第32話 第八章 姫がラスボス(2/4)

【約5400文字】



【勇太がピコナのボストンバッグに気を取られている間に、ミマが呪いのビキニにさわり、ガーゾイルに取り憑かれてしまった。ガーゾイルはミマを殺したいのだが、呪いは自殺ができないので、弱い者を殺してかたき討ちに合おうとメイドを襲う。しかし、メイドにけられ、衛兵たちに取り囲まれてしまったのだった】



 ガーゾイル1人に、10人がかりだ。取り憑かれているミマの身が危ない!


「や、やめて! ミマを傷つけないで!」


 バッ

 領主が待てと言わんばかりに、開いた手を勇太に向けた。

「何を言う、異世界の少年よ!


 姫は手練てだれぞ! あの人数でやっと互角だ! 命は奪わんが、多少のケガは覚悟しておけ!


 衛兵でダメなら、わしが出ようぞ」

 どうやらミマは強いようだ。領主は剣の実力者として扱っていた。


 それでも勇太はミマが心配だ。

「ケガなんて、ダメだよ! ビキニを、いや、服をげばいいじゃないか!」

「それも命じているが、姫の強さの前では、難しいであろう」


 チャンッ! チャンッ! チン チン

 そんなことを言ってる間に始まってしまった!


 領主は互角と言っていたが、そうではない。たった1人のビキニに衛兵たちが押されている。


 衛兵は傷つき、1人2人と囲んでいる輪から抜けていった。

 勇太には、思いもよらない展開だ。衛兵にミマを傷つけることは難しそうだ。しばらく様子を見守る。


 劣勢を打開しようと、2人の衛兵が示し合わせた。

 左右からほぼ同時にガーゾイルに襲いかかったのだ。


 ガーゾイルは剣を右へ。


 チョン!

 その切っ先を、右から迫る剣の切っ先に軽く当る。軌道をずらした。


 ビュン ガチンッ

 と思ったら、左手1本で素早く剣を返して、左から来る剣を受け止める。


 ズゴンッ!

 と同時に、右パンチ! 右の衛兵を、顔面から殴りつける!

 剣の軌道がれていたので、素手で十分だったのだ。

 この時、一瞬、体が左右に開いたように見えた。


 クル

 すぐさまガーゾイルは左を向く。右の衛兵が倒れるところなんて見届けない。


 ビュッ!

 殴った右手を素早く引き戻す。

 その勢いのままに右手を剣のつかに当てて、体重を乗せるようにして左の衛兵に超圧力!

 ガーゾイルの片足は浮き、衛兵の体は弓のよう。


 ドスン

 頭から衛兵を地面にたたきつけた。後頭部を打った衛兵は気絶してしまう。


 だが、まだ終わっていない!


 ダダ ダダ

 正面と背後から別の衛兵たちが斬りかかる! 左右に体が開いた体勢を隙ととらえて、同時に突っ込んでいた。


 タン

 ガーゾイルが、正面の衛兵のつま先に、自らの足の裏を当てた!


 速かったので、もう一度。

 ガーゾイルは、左の衛兵を叩きつけたままだったので、体勢が低い。

 そのまま、正面に1・2歩踏み込んでから、右足を地面すれすれに伸ばしたのだ。

 股割のように、両足が一直線になるまで足を開いて、伸びた右足の足の裏を、正面から来る衛兵のつま先に当てたのである。


 正面の衛兵は、思った以上に伸びた足に対応ができない。バランスを崩され前のめりだ!


 間髪入れずに、ガーゾイルが勢いよく立ち上がる!


 ドン

 正面の衛兵がガーゾイルの背中に乗った!


 バタン

 背後から来た衛兵へと、背中から放り投げたのだ!


 ガーゾイルからしてみれば、股割の足をスッと戻して、勢いよく立ち上がったに過ぎない。

 手も使わずに、背後から来た衛兵に、正面の衛兵をぶち当てたのだ。


 ガーゾイルは左右だけではなく、前後からの時間差攻撃を、瞬く間に退けたのである。


 ガーゾイルの方が、圧倒的に強い!


 ガーゾイルは取り憑いた人間の能力を使っている。つまり、これはミマの強さなのだ。


 勇太は改めて聞く。

「ナーガ、ミマって、こんなに強いのかよ!」

「当然っす! アタイを操っていたっすよ! もう、達人のエキス抜きでも、20人の盗賊を倒せる腕になってるっす」


 ナーガによると、女剣士パルが襲ってきた時、ミマ1人でも簡単に倒せたらしい。


 なぜ逃げたのかとナーガが聞くと、ミマは勇太に強いところを見られたくなかったと言ったそうだ。

 どうやら、剣が強い女と思われたくなかったらしい。


 倒せる自信があったので、勇太が斬られた時も、逃げながら余裕で治癒魔法を使えたのである。


 あとはナーガの推測であるが、ミマは姫として守られたいという思いに駆られ、勇太にナーガを託して、別荘に隠れて待ったようなのだ。


 その別荘の時、勇太が逃げろと言っても逃げなかったのは、自分のために闘う勇太の雄姿を見ていたかったからだろうとナーガは付け加えた。

 逃げなかった理由を聞いた時に、ミマは『ナイトが必要』とか言っていたが、やはり誤魔化ごまかしだったようだ。


「ミマは強いのに姫っぽく振舞っていたのか」

「アタイは、そう思うっす」


 勇太は、強くても可愛さには変わりがないのに、と思いつつも繊細な乙女心に触れた気がした。


 しかし、そんなミマが隠したがっていた力を引き出しているのが、このガーゾイルである。

 1人対多勢とは思えない闘いが繰り広げられ、ケガを負った衛兵たちが前線から退いていった。


 3分も経たない内に、衛兵は10数人から2人になっていた。


 思った以上にミマ、いやガーゾイルは強い!


 ザッ!

 勇太が飛び出す!


 チンッ!

 光る蛇剣で、ガーゾイルの剣を受け止めた!


「みんなは離れて! 誰かが死ねば、ミマを殺してでも止めようとする人が現れるかも知れない。


 それがガーゾイルの狙いなんだ!

 俺は達人のエキスを受けているから、俺がミマを引き受けるよ!」


「オレたちだって衛兵だっ! に、逃げてたまるかっ!」

 勇太より若くて真面目な中学生のような衛兵である。年の割には職務に忠実っぽい。


 でも、見た目は剣を持った海パン少年である。


 とても強そうに見えない。それに、これまでの闘いを見れば、実力差は否めなかった。


 ケガ人が増えるだけだと、勇太は心配した。

「家族や恋人が悲しむぞ! その点、俺は異世界人だし、不死身なんだ。2人は離れてっ!」


 不死身を持ち出したのはハッタリである。

 不死身といっても痛みがあって、死なないというだけなのだ。斬られれば、痛くて転げ回ってしまうことだろう。

 それでも勇太の傷はすぐに治る。他の人はそうではないのだ。

 それにも増して、人を傷つけるミマの姿を見たくなかったのである。


 勇太の気持ちを察したのか、領主が折れた。

「そういうことなら少年にまかす! わしも出るのを控えよう。衛兵は下がりなさい」


 残っていた2人の衛兵がガーゾイルから離れた。

 ビキニのガーゾイルと学生服を着た勇太の一対一となる。


 雨の中、闘志をむき出しにするガーゾイル。

「他の奴らには殺気がない! マジで殺す気があったのか? きっと、ないんだろうな。それじゃあ、この姫は殺せんよ。ケガでは私の呪いは成就せんのだ。

 だが、異世界の少年にはチラリチラリと殺気を感じる。しかも、達人クラスの殺気だ。なのに、こっちも殺す気はないようだ。

 そんなところが、鬱陶うっとうしいから、お前を先に倒してやる! その後で他の奴らを血祭りにあげるとしよう!」


 ガーゾイルは勇太が受けている達人のエキスに気付いていた。達人のエキスから殺気を感じていたのである。

 そして、その殺気に期待している。

 鬱陶しいとか言っていたが、それはウソで、勇太から殺すほどの殺気を帯びた一撃があれば、自分から無防備になろうと考えたのだ。

 誰かを殺して返り討ちに合うまでもなく、ミマを殺してもらえるという訳だ。


 チャンッ! チンッ!


