第29話 第七章 合わせ毒の解毒剤(4/5)
【約4300文字】
【合わせ毒に倒れたミマを、勇太が助けようとする。3つの小瓶の中から1つの解毒剤を選ばなくてはならない。勇太はラスト勝負用の勘を、あと1回だけ使える。その勘を利用して解毒剤を特定したいのだが、契約破棄や時間制限もあって条件が複雑となってきた。頭を整理して考えてみよう】
「今回はクエストの終了ではなく、契約破棄によるラスト勝負ケロ。クエストのイベントは継続中だから、複雑になっているケロよ。
ジャンケンで解毒剤を見つけた後のラスト勝負は、依頼者(ミマ)の意識が回復してからケロ。
そして、普通のジャンケンになるケロ、さらに時間制限もあってリスクが大きいケロよ。
加えて、今回の契約には特記事項があるケロ。
クエスト中に依頼者(ミマ)が毒殺される危険があることから、毒殺された時の規定ケロ。
依頼者が毒により絶命した場合、または、毒の回復処置を施しても絶命した場合は、ラスト勝負無しにあっしが緑に光るケロ」
チクミはポヨンと、ミマの胸を小さく1つ揺らした。
絶命なんて言葉は、今の勇太は、聞きたくもない!
「ミマが死んでしまったら、元も子もないんだよ! それは絶対に阻止だ!」
勇太はミマを助けたいのだ。
色々とパターンが増えて、複雑になってきた。まとめてみよう。
これまでに出てきたパターンは0~7まであるのだが、チクミが緑になるパターンは以下の4つである。
┏【パターン2】
┃ミマが目覚めている時限定の
┃ラスト勝負
┃
┃シールに触って
┃ミマとジャンケン
┃ ↓
┃ 勝ち → シールが緑
┃ ↓
┃ ✖勘
┃ 毒見も✖
┃(このパターンは除外)
┗『緑』
┏【パターン3】解毒剤を特定できる
┃ラスト勝負の勘を使う毒見(or解毒剤特定)
┃
┃シールに触って
┃ミマ以外の人とジャンケン
┃ ↓
┃ 勝ち
┃ ↓
┃ 勘
┃ ↓
┃ 毒見or解毒剤特定
┃
┃ +
┃
┃ 別にラスト勝負
┃
┃シールに触らず
┃ミマと普通のジャンケン
┃ ↓ ↓
┃ 勝ち 負けorあいこ
┃ ↓ ↓
┃ シールが緑 シールが赤
┗『緑』or『赤』
┏【パターン4】ミマを見捨てる
┃(解毒剤を見つけない)
┃気絶したミマとのラスト勝負
┃(焼死回避措置)
┃
┃シールに触って
┃ウソジャンケン
┃ ↓
┃ ウソ勝ち
┃ ↓
┃ シールが緑
┗『緑』
┏【パターン7】ミマが毒により死亡
┃
┃(ラスト勝負不要)
┃ ↓
┃ シールが緑
┃
┃(これは、絶対にダメ!)
┗『緑』
【パターン2】は、ミマに意識があることが前提なので、選択できない。
よって、選べるのは【パターン3】・【パターン4】・【パターン7】の3つである。
だが、【パターン7】はミマが死亡してしまうので、絶対に選択しない。
なので、選べるのは【パターン3】と【パターン4】の2つだけなのだ。
【パターン3】は、解毒剤を見つけられる。だが、勇太は3分の2の確率で焼死、さらに時間切れのリスクもある。
【パターン4】は、勇太がミマを見捨てて帰ってしまうパターンである。だが、勇太はミマを助けたい。
勇太は考える。
【パターン4】を選択して自分が帰ったあと、残されたミマはどうなるのだろうか?
新しく解毒剤を作っている時間的余裕はない。
3つの小瓶の内、どれか1つを飲まされるだろう。
当たれば回復するが、外れたら死んでしまう。
3分の2の確率で、ミマが死ぬ!
自分が悪いわけではないが、可愛いくて自分好みの女の子を死なせてしまうのだ。
解毒剤を飲ませるは勇太が帰った後になるのだから、結果を知ることはできない。
だが、大きな心残り、いや、心の傷となるだろう。
そんな将来を予想できるのに、勇太は帰れるのだろうか?
では、【パターン3】を選択して、あと1回の能力をラスト勝負に使わずに、解毒剤の特定に利用したらどうなるだろうか?
ミマは100パー回復するだろう。しかし、自分が無事に帰れる運命は3分の1となる。
残り3分の2は焼死だ。
勇太に変な希望が生まれた。
「そっか、無事に帰れる確率が0になるわけじゃないんだ。3分の1も希望があるじゃないか!」
近くで成り行きを見守っていた領主が黙っていられなくなった。
「少年! 何を言い出すのか! 確率に命を
勇太は変な希望にとらわれている。
「絶対に死ぬわけじゃないんだ。3割以上も生きられるんだ。プロ野球で3割と言えば高打率だよ!」
「プロヤキュウとは何か知らんが、変な希望にすがるのはやめよ! わしは少年の毒見が気に入っているのだ。むざむざ少年を死なせたくない!」
大きな体で威圧感たっぷりに迫ってくる。
しかし、勇太には変な希望が居座っている。
「きっと、大丈夫ですよ。3分の1の確率で勝てばいいんだから。それよりも、ミマをこのままにして帰れないよ。領主さんだってミマを助けたいでしょう?」
「それはそうなのだが、どうやって解毒剤を選んでいいものか? なあ、お供の蛇よ、妙案はないのか?」
領主は、お供の蛇であるナーガを頼った。
そのナーガは心配な顔。
「アタイは100パー姫様に助かって欲しいっす。でも、もし、勇太が先に帰ってしまい、アタイが解毒剤を選らぶことなったのなら、達人のエキスを使うっす。達人の勘に頼るっすね」
勇太は、パルとの闘いで達人のエキスを経験している。
「闘った経験から、達人の勘は良かったと思うけど、解毒剤の特定は闘いとは違うよ! 闘いの勘にミマの命を
ナーガは困ることなく発破をかけるように言い放つ!
「それは、勇太が帰ってしまった時っすよ!
アタイは、毒見と同じ勘を使って、解毒剤を選んで欲しいっす!
水滴に入ったアタイの毒をことごとく当て、姫様だけに反応する合わせ毒を、たった一人で感じ取ったっす!
勇太は一番の毒見役だったっすよ!
その勘を使うのなら、姫様が確実に助かるっす。勇太がジャンケンをして解毒剤を決めるっすよ! それが一番っすっ!」
ナーガに頼った領主が困ってしまう。
「そうなると、運が悪ければ、少年が死んでしまうではないか」
「アタイは姫様の方が大事っす」
「蛇はお供だからそうなるか……」
勇太もナーガと同じである。
「俺もそうだよ。俺もミマを助けたい!
達人のエキスが決めるにしても、ミマが助かる確率が3分の1というのは、変わりがないんだよ。
だけど俺の勘なら、確実にミマが助かるんだ。その後のラスト勝負でも、俺は3分の1の確率で助かるんだ。
どっちも3分の1だけど、ミマか俺かと聞かれたら、俺が3分の1になる方が、断然にいいよ!」
この時、勇太の腹が決まった。
変な希望ではなく、ミマを確実に助けたいという想いが
勇太は何か言いたそうな領主を制して、チクミを見る。
「チクミ、決めたよ。あと1回の能力は解毒剤の特定に使うよ。ラスト勝負は純粋なジャンケンにする」
心からの決意を見せた。
チクミはポヨンと1回ミマの胸を揺らすと、勇太の瞳を見て悟った。
「分かったケロ。
それなら、あっしに触りながら誰かとジャンケンをするケロ、そして、解毒剤を特定するケロね。
ただし、注意が必要ケロ。
ラスト勝負には時間制限があるケロよ。
あっしの点滅はまだ遅いけど、そのうち速くなるケロ。
普通のジャンケンでも、ラスト勝負はラスト勝負ケロ。あっしが点滅しているうちにやるケロよ」
その時間は長く設定してあるって言っていた。
「あと、どのくらいの時間なの?」
「あっしも知らないケロ!
見たところ、まだ余裕があるケロね。でも、はっきりしたことは言えないケロよ。
点滅の速さを目安にすることしか、時間を知る手立てはないケロ」
「分かったよ。早くジャンケンをして解毒剤を決めよう。ナーガは蛇だからジャンケンができないよね。なので領主さん、俺とジャンケンをしてください」
領主もそんな気がしていた。
「仕方ない。わしがお相手しよう」
ジャンケンの勘は、チクミに触らないと使えない。勇太は解毒剤の可能性がある3つの小瓶を、ミマに近い芝生の上に並べ直した。
チクミはミマの胸に貼られたシールだ。勇太の手がミマの胸へと伸びた。
勇太は胸に
今はとてもそんな気分ではなかった。
ナーガも、ミマの胸に触ろうとする勇太の手に叫びかけたのだが、ミマの命が大切なので今回ばかりは黙認した。
プニュ
や、柔らかい!
勇太は生まれて初めて女の子の胸に触った! シール越しにではあるが触ったのだ。
こんなにプニュプニュなのか。風船よりも、ソフトテニスのボールよりも、ずっとずっと柔らかい。
本人に言ったら怒られそうだが、小学校の時に触ったアゲハチョウの幼虫くらいに、柔らかくて
そして、絶対に忘れない。
例え、ラスト勝負に負けても、この感触だけは絶対に忘れないと、心に誓った勇太である。
領主も、しゃがんで勇太と向き合った。
さあ、ジャンケンだ!
「「最初はグー、ジャンケン ポンッ!」」
領主 パー
勇太 チョキ
勇太の勝ち。
能力はばっちりと戻っていた。
「さあ、ミマを生かす解毒剤は3つの内どれだ?」
毒さえも見つけ出す勇太の鋭い勘が起動する。
…………
「ない! どういうことだよ! この中に解毒剤はないじゃないか!」
目をこらす! 気合いを入れて見る! 息を止めて見る! ベロを出して見る!
何をやっても感じない!
3つの小瓶からは解毒剤を1滴も感じなかった。
たった1回の勘が空振りに終わった!
青ざめていくのが自分でも分かる。
勇太は、絶望という崖っぷちから落ちていくようだ。
どうしようもない悔しさで、触っているチクミを見る。
「毒見の勘は解毒剤の特定には使えないの?」
チクミはビックリして、そんなことはないという表情をとる。
なら、小瓶を選び間違えたのか?
勇太の悔しい思いが、
勇太は涙目でピコナを睨んだ!
ピコナは、もう役目が済んだと思ったのか、5メートルくらい離れた所にいた。
呪いのビキニを縛り付けた木を前にして、メイドたちと談笑している。
絶望の底から見上げる勇太からすると、なんとも日常過ぎる! 勇太の心は引き裂かれそうだ……。
……ん?
あれ?
「あった! それだ! そのペンダントの中に、ミマを生かす解毒剤があるぞっ!」
勇太はしゃがんだまま、そしてチクミに触りながら、ピコナの胸を指差した。
希望の光が、そこにあった。
偶然にも解毒剤が視界に入り、まだ続いていた勘が教えてくれたのだ。
そのペンダントとは、ピコナのネックレスにぶら
男の小指くらいの太さがあり、ラグビーボールみたいな形をしている。
表面は磨かれたようにツルツルとして、何の絵も模様も描かれてない。金色の光沢に、その存在感を感じるペンダントである。
ピコナは恥ずかしそうにたじろいだ。
「こ、これは、そんな、解毒剤じゃないよ……」
【勇太が命をかけて、解毒剤をペンダントに感じたのに、ピコナはあっさりと否定てしまいました。どういうことなのでしょう?】
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