第八章 姫がラスボス
第31話 第八章 姫がラスボス(1/4)
【約3400文字】
【占いババに毒殺されると占われたミマは、毒見役として勇太を召喚する。しかし、勇太はスクマミロンの合わせ毒を説明できずに、ミマから召喚契約を破棄されてしまう。その合わせ毒は毒師ピコナに取り憑いたガーゾイルの仕業であった。知らずにスクマミロンを食べたミマは、倒れて意識を失うのである。勇太はあと1回だけ使える勘によって、ガーゾイルが無用に用意していた解毒剤を特定してミマの命を救うことができた。使った1回だけの勘は、ラスト勝負のジャンケンに必要だった勘であり、今はもう使えない。ラスト勝負を普通のジャンケンで勝たないと勇太は焼死となるのである】
第八章 姫がラスボス
「ありがとう、ですわ。目が覚めましたわ。立たせてくださいまし」
メイドたちがミマを芝生の上に立たせた。
フラフラ
少しふらついているが、ミマは自らの足で立った。
心配なので勇太が手をとって支えた。
細くて柔らかい指。ひ弱と思ったが、握る力に生きる強さを感じた。
でも、勇太は言わずにはいられない。
「立ってていいの? 横になったら?」
ミマは、今にも倒れそうって程ではないものの、立つのが心もとない。
「だ、大丈~~夫ですわ!
それよりも、ゴメンなのですわ。
勇太の毒見が正しかったのですわ。本当にゴメンナサイなのですわ」
支えられて立つミマは、まだ調子が戻ってないのに、健気に頭を下げようとする。
勇太は手に触れているだけで、ミマの心に触れている気がした。
「もういいんだよ。こうやってミマが帰ってきてくれたんだ。それでだけでいいんだ……」
勇太はミマの指から伝わる暖かさを噛みしめていた。小学校の時にやった代理ジャンケンよりも、ずっとずっと嬉しかった。
ミマが1つ聞いた。
「あたしに意識がない間、勇太は鼻血を出しましたの?」
変な質問に首を
「全然なかったよ。どうしてそんなことを聞くの?」
「えっとー、そのー、治癒魔法で困らなかったのかな? とか思ったのですわ」
何か照れたように視線を
「誰にもケガとかなかったし、特に必要な場面はなかったよ」
「そ、それなら、よかったですわ」
慌てたような安心したような複雑な表情だった。
ザザーーーーッ!
ビチ ビチッ!
突然の大雨!
勇太の頭に、肩に、大粒の水滴が弾け飛ぶ。『バケツをひっくり返したような』とは、このことを言うんだろう。
冷たい風が吹いていたが、夕立の前触れだったようだ。
「「うわーーーーっ!」」
衛兵たちも、メイドたちも、みんな避難のため、何本かある木の下へ分かれて入る。
勇太もミマを支えて1本の木の下へ、衛兵たちの背中を追うようにして駆け込んだ。
「ああ、わたしの仕事道具がーーーーっ!」
ピコナの声が、少し遠くで聞こえる。
勇太とは違う木の下に入っていた。
ボストンバッグがテーブルの上で開いたままだった。激しい雨に打たれて、水煙を上げている。
勇太は解毒剤を持ってきたピコナに恩義を感じていた。
ミマを1人で立たせ、雨の中、ボストンバッグの所へ行き、外に出ている瓶やら箱やらを手早く入れると、ボストンバッグを
「ありがとう。たくさん濡れたけど、助かったよ」
ピコナはボストンバッグを傾けながら溜まった水を流し出す。
「ハハハッ! バカな男よ! 私から目を離すとはな!」
ミマの声だが、訳の分からないこと口走っている。
「見えないケロ! 視界が奪われたケロ!」
チクミも騒いでいる。
「あっ!」
勇太がミマと一緒に雨宿りに入った木を見ると、衛兵たちが取り巻く中、灰色のビキニを着たミマが立っていた。
その灰色のビキニとは、あの呪いのビキニである。
ビキニの紐が二重に見える。
サマルカンドの3本線があるビキニの上に、呪いのビキニを
チクミのカエルシールは
勇太がミマを連れて雨宿りに入った木は、呪いのビキニを結び着けた逆立ちの木だったのだ。
突然の雨で慌てたことに加え、木の下へは10人くらいの衛兵たちが先に入ったので、呪いのビキニはその陰となってしまい、当の勇太は気付かなかったという訳だ。
「
ミマが得意そうな顔を見せた。
考えるまでもなく勇太が叫ぶ!
「お前はガーゾイル!」
ミマの顔でニヤリと笑う。
「分かっているではないか。急いだから、サマルカンドの服にかぶせて着たのだ。だが、脱ぎ捨ててから、素肌の上に着たかったぞ!」
ミマの足元にはナーガ。
「姫様ーーっ! ごめんっす。アタイも変なカバンに気を取られたていたっすよーっ! 心を強く持つっす。心が強ければ呪いは跳ね返せるっすよ!」
ナーガもビキニの着衣に気付かなかったようだ。
「うるさい蛇め!」
ダダ
ミマというかガーゾイルは、木の下から夕立の中へ飛び出した。
ザザーーーーッ
ただ一人、芝生の上に立ち、大粒の雨を浴びている。
「私を
サマルカンドの姫は、すでに我が手の内ぞ!