 雨中の攻防!


 勇太は達人エキスを受けているのに、ガーゾイルの方が優勢だ。

 ナーガは達人のエキスを5パーから少しずつ上げているのだが、ガーゾイルに押され気味だった。


 ギギギッ

 鍔迫つばぜり合い!


 ミマの顔が近いが、まるで別人である。

 歯を食いしばり、敵意をむき出しにしたガーゾイルになっていた。優しいミマの顔はどこにもなかった。


 見ていられない。

 勇太が力づくでミマを突き放した!


 ジンッ! チャンッ!

 ガーゾイルは攻撃を待たない。


 勇太は闘いながらナーガに相談する。

「どうすれば、俺は勝てるの?」


「今のままじゃ、負けるっすね! でも、とっておきの必殺技が1つあるっすよ!」

 蛇剣の中にいるナーガがニヤリと不気味に微笑んだ。


「何だよ、その技って?」


 ザーーーー ザザザ ザーーーーーーーー

 急に雨が激しくなる。


 それを機に勇太は間合いをとった。話の続きを聞こうと思ったのだ。


 雨のためにガーゾイルも一呼吸置いた。

 いや違う、ガーゾイルは自分の代わりに、取り憑いているミマを殺してもらいたいのだ。

 勇太と蛇の算段をゆるせば、殺気を帯びた必殺技を受けられる。その時、無防備になればよいと期待したのだった。


 一方、勇太とナーガ、雨音が大きいので、ガーゾイルには話を聞かれないですむ。好都合だった。

「なあ、何だよ、その必殺技って?」


「達人のエキスを100パーにするっすよ。

 実は姫様がアタイを使っていた時には、ある理由から100パーの経験がないっす。姫様が、その実態を知らない100パーの必殺技を勇太が使うっすよ。

 ガーゾイルは姫様以上の能力はないっすから、対処できないはずっす。

 ただ、勇太は全身がメッチャ痛いっすから、100パーは数分しか持たないっすよ。

 でも、これは剣の勝負ではないっすからね。

 その数分の間に、必殺技を使って呪いの服を剥げば、こっちの勝ちっすよ!

 つまり、痛みに耐えて服を剥ぐか、耐えきれずに、ぶっ倒れて動けなくなるか、という一か八かの大勝負っすね!

 そんな方法っすけど、やるっすか?」


「勝算があるの?」

「十分あるっすよ! でも、そこは勇太の我慢次第っすね」


 ナーガにはもう1つ2つ隠し玉があったが、あえて伏せた。勇太に全力を出させるためである。


 一方、勇太はパルに斬られているので、痛い体験は二度と御免だった。しかし、そのために初めてという訳ではない。

 それに、ラスト勝負の時間切れもある。

 四の五の言ってる余裕はなかった。


「ああ、やってくれ!」

「なら、いくっすよ!」


 ギュイーーーーン

「い、いい、痛い! くあ~~っ! とてつもなく、痛いっ!」

 歯を食いしばる勇太。

 痛みが全身の筋肉という筋肉に染みて、筋繊維の1本1本が締め上げられるように痛い。

 斬られた時は一箇所しか痛くなかったが、今は体のどこもかしこも痛いのだ。


 が、我慢だ! 苦痛の表情を見せる勇太。


 雨が弱くなり、勇太の顔を見て、算段も済んだと思ったガーゾイルが打ち込んでくる!


 チン ジャンジャン チン ジャンジャン


 押し返す、押し返す!


 勇太がガーゾイルを押し返す!

