったのでした。めでたしめでたし、と言いたいところですが、チクミの点滅は続いています。次回は『第九章 命がけのジャンケン』です】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます