第36話 第九章 命がけのジャンケン(2/2)
【約3900文字】
【勇太は焼死を
「ミマ、大丈夫だよ、俺たちがインチキをしなければいいんだ! 俺は絶対にチョキを出さないから、ミマも絶対にパーを出さなければいいんだよ」
勇太は出せる選択肢が
そんな顔に、ポッと明かりが
あれ? っと勇太が気付いたのだ。
待てよ。これって、大きなヒントなんじゃないの?
ミマは雑な手つきで涙をぬぐうばかり。
「ゴメンですわ! ゴメンですわ!」
「ゴメンと言っても、ダメケロ!」
厳しい表情でミマを見上げるチクミ。
「絶対にダメケロ! もう一度、同じような申し合わせがあったら、即、あっしは赤ガエルケロよ!」
出せないのが2つになったら、もうジャンケンではないし、チクミも赤ガエルになりたくないのだ。
「勇太、ゴメンですわ。勇太の命がかかっていたのですわ。それなのに、わたしの軽はずみで、危険なことになるところでしたわ!」
ミマは自分の失態を責めて、何も気付いていない。勇太はこれ見よがしに繰り返す。
「いや、いいんだ。俺は、チョキを出して勝てなくなったってだけだから、ミマも何を出すかを、よーーーーく考えてよ。俺もよーーーーく考えるから」
勇太の『よーーーーく』と言った声に、ミマの顔にも明かりが灯る。気付いたようだ。
「あっしの点滅がどんどん速くなってるケロ! 急ぐケロよ!」
チクミは何も気付いてない感じ。
せっかく、ヒントに気付いたのだ。勇太もよーーーーく考えたい。
「分かったよ。急いで考えるから」
ミマのパー出し宣言は、大きなヒントだ。
チクミがダメって言ったから、俺はチョキを出せないし、ミマはパーを出せない。
グーは2人とも出せる。
2人でグーを出したらあいこだ。
あいこも負けだから、グーは危険だ。出せないぞ。
つまり、俺はチョキとグーを出せないんだから、残りはパーしかないじゃないか!
よし、決まった!
ミマも晴れやかな顔になっている。勇太を生かす糸口を見つけたようだ。
2人を見て、チクミが声をかける。
「それでは、ラスト勝負ケロ!」
ミマと勇太が、互いに見合う。
「「最初はグー ジャンケン ポン!」」
勇太、パー
ミマ、チョキ
勇太の負けっ!
「ま、負けた~~っ? な、なんで、ミマがチョキなの?」
何がどうして、そうなったっ!
「どうして、勇太がパーを出すのですかっっ?」
心乱れるミマである。
「だ、だって、俺はチョキを出せないし、ミマはパーを出せないだろう。
だからといって、2人でグーを出したら、あいこになって、あいこは負けと同じだから、俺はグーを出せなんだ。
残りはパーしかないじゃないか!」
すれ違うはずのない思いを吐き出した。
「バカですわっ! あいこしか考えずに、消去法ですわ! 勝ちと負けもきっちりと考えるのですわ!」
「だ、だって、あいこも負けって言うから……」
母親に
「あいこだけでなくて、全てを考えてから決めるのですわ! たった4通りしかないんですのよ!
あたしは絶対にパーは出せませんわ!
だから、あたしの残りはチョキとグーですわ!
勇太はパーとグーだから、
勇太パー あたしチョキで 勇太の負け ●
勇太パー あたしグーで 勇太の勝ち ○
勇太がパーを出すと、勇太の勝ちと負けですわ(○●)。
でも、
勇太グー あたしがチョキで 勇太の勝ち ○
勇太グー あたしグーで あいこ △
勇太がグーを出せば、勇太は勝ちとあいこ(○△)ですわ。勇太の負け(●)はないのですわっ!
あいこも負けと同じですけど、あたしが勝たないグーを、勇太も選ぶと思ったのですわっ!」
ミマが、一気に想いを吐き出した。
「あー、4通りしかなかったのか。それを全部考えてから決めるのか。あいこも負けだから、あいこにとらわれ過ぎちゃったよ……」
勇太はジャンケンの組み合わせが何通りあるのかも知らなかった。いつも勝つので考える必要がなかったからである。
なので、この勝負が、たった4通りしかないことにも気付かなかったのだ。
あいこも負けと同じである以上、グーもパーも確率的には同じである。
ただ、勇太がグーを出せば勇太に負けが無い。
ミマにはそれが、より有利に見えたのだ。
チクミもグーとパーのどちらが有利となるわけでもないと、気付いていたので特に何も言わなかったのである。
ただ、ミマのパー出し宣言で、勇太の焼死確率は低下していた。
3分の2から2分の1に下がったのである。
それでも本部が認めたのは、契約破棄となったとはいえ、勇太の活躍を考慮した結果とチクミは思っていた。
ミマは涙をポロポロ。
「勇太も自分が負けない方を選ぶと思ったのですわ!
あーーーーーーーーーーんっ! 勇太! 勇太!
こんな、お別れなんて、嫌なのですわっ!
わーーーーーーーーーーっ!」
ミマは、なにもかも開けっぴろげて、わーわーと泣き出した。
「ゴメン、俺、ジャンケンで読みなんて、やったことがなかったから……」
勇太はジャンケンの勝ちが分かるので、読みを使う経験が全くなかったのだ。
そのことも浅い考えにつながっていた。
ミマは泣きじゃくるばかり、ナーガの
もう話せる状態じゃなかった。
これで、勇太は元の世界に戻ったら焼死となる。
怖くてたまらない。
誰でもいいから話していたい。なので、チクミに質問しようと思った。
それに、チクミはミマの胸に貼ってあるシールだから、『チクミを見る=ミマの胸を見る』なのだ。女の子の揺れる胸を見て怖さを紛らわしたいという気持ちもあった。
「なあ、チクミ! どうして人体発火なんてしちゃうんだよ!」
「シールを貼ってないからだケロ」
簡単過ぎる答えだ。勇太が知りたかったのはそれではない。
だが、案の定、チクミはしゃべる
「そうじゃなくて、どうして肉体が発火しちゃうんだよ。体のどこにも火なんてないじゃん」
「あっしが知っているのは、霊体にエーテルが溜まっているからだケロ。勇太の体は霊体ケロ。元の世界に戻ると、霊体と一緒にエーテルも肉体の中に入ろうとするケロ。
でも、肉体にはエーテルが入る場所がないケロよ。
だから、肉体から
思いもよらない原因だった。
エーテルは、ミマの治癒魔法に使われたり、ナーガの蛇剣に使われたりしている。
また、この世界の人たちが水着なのも、空気に含まれているエーテルに多く触れていると、健康長寿でいられるからなのだ。
勇太はエーテルを有用な気体ぐらいにしか思っていなかった。
「そもそも、どうして、そのエーテルが霊体に溜まるんだよ」
「浸み込みやすいんだケロ。
霊体は空気に触れているだけで、エーテルが染み込んでしまうんだケロ。
でも、一定量染み込んだら、それ以上は染み込まないケロよ」
と言うと、チクミはミマの胸を揺らした。
当のミマは目の前で交わされる会話なんて、耳に入らずに泣き続けている。
続けて勇太がチクミに聞く。
「じゃあ、どうしてチクミが貼ってあると平気なんだ?」
「緑色になったシールもエーテルを吸い込む性質を持つケロ。霊体に貼ると染み込んだエーテルを全部吸い込んでしまうんだケロ。だから、人体が発火しないケロよ。
そして、勇太の世界に行けば、あっしはエーテルを少しずつ熱として放出するケロ。もし、帰った先が冬ならば、ワンシーズンたっぷりとあっしをカイロとして使えたケロね」
シールにはそんなカラクリがあったのか。納得してしまう勇太であった。
「でも、俺はチクミを持って帰れないんだよ……」
それに帰る先は5月、特にカイロはいらない。
焼死とシールの疑問は一応解消された。特に聞くことがなくなり、会話が途切れてしまった。
話していた時には気が
俺はもうすぐ死ぬ。焼け死んでしまう。
どんなに熱いのだろうか? 苦しいのだろうか? 火を吸い込んで肺まで焼けないだろうか?
人生が終わると言うよりも、勇太は死の瞬間に恐怖した。顔を覆いたくなるくらいの恐怖が
本当に俺には希望なんてないのか?
まず燃えるのはエーテルだ。俺の体そのものじゃない。エーテルの火を消せば助かるかも知れない。帰ってすぐに水をかぶればなんとかなるのかも。
帰る先は授業中の教室である。
勇太の席から一番近い水道は女子トイレだった。この際、なんと言われてもいい、燃えながら女子トイレに駆け込もう。どうせ授業中だ、トイレには誰もいないさ。
でも、走ったら息が荒くなるよな、肺に火が入ったら苦しいだろうから、火が大きくなる前にたくさん空気を吸って、息を止めて走ろう。
そして、トイレに着いたら、蛇口を開けて水をかぶるんだ。
そうだ、掃除用具入れの中にあるモップ洗い用の流しが広そうだし、蛇口も普通のやつよりも大きい。きっと女子トイレにもあるはずだ。
流しに頭や体を突っ込んで、水を浴びるんだ!
水を浴びればきっと大丈夫だ!
だから、スピード勝負だ! 全力で走ろう!
でも、もし、たどり着けなかったら俺は廊下で焼け死ぬんだな……。
そうならないためにも、精一杯走るんだっ!
そして、チクミを見ながら、勇太はミマの胸の感触を思い出した。
解毒剤を特定した時に触ったミマの柔らかい胸である。
へへへ。
触った手を見ながら思い出すと、勇太の恐怖は少しだけ和らいだのだった。
すでにチクミの点滅は止まっている。もう赤に変わるのを待つばかりであった。
【絶体絶命の勇太! 学校に自分の霊体が戻ったら、人体発火が始まってしまうのでしょうか? 本当に水をかぶれば助かるのでしょうか? 次回は最終章『第十章 放たれた呪いのビキニ』です。夢落ちなんて嫌ですよね。さて、『結末やいかに!』ですよ】
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