第九章 命がけのジャンケン

第35話 第九章 命がけのジャンケン(1/2)

【約2500文字】


【トロピ界に召喚された勇太は、ラスト勝負に勝たないと無事に元の世界へ帰れない。あと1回しか使えなかったジャンケンの勘を解毒剤探しに使ってしまい、もう勘を利用したジャンケンは使えない。純粋なジャンケンでラスト勝負に臨むのだった】




   第九章 命がけのジャンケン


 ミマは『スクマミロンを食べたい』という強い執着心によって、ガーゾイルの呪いを跳ね返し、呪いのビキニを脱ぐことができた。


 その執着心を思い出させたのが勇太だったので、ミマは感謝して芝生の上に勇太を押し倒して抱きついていた。

 勇太もその胸の感触に、心がふわふわだった。


 しかし、2人に挟まれたチクミは、それどころではなかったのである。チクミはミマの左胸に貼られ、勇太が元の世界に帰る時に必要なカエルシールだ。

「お楽しみのところ悪いケロ」


 ハッ!

 勇太もミマも我に返った! 『お楽しみ』と言う恥ずかしい言葉に、慌てて立ち上がったのだ。


 達人のエキスのために全身が痛かった勇太であったが、異世界人のためか回復が早く、もう痛みは引いていた。


 落ち着いてあたりを見ると、領主やナーガや毒師のピコナを始め、衛兵やメイドたち、大勢のギャラリーが2人に注目している。

 勇太もミマも恥ずかしいばかりであるが、1人、チクミだけが神妙な顔をしていた。


「あっしの点滅が少し速くなったケロ。

 このままでは、あっしは赤に変わってしまうケロ。早いところ、ラスト勝負のジャンケンをするケロよ。

 あっしはカエルだから、勇太が勝って緑のカエルになりたいケロ」


 チクミが言うように、点滅速度が目測で2割くらい速くなっている。

「そうか、その時が近づいているのか……」


「そうケロよ、念のためにもう一度、ラスト勝負のルールを説明するケロ。


 ラスト勝負は勇太とミマのジャンケン勝負ケロ。依頼者であるミマには、勝負を放棄する権利があるケロ。どうするケロか?」


 放棄とは、勇太が悪い異世界人だったりして、強制送還させたかったり、二度とトロピ界に来れないようにしたかったりで、焼死させることを意味している。


「放棄なんて、とんでもございませんわ! 勝負いたしますわ!」

 ミマには勝負への意志がみなぎっていた。


「分かったケロ。ジャンケン勝負は1回ケロよ。

 勇太がミマに勝たない限り、あっしは緑にならないケロ。あいこは負けと同じケロよ。注意するケロね。


 勝っても負けても、あっしの色はすぐに変わらないケロ。弊社へいしゃ本部が承認してから、色が変わるケロよ。勝ったからといって、慌ててがしてはならないケロね。


 あっしが緑に変わってから、勇太自身の手で、あっしを剥がして、自分のどこかに貼るケロ。肌の上ならどこでもいいケロよ。


 そうすれば、無事に元の世界に帰れるケロ。


 もし、あっしが赤になったら、特に剥がす必要はないケロ。

 緑でないシールは霊体には粘着力がないから、例え貼ろうとしても貼れないケロよ。そして、あっしが貼られてないと、残念ながら勇太は帰った先で焼け死ぬケロ。


 これで一通りの説明が終わったケロよ」

 チクミは必要なことだけを言って終えた。


「お別れですね」

 ミマが勇太の両手を握る。


「死に別れかも知れないけどね」

 冷や汗が勇太のほおを流れた。


「そんなことさせませんわ! 契約破棄となりましたが、ラスト勝負はきちんとやりますわ。勇太は得意なジャンケンで勝てばよろしいのですわ! どうぞ、触ってくださいまし」


 クイッ

 ミマが顔を赤らめて胸を張り、左胸のカエルシールを突き出した。


 思い切って突き出したものの、恥ずかしさのあまり、チクミの載っている胸が小刻みにフルフルと震えている。


 勇太のジャンケン能力はチクミに触っている時に、1回だけ使えるとミマは思っているのだ。


 蛇のナーガがニョロニョロとやってきて、沈痛な面持ちでミマを見上げた。

「姫様は、毒で意識がなかったから知らないっすね」


 雰囲気がおかしい。周りの人たちの表情からも、ミマは只ならぬものを感じ取った。


「ナガイ、何かあったのですか?」

 ミマはナーガをナガイと呼ぶ。


「あったっすよ!

 勇太はラスト勝負で使うはずだった能力を、姫様の解毒剤を探すのに、使ってしまったっす。


 つまり、勘を使わない純粋なジャンケン勝負になったっすよ。勇太がチクミを触る必要がなくなったのは良かったっすけど、勇太の勝つ確率は3分の1になったっす」


 ミマの顔から血の気が引いていく。

「なんてことですの! あたしのために、勇太の身が危険になったのですわ!」


「俺が決めたことだよ。ミマを助けたかったんだ」

「あたしのせいですわ!」

 ミマは両手で顔を覆い、しゃがみ込んでしまった。


「急ぐケロ、あっしの点滅がまた速くなったケロよ!

 ラスト勝負をやらなくても時間になれば、あっしは赤に変わるケロ! あっしは青ガエルになりたいケロ!」


「わ、分かりましたわ」

 立ち上がったミマの顔は涙でビチョビチョだ。


「ワザとあたしが負けますわ! あたしは、パーを出しますわ! 勇太はチョキを出すのですわ!」


「ダメダメダメッ! ダメケロッ! インチキは絶対にダメケロよっ!


 申し合わせによる勝負は禁止ケロ!


 本部に知れたら、あっしは即赤ガエルケロ! と言っても、本部にはあっしを通して筒抜けケロ! もうダメだケロ~~っ!

 あっしは、赤ガエルケロ~~っ!」


 初めてチクミが血相を変えた!

 ミマの左胸をビュンビュンと揺らしている。


 勇太も青ざめた!

 全員が黙ってチクミの色に注目する。


 ピカ スン ピカ スン ピカ スン ピカ スン

 白い点滅のままだ。赤にならない。


「変化なしっすね」

 ナーガが沈黙を破る。


「よかったケロ~~。変化がないってことは、本部がラスト勝負の継続を認めたケロよ。


 でも、インチキは絶対に認められないケロ。

 もし、勇太がチョキで勝ったら、ラスト勝負は無効となって、あっしは赤ガエルケロ!


 勇太は焼死が決定ケロよっ! よくよく肝にめいじておくケロね!」


 チクミは勇太とミマを交互ににらんだ。


「ごめんなさい、ですわ!」

 ミマの目に涙があふれてくる。


 インチキ判定による焼死をまぬがれた勇太であるが、ミマの様子を心配する。

「ミマ、大丈夫だよ、俺たちがインチキをしなければいいんだ! 俺は絶対にチョキを出さないから、ミマも絶対にパーを出さなければいいんだよ」


 勇太は出せる選択肢がせばまってしまい、困ったような複雑な表情。

 そんな顔に、ポッと明かりがともった。


 あれ? っと勇太が気付いたのだ。

 待てよ。これって、大きなヒントなんじゃないの?






【勇太はラスト勝負のジャンケンに何か気付いたようです。勝機が見えたのでしょうか?】





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