 100パーは半端ないぞっ!


 闘っているのは、もう勇太ではなかった。達人が成り代わっていると言っていい。勇太は筋肉の痛みをこらえているだけなのだ。


 あっという間に、ガーゾイルを追い詰めた!

 会食で使ったテーブルがガーゾイルの後退をはばんでいた。

 ガーゾイルは逃げられない。窮鼠きゅうそ猫をむぞという気持ちを、ミマの顔から作って見せる。


 しかし、これはガーゾイルの作戦、殺気を帯びた必殺技を誘っているのだ。


 そして、仕上げであろうか。勇太はこれまでにないくらいの威圧感をもって、達人のように蛇剣を構えた。


 今日の中で一番カッコいいポーズだ。

 さあ、お待ちかねの必殺技が繰り出されるのか?


 ガーゾイルは、その必殺技に殺気が帯びているのなら、無防備になろうと、そのタイミングをうかがう。


 と、その時、剣の中にいるナーガがニタリと笑った。

 カッコいいポーズのまま、勇太が叫んだ!










「ミマ! 愛してる! 子をそう!」










「へ?」

 と、ガーゾイル、いや、顔はミマに戻っている!

 あまりにも不意打ちだ!


 領主も、衛兵も、メイドたちも、ただただ、ひたすら唖然となる!


『お、俺じゃないよ!』

 痛みに耐える勇太はそう言いたかったが、自分の声は出ない。達人に乗っ取られたかのように、体の全てを使われている。


 そう、『愛してる』は達人の台詞せりふだったのだ。


 その達人はスケベで知られていた。好みの女性と見るやすぐに口説いていたのだ。

 エキスを100パーにすると体を乗っ取られて、スケベな行動に走るため、ナーガはミマに100パーの経験をさせなかったのである。


 チン

 その隙を突いて、勇太が、というより、達人がガーゾイルの剣を横へと弾くと。


 ダッ

 と、一瞬にして、ミマに密着するほどに接近した!


「無粋な服なんて脱いじゃってさ」

 シュッ シュッ

 右手でビキニの紐を2本ほどいた!


 呪いのビキニを留めている紐のうち、トップの背中と、ボトムの左である。


 パルは女剣士だったので、固結びだったが、マミは姫なのでチョウチョ結び、ガーゾイルは紐の結び方も乗っ取った人間の能力を踏襲していたのだ。なので、簡単にほどけたという訳だ。


 メイド達が、次なる展開にワクワクして見てる!


「さあ、子供を……」


 と、そこまで言ったところで。


「ぐあーーーーーー」

 勇太はミマを押し倒すように、テーブルの上へと倒れ込んだ。


 ミマの体に乗らないために、剣を手放して、腕立て伏せのように両腕で自身を支えようとしたが、痛くて力が入らない。

 そのまま万歳をするように、前方に腕を突き出して倒れてしまう。


 勇太がミマの上に乗ってしまった!


 はたから見れば、子を成そうと言って、ビキニの紐を解き、押し倒したかのように見える。


 メイドたちはキャッキャと騒いだのだが、そうではない。

 勇太が全身の痛みに耐えきれなくなったのだ。そう、達人のエキスを100パーにした限界が来たのである。


 残念ながら、呪いのビキニを留めている紐は、4本の内2本しか解けなかった。加えて、男女の展開も望めない。


 そして、もっと残念なことに、ミマの胸がクッションのように押し返す感触を、勇太は痛みのために感じとることができなかったのである。



 ハッと、ガーゾイルが我に返る。









【勇太は達人のエキスによる痛みのために、もうほとんど動けません。そう、痛みのために動けません。でも、何か動ける秘策が……。次回、ミマ戦の決着です!】

【今回は公募の時に書ききれなかった心の内を、後から大量に加筆したので、文字数が増えてしまいました。話数を分割していると時間がかかるので、文字数をそのまま増やしました。長くなってしまい申し訳ありませんでした】







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