よろけて私に触れたのだ。それが運の
シャンッ!
ミマ、いやガーゾイルが、いつの間にか持っていた剣を構えた。
「あっ、オレの剣!」
衛兵の1人が慌ててる。ミマと一緒に雨宿りしていた衛兵だ。かすめ取っていたようだ。
ヤバイ!
勇太はミマが
これまでのガーゾイルは、ミマを殺そうとしていたのだ。
「やめろ! ミマを殺すな!」
ダダダッ!
勇太が雨をかぶりながら、ガーゾイルのもとへ向かう。
ビチャッ ビチャッ ビチャッ!
激しい雨の中、ガーゾイルのすぐ前に来たが、自刃のそぶりはない。なぜか困ったような顔だ。
「残念ながら、私は自殺ができない。死ねば呪いが解けるからな。呪いが呪いを解く行為はできないのだよ。だから、自殺ができないのだ」
勇太は一安心。
ミマにガーゾイルが取り憑いている限り、ガーゾイルはミマを殺せないのだ。
「だがな、私は取り憑いた人間の能力を100パー(セント)使えるのだ」
ミマの別荘に来た女剣士パルは強かった。ピコナの時には、毒知識を利用された。
しかし、ミマの能力は治癒魔法である。
「バカはお前だな、ガーゾイル! 治癒魔法で何ができる!」
ガーゾイルは、気の抜けた笑み。
「少年、お前こそバカだな! 魔法を嫌う私が魔法を使うはずがないだろう」
アンチ魔法組合って言っていた。それだけに、魔法は嫌いなようだ。
「なら、ミマに乗り移って、何をする気だよ!」
ガーゾイルは再びニタリ。
「フンッ! お前は知らぬのか? こいつは蛇剣を使うほどの
ここにいる何人かを殺せば、止めようとして、または、殺された同僚の恨みで、この姫を殺すやつが居よう。
そいつに、このサマルカンドの姫を殺してもらうのだ」
ミマに人殺しをさせて、返り討ちに合う気だ!
「させるかっ!」
勇太が素手でガーゾイルの剣を奪おうとする。
「遅いわっ!」
クルッ!
ガーゾイルが向きを変えた!
ダッシュ!
1本の木に向かって駆け出した。
この中庭には、大きな木が何本か植えてある。
ガーゾイルが駆け出した先には、勇太がミマを連れて入った木ではなく、ピコナがいる木でもない、一番遠い全く別の木が立っていた。
そこではメイドたちが雨宿りをしていた。
ガーソイルの狙いはメイドたちだ! 弱そうに見えるメイドを殺せば、ミマが衛兵に殺されると
「ナーガ!」
勇太は大雨の中を走りながら叫んだ!
「行くっすよ!」
ビュンッ!
ナーガが勇太に飛びつき、勇太がつかむ!
実は、ナーガはニョロニョロと、ミマの近くまで来ていたのだ。
チャンッ!
ナーガは光る剣となった。
一方、先行するガーゾイル。
ザンッ!
1人のメイドに斬りかかる!
そのメイドは、この騒ぎに背を向け雨宿りをしていた。
遠い位置と雨音のために、ガーゾイルが復活したことにすら気付いてない。
つまり、無防備だ!
「「「キャーーーーーーーーーーーーーーーッ!」」」
他のメイドたちが、悲鳴をもって危険を知らせた。
スサッ!
狙われていたメイドが、
ガーゾイルを敵と理解せずとも、背後から放たれた剣をかわしたのだ。かわしてから斬りかかったのがミマと気付き、驚いた顔を見せたのである。
「我が家のメイドどもは、
雨の中、領主の声が高らかに踊った。第4の木で雨宿りをしている。
メイドたちは体術の訓練を受けていた。不意に襲われても、避けるくらいのことはできるのだ。
ガーゾイルの第二撃!
メイドは身構えて、
チンッ!
間に合った!
勇太の蛇剣がガーゾイルの第二撃を防いだ! ちゃんと、達人のエキスが効いていた。
サッ ササッ!
ガーゾイルが間合いをとる。
そこへ領主の
「取り押さえよ!」
海パン姿の衛兵たちがミマを取り囲んだ。
10人以上はいる。ナーガの蛇剣を構える勇太は、囲みに
ガーゾイル1人に、10人がかりだ。取り憑かれているミマの体が危ない!
「や、やめて! ミマを傷つけないで!」
【勇太はミマを傷付けることなく、ガーゾイルを何とかできるのでしょうか? 次回、勇太がとんでもない技? をガーゾイルに繰り出します。また、次回は決めていた文字数より少し多いです】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます