第27話 第七章 合わせ毒の解毒剤(2/5)

【約5000文字】



【ミマがスクマミロンを食べて倒れてしまった。そのスクマミロンを運んだのが、ガーゾイルに操られた女の子だった。勇太が呪いのビキニを脱がして女の子を解放する。ミマを救うには、その子に頼るしかないのだが、気絶したままだ。目覚める時を待つ間に、勇太は呪いのビキニが風で飛ばないように、木にしばったのだった】



 勇太は気付け薬を待った。


 すると、いきなり領主が声を上げる。

「おおっ! その服は?」


 その服とは呪いのビキニのことである。勇太が開脚倒立に見えるように木に縛っていた。

 領主がそれに気付いたのだ。


 縛ったのは、勇太の独断であった。

「この木に縛っちゃいけなかったですか?」


「そうではない! この服は我が蔵にあった服であり、市場に売りに出した服なのだ。運送屋に会った時には、全然気付かなかったぞ!」


 もともと、領主は自分を含めて、服装には全く興味がない、娘以外は。

 見えてはいけない箇所が隠れていれば、それでよいのである、娘以外は。

 なので、着用されているビキニや海パンは、人物と一体化して肌の一部のように見えるため、モノとしてとらえていないのだ、あくまで娘以外は。


 人ではなく、木が着たことで、領主はビキニをモノとして認識できたのであった。


 勇太は改めて聞く。

「これは、領主さんの屋敷にあったビキニ、じゃない、服なんですか?」

 どうやら、呪いの出所でどころはここのようだ。


「そうだ! 2週間程前のことだ。誰かが、わしの夢枕に立って、蔵の服を売れと言ったのだ。ドンド山羊やぎの毛だから、高く売れると言ってな」


 2週間前といえば、ミマが引っ越して来た時期と一致する。関係がありそうだ。


 そしてドンド山羊について聞くと、毛が長い山羊であり、その毛は羊毛のように、服飾材料として利用されているらしい。


 でも、編み物と言うよりは布に加工している。その布は、絹のような柔らかい手触りであり、高級品だそうだ。


 勇太は女剣士パルのビキニを思い出した。スベスベとして手触りが良かったし、本人は『高かった』と言っていた。

 特徴が一致する。


 しかもドンド山羊の毛でできた布を熱湯に通すと、専用のハサミでなければ切れないくらいに頑丈な生地となり、100年でも200年でも使えるようになるという。

 耐久性の面からも高級品と言えるらしい。


 100年と言うキーワードが、勇太の中でガーゾイルと結びついた。

「だから、呪いが100年も続いているのか。どうしてそんな服が蔵にあったんですか?」


 領主はガーゾイルの関係者なのだろうか? でも、そんな風には見えない。


「経緯は全く分からん。帳簿を見ると、わしが生まれる前から蔵にあったようだ」

 領主は、蔵にあったビキニがガーゾイルに関係しているとは、知らなかったみたいだ。


 おそらくガーゾイルが何らかの方法でミマに気付き、領主の夢枕に立って、呪いのビキニを解き放つように仕向けたのだろう。

 呪いが成せるわざだったようだ。


 でも1着ではない。今日一日で勇太は2着を見ている。

「蔵にあったその服は、2着だけだったんですか?」


「いや、10着以上はあったぞ」


 ヤバイ! ミマを狙うヤツが、他にも来るかも知れない。

 勇太と領主が顔を見合わせる。


 領主が呪いのビキニを回収するよう、メイドに指示を出した。もちろん、肌に触れないように、と注意を付け加えた。


 勇太は市場の売り子が心配だったが、領主はそうでもなかった。

「高級品なのだ。売り子が着ることは、まずないだろう。もし着てしまったとしても、もう、このがらが知れたのだから、容易に見分けがつく、手袋などを使って触らないようして、脱がしてしまえば良いことだ」


 楽観的ではあるが、女性は誰もビキニなので、見つけ易いと勇太も思った。




「取り憑かれていた娘が、目を覚ましそうっすよ!」

 ナーガの声に、勇太も領主も毒師の子の所へ行く。まだ、芝生の上に横になっていた。


 体の大きい領主が勇太を押しのけて、かたわらにしゃがんだ。

「おい! 解毒剤はあるのか?」


「うーーん、何を言ってるの?」

 メイド用のビキニを着せられた毒師の子は眠気眼ねむけまなこ。女剣士パルと同じく寝起きのようだ。そして、パルにはミマを襲った記憶が無かったのだ。


「この人には、記憶が無いかも知れません」

 勇太の言葉に領主が難しい顔をする。


 そんなやり取りを見ながら、毒師の子がクリアな顔をして芝生の上に座った。

「頭がハッキリしてきたよ。わたしの名前はピコナ・ポイズ。呪いが言っていたように、表向きは薬剤師だけど、本業は毒師だよ」


 聞かれるまでもなく自己紹介をしてきた。勇太も自己紹介。

「俺は勇太。異世界から召喚された毒見役だよ」


「わしは領主のバーゼラルドである!」

 しゃがんだまま、胸や腕の筋肉を見せびらかした。


「あ、領主さんは知ってます、有名ですから。それで、勇太さんは毒見役なの? わざわざ毒見役が異世界から召喚されるなんて、毒殺は気付かれてたんだね」


 話が通じてる?

「取り憑かれていたのに、記憶があるの?」


 勇太が聞くと、ピコナは少々うつむいた。

「ああ、わたしには薄っすらと記憶が残っているんだよ。体を乗っ取られていたのだけれど、時々は自分の意識があったんだ」


 勇太はハッとした!

 パルの時は記憶がなかったので言及しなかったのだが、記憶が残っているというのなら、見過ごすことができない事実が1つあるっ!


「ごめん! お、俺が服を脱がしたんだ。でも、全然見えなかったから……」

 これも憶えているかも知れない、とにかく謝罪だ。


 ピコナは顔を赤らめる。

「スケベ……」

「ご、ごめん!」

 慌てた勇太の顔を見て、ピコナは二ッとする。


「ウソだよ。その時の状況は憶えているし、呪いを解いてくれて、むしろありがたいと思っているんだ」

「そう言ってくれると嬉しいよ」

 勇太は胸をなでおろした。


 仕方なかったにせよ、公衆の面前で女の子のビキニを脱がせて全裸にしたのである。怒られるのを覚悟していたのだ。

 簡単に終わってホッとした勇太であった。


 ピコナは真面目な顔に戻って続ける。

「呪いは専門じゃないけど、心に強く想う力があると、呪いは跳ね返せるんだ。もっとわたしに力があれば、操られずにすんだんだと思う。


 悔しいよ。


 ――でも、あらかじめ毒見役がいたなんて、毒殺は予測されていたんだね」

 ピコナが再び勇太に視線を送った。


「占いに出たと聞いているよ。そんなことよりも、早くミマを助けてっ! 解毒剤はないの?」

 勇太がピコナへ迫る。


 もう頼れるのは、このピコナしかいないのだ。


「その辺りが曖昧あいまいなんだよ。実はこの毒は合わせ毒だから、解毒剤は必要はないんだ」


「解毒剤はないの?」


 ピコナは、すまなそうな顔。

「ああ、普通なら解毒剤を用意しないんだよ」


 ガガーーーーンッ!

 勇太には、大きなショックが襲う。


 信じられず、ピコナの左肩をつかんで強く揺すった。

「じゃあ、ミマは助からないのっ!」

 顔にもすごみがいていた。


「お、落ち着いてよ。

 この毒は合わせ毒なんだ。

 スクマミロンと乾燥していないカイスの種を一緒に食べると、体の中で毒を生成するんだよ。

 ガーゾイルがカイス売りの店主に、サマルカンド王家の治癒魔法師が来たら、カイスを薦めるようにと、言っていた記憶が残っているんだ」


 聞くと、カイスとはスイカのことだった。


 勇太は思い出す。

「ミマは、そのカイス、の種も食べてたよ」

 種までもボリボリと食べて笑われていたのだ。


「そう、その種がもう1つの毒の素だよ。

 種まで食べるミーリークの習慣があだになったんだ。


 カイスの種をなまのまま食べた上に、ガーゾイルが用意した生のスクマミロンを食べてしまったんだ。


 本来なら、カイスの種を乾燥しないようにしてミーリークに持ち込んで使う、合わせ毒なんだよ。


 片方だけでは全くの無害だから、解毒剤は必要ないのさ」


「合わせ毒だから、解毒剤はないのか……。今から作れないの?」

 勇太はピコナにすがる。

「作るには3日はかかるんだ。患者の命が尽きる方が遥かに早いよ」


 ガガーーーーンッ!

 ミマを助けられないじゃん!


「解毒剤以外には、助ける方法はないの?」

 勇太はミマを、なんとしてでも救いたい。


「残念ながら解毒剤しかないんだ。けど、最初に言ったように、解毒剤については記憶が曖昧なんだよ。

 わたしは慎重でね。自分が飲まされると困るから、即死する毒はもちろん、死に至る毒は使わないんだ。なので、材料の持ち合わせもない。

 知識はたくさんあるけどね。


 でも、死なない毒なら作ることがあるんだ。その際、自分で作った毒を逆に自分が飲まされた時のために、解毒剤を用意する習慣があるんだよ。ガーゾイルが、その習慣を踏襲とうしゅうしたのかも知れないんだ」


「習慣を踏襲って?」

「あのガーゾイルと言う呪いは、取り憑いた人間の能力を利用しているんだ。


 僅かな記憶によると、毒の技術を全然知らないガーゾイルは、毒師の知識を習慣も含めて、全てを再現していたんだよ。


 だから、必要のない解毒剤も作っていた可能性があるんだ」


 馬鹿なガーゾイルが、わざわざ解毒剤を用意していたのかも知れないんだ!

 勇太には光だった。


「もし作っていたとしたら、どこにあるの?」

 勇太はワラにもすがりたい。


「わたしの習慣からすると、かばんだよ。ちょっと待ってて、取ってくるから」

 ピコナは立ち上がり、どこかへ行って、すぐに、重そうな茶色いボストンバッグのような四角い鞄を持って戻ってきた。勇太なら5泊の旅行にも使えそうな大きさだ。


 ドンと、ピコナはテーブルの上に載せる。

 そのふたを開けると、中はカオス(混沌)のように雑然としていた。

 ビンやら、ペンやら、木箱やら、缶詰やら、フォークやら、歯ブラシやら、タオルや手帳のような必需品から、捨ててもいいような丸めたメモ用紙や、空になったお菓子の紙袋まで、グチャグチャになってぎっしりと詰まっている。


 ピコナはまゆをひそめた。

「メチャクチャだ! 2週間も好き勝手されると、こうなっちゃうのか? ガーゾイルは、整理整頓というわたしの習慣は踏襲しなかったようだね」


「この中に解毒剤があるんでしょ! ミマが危ないんだ! 早く探してよ!」

 簡単に見つかりそうもないので、勇太はかした。


「慌てないで! ガーゾイルはすぐにでも死ぬように言っていたけど、あれは間違いなんだ。

 スクマミロンにも品種があってね。合わせ毒の効果として、早く死ぬ品種と遅く死ぬ品種があるのさ。

 ガーゾイルにはスクマミロンの一般的な知識があったから、品種によって違いがあるという、わたしの知識まで読まなかったようなんだ。

 輸送のために、なるべく日持ちがする品種をガーゾイルは選んだのさ。それは遅く死ぬ品種だったんだよ。

 だから、サマルカンドの姫が完全に息耐えるまでには、あと半日はかかるんだ。

 さらに、その半分の時間までに解毒剤を飲ませれば、毒はすぐに消えて目を覚ますはずだから、まだ時間には余裕があるんだ。解毒剤さえあるのなら、安心していいんだよ。

 慌てて違う薬を飲ませた方が、よっぽど危ないのさ」


「それでも早くしてよ! 俺の焼死がかかってるんだ」

 勇太は、召喚契約が破棄されて、ミマとのラスト勝負が必要なこと、点滅速度を目安にした時間的な期限があることをピコナに伝えた。


 2人でカエルシールを見た。ミマは離れた場所に横たわっている。シールはミマの左胸に貼られているのだ。

 その点滅速度には変化はない。


「そういうことか。なら、がんばるよ」

 ピコナは、鞄の中身を1つ1つ調べながら、テーブルの上に並べていった。勇太は見守ることしかできなかった。




 5分ほどが経った。

「ほら、あったよ! 解毒剤……って、3つとも中身が入っているのか! どれが解毒剤なんだ?」


 ピコナが取り出したのは、3つの透明なガラスの小瓶である。


 5センチにも満たない大きさで、少しずつ形が異なっており、飾り気のない香水瓶のようにも見える。

 どれにも似たような透明な液体が入っており、小瓶とそのふたとは擦りガラスによって密封されていた。

 しかし、その量は少なく、どれも容量の4分の1か5分の1くらいである。小さじ一杯分もない。


 その3つの小瓶がテーブルの上に並べられた。


 本人が言っていたように、ピコナには解毒剤を用意した記憶がないので、いつも使っている解毒剤専用の小瓶を探したのである。普段はからにしていることから、解毒剤はガーゾイルによって作られ、小瓶の中身がそれであることは間違いなさそうだ。


 そして、その小瓶は最初から3つあったのである。


 勇太の思考は単純。

「3つとも同じ解毒剤じゃないの?」

「それはないな。2つはダミーだよ。わたしの習慣を踏襲しているのならね」

 ピコナは自信たっぷりだ。


 でも、それなら簡単と勇太は思った。







【3つの小瓶の内、どれか1つが解毒剤のようです。勇太には名案を思いついたのでしょうか? 次回をお楽しみに】







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る