第十章 放たれた呪いのビキニ

第37話 第十章 放たれた呪いのビキニ(1/3)

【約2700文字】



【異世界に召喚された勇太は、ラスト勝負に負けてしまい、元の世界に帰ったら人体発火による焼死が決定した。そして、いつ帰されても、おかしくない状況にあったのである】



   第十章 放たれた呪いのビキニ


「おーい! そこの人! この領内には、盗賊がいるぞ! どこに届ければいいんだ?」

 金属製のビキニアーマーをまとった女剣士が、勇太たちがいる中庭に入ってきた。


 びっくりしたのは領主である。

「お前は誰だ? どうやって、ここに入った!」


「ボクの名前はパル・ルックだよ。盗賊の情報を教えたいと言ったら、普通に入れてくれたんだ。門番じゃ分からないから、中で聞けって」

 なんとも、あっけらかんと答えた。


 そう、彼女は呪いのビキニに取り憑かれ、ミマを襲った女剣士のパルなのだ。

 見ると、アーマーより少し大きめな、濃いブルーのインナービキニを着けている。どうやら、新しいビキニを調達したようだ。


 一方、勇太はバスタオルの上にひざを抱えてる座り、焼死という恐怖と戦っている。ミマは勇太と背中合わせに座り、しくしくと泣くばかりだ。


 そんなどんよりとした所へ、明るい顔をしてやってきたパルであった。

 場違いもはなはだいくらいだ。


 領主は困った顔をする。

「全く! 今の門番は新入りか? ホイホイと人を中に入れたら、門番の役に立たんぞ!


 えーと、だなあ、盗賊の詳しい情報は門に戻って、門番に……って、おいっ! 聞いているのか?」


 パルは芝生の上にしゃがんで地面を見ている。

「あっ! これっ! ボクが盗られた服だよ! もう盗賊を捕まえたの?」


 そのまま呪いのビキニをつかみ上げて、ヒラヒラさせながら不思議そうに見てるじゃないか!


「おいっ! こらっ! その服に触ってはならんっ! 早く放せっ! すぐに捨てよっ!」

 領主が慌てるのは無理もない。


 呪いのビキニに触ったら、ガーゾイルに体を乗っ取られるのだ。近くにいた衛兵たちも身構えた。


 キンと空気が緊張する!


 しかし、パルにはそんな空気を気にする様子もない。

「何言ってるのさ! これはボクの……」


「こいつは大丈夫っす!」

 蛇のナーガがパルの言葉をさえぎった。ニョロニョロと領主の所へ寄ってきて安心の表情を見せる。


「へ、蛇がしゃべってる!」

 パルは驚いているが、ナーガも領主も相手にしない。


 領主は別の意味で驚いているのだ。

「なぜだ? どうして、こいつは、呪われないんだ?」

 そばまで来たナーガを、疑問でいっぱいの顔で見下ろした。


「このパルというやつは、別の服で呪われてたっす!

 一度呪われた人間には、他の呪いが入り込めないんすよ。例え同じ人物の呪いあっても、服が違えば違う呪いになるっすからね。


 つまり、他の呪いには耐性ができているっす。同じ服の呪いには、何度も操られるっすけど、違う服には平気なんすよ」

 やはり、ナーガは呪いに詳しい。


 領主には安堵感。

「なら、お前がその服を持つと良い。放すなよ!」

 パルを睨みつけた。


 当人はせない顔。

「放すなって、元々これはボクの……クンクン! うわっ! スゲーくさいな! 盗賊のニオイか? 強烈だよっ!」


 ポイッ!

 惜しげもなく投げ捨てた。


 領主が目をく!

「おいっ! こらっ! 持っておれと言ったばかりではないかっ!」


 見ていたピコナだって、黙っていられない!

くさいとは悪かったな! それは、わたしが着ていたのだ! に、2週間ほど着っぱなしだったから、……た、多少はにおうだろうさ……」


「違う! 違う! この柄はボクのだよ」

 パルも所有権を引っ込めない。

「何を言う! ついさっきまで、わたしが着ていたのだ! わたしの服だ!」


「おいおい! このサイズはキミの胸には大き過ぎるだろう?」

 パルは投げた呪いのビキニを、芝生の上に広げて見せた。


「失敬な! 問題無く着れてたぞ! この服はデザイン的にサイズフリーなのさ! この紐をこうして、こうすれば……」

 ピコナは触れないのがもどかしいのであるが、身振り手振りを駆使くしして着ていたことを証明しようとする。


 パルはそんな主張は一蹴したい。

「とにかく、これはボクの服だよ!」

 何度も呪いのビキニに指を差す。


 そこへ、領主がピコナを押しのけ、パルの正面に回った。

「おい! お前! これと同じ柄の服を持っているのか? 今、探しているのだ!」

 領主も呪いのビキニに指を差した。


「だからーーーー、この服を盗賊に盗られたんだよ。


 そこで塞ぎこんでるような、男女2人組みの盗賊にっ! ……って、よく見たら、お前らがその盗賊じゃないかっ! なーんだ。もうらえたのか!」


 嬉しそうに、勇太とミマを交互に指差す。


 勇太は焼死が決定しているので、今さら盗賊と呼ばれても何も感じなかった。反論する気もない。


 領主が代わりに教える。

「その娘はサマルカンドの姫だ。隣の少年は異世界人で焼死が決まったところなのだ」

 遠慮も気配りもなかった。


「いくら、ボクの服を盗ったからって、焼死刑はあんまりだよ」


 ずれているパルであるが、勇太は何も言う気になれない。その焼死刑を前にして、何も感じなかった。


 でも、ミマは違った。

 涙を拭いて立ち上がると。


 ダダダッ!


 怒涛どとうの勢いでパルとピコナに迫る。

「あなたたちは、どうやって、その柄の服を手に入れたのですか?」

 2人に問いかけた。


 のけぞってしまうパルもピコナ。

「ボ、ボクは、今朝、すぐそこの市場で買ったんだよ」

「わ、わたしも2週間前に、この前にある市場で買ったんだ」

 血相変えたミマに、たじろぎつつも、パルもピコナも正直に答えた。


「領主様っ! 市場で呪いの服が売られていますわっ!」

 今度は領主に訴えるミマである。


 領主は少々バツの悪い顔をする。

「ああ、少年には言ったのだが、実はな、その服っていうのはな、始めは、この屋敷の蔵にあってだな、わしが事情を知らずに市場へ売りに出させたのだよ。ゴメン、悪かったと思っている」


 ミマは、そんなことは気にしていない。

「その件はもうよろしいですわ。それで、呪いの服は2着だけだったんですの?」

 メッチャ真面目な顔で領主を見つめた。


「10着以上はあったから、回収を命じておるのだ」

「回収? どこに保管しているのですか?」

 ミマは、領主に食いついて離れない。


「それがな、命じたのはついさっきでな。回収できたのか、連絡がまだないのだ……」

 いまだに報告はなかった。


「ご主人様! あの服は完売です。13着全て売れました。売り子も持っていませんでした」

 ちょうどそこへ、市場へ行っていたメイドが報告した。

 実はパルの少し後に戻っていたのだが、パルが呪いのビキニに触ったりして、報告のタイミングをいっしていたのだ。


 ミマは領主から離れ、完売の意味を真剣に考える。

「と、いうことは、持ち主が分からない呪いの服が、世の中に出回っているのですわ!」


 そんなことをつぶやくと、ボトムビキニの内側をごそごそと、まさぐり始めた。


 すぐに何かを取り出し、つまんだその手を高く掲げた。

 ミマが持っているのは、名刺っぽい長方形の紙片である。










【勇太と一緒に塞ぎこんでいたミマが動き出しました。いったい何に気付き、何をしようというのでしょうか?】







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る