第24話 第六章 デザート(3/4)

【約4200文字】



【ミマが危険なスクマミロンを食べようとするので、毒見役の勇太が代わりに1人で全部食べてしまった。しかし、スクマミロンには予備があり、それらも勇太が食べようとしたので、衛兵たちに取り押さられてしまう。そこへ蛇のナーガが……】



 勇太の腕に巻きついていた蛇のナーガがニョロっと動いた。

「目が覚めたっす! いったい、何事っすか?」

 眠っていたようだ。


 勇太には味方だ。

「ナーガからもミマに言ってよ! スクマミロンを食べちゃいけないって!」


 ナーガがテーブルの上に這い出す。

 しゃべる毒蛇に、衛兵とメイドはびっくりしていたが、領主は面識があったので驚くことはなかった。


 ナーガは落ち着いた表情で、まず衛兵に取り押さえられたままでいる勇太の言い分を聞き、続いて領主の意見、最後にミマの希望を聞いた。


 勇太:ミマはスクマミロンを絶対に食べちゃダメ、根拠は勘

 領主:すでに食べている。なんともない

 ミマ:食べたい! 勇太と領主様が食べても平気だから、自分も平気


 ナーガが数秒考えて答えを出す。

「ここで、一番大事なのは姫様の命っす。

 ――姫様、少しでも危険なら、スクマミロンをあきらめるっすよ」


 ミマは承服できない。

「ナガイも知ってるはずですわ! スクマミロンは神聖であって、あたしの中では一番の好物なのですわ!」


 ミマはナーガを取り込もうと必死だ。ちなみに、ミマはナーガをナガイと呼んでいる。


「神聖なのは、土地の力も一緒にいただくからっすよ。住んでいる土地ではぐくまれたスクマミロンだから、神聖と言われているっす。忘れたっすか?」

 神聖の意味が明かされた。


 ナーガの言う通りなら、産地と居住地が一致しない場合、神聖とは言えない。

「わ、忘れてませんけど、そんな昔のことを言う人は、もういませんわ! ミーリークでも特産地のスクマミロンが人気なのですわ! 今では、どこで採れても神聖と思われていますわ!」


「まあ、今はそうっすけど、危険と言われているものを、わざわざ食べる必要はないっすよ!」


「領主様があたしのために、苦労して特別に用意してくださったのですわ。ムゲにはできませんわ!」

「それもそうっすね」


 ナーガの気持ちがミマに傾いている。

 勇太も反撃。

「ちょっと待ってよ! ナーガは俺の味方じゃないの? 俺の家来って言ってたじゃないか!」


「家来っすけど、特に誰の味方でもないっすよ。アタイは姫様が安全にいて欲しいだっけっす」

「なら、ナーガも止めてよ! スクマミロンは危険なんだっ!」


 ナーガより早くミマが口を開いた。

「もう、よろしいですわ! 勇太が食べてもなんともありませんでしたわ。安全は勇太自身によって証明されたのですわ!」


 食べたことが逆に利用された!

「安全を証明するために食べたんじゃないだって!」


 ナーガは再び考える。

「うーん、勇太が食べてもなんともないんすよね。それなら、毒にやられた人はいるんすか?」


 ミマには光明!

「そ、そうよ! 誰もいないわ! 誰一人として具合が悪くなった人はいないのですわ!」

 確信めいた笑み。ミマは真実の泉を発見した気分である。

 

「それなら、安全っすね」

 あっけなく寝返るナーガ。

「そんなーっ! そりゃ、誰も危険になってないけど、ミマには危険なんだよ!」

「そこがおかしいのですわっ!」



 ちょうどその時である。

 ビキニメイドが新しいスクマミロンを2皿運んできた。領主が命じた分が到着したのだ。

 その1皿が、ミマの前に置かれる!




 危険、危険、超危険! 毒入り危険、食べたら死ぬで。




 勇太にはそう感じる!

 能力を使うことで能力レベルが上がっているのだ。始めはジャンケンをした直後しか毒見できなかったが、今ではジャンケンの後、長い時間毒見能力が継続している。


「やめろっ! 俺は毒見役だぞっ! 毒見役が危険って言ってるんだっ! ミマッ! それを絶対に食べちゃダメだっ!」


「そうだケロ!」


 プルンッ


 それまで黙っていたチクミが、ミマの胸を揺らして口を挟んできた。チクミは、ミマの左胸に貼られた召喚会社のカエルシールである。


「勇太は契約により召喚されたケロ。勇太が役に立たないというのなら、契約破棄になってしまうケロよ」


 プルン プルン

 チクミはカエルが跳ねるように、ミマの左胸を揺らした。


 別の立場から勇太を援護してくれるようだ。


 ミマはチクミをつかんで揺れを止めつつ、さらにつまんでチクミが見えるように上を向かせて睨みつけた。

 自分で自分の胸をつまんで上に向けるとは、なんともHだが、今はそんな場合じゃない!


「チクミ、聞くのですわ。このスクマミロンはミーリークでは神聖な食べ物ですわ! 例外扱いにするのですわ」

 ミマは都合のいい提案をした。


「それはできないケロ。本契約には例外事項はないケロよ」


 チクミ、がんばれーーーーっ! と、勇太が身動きが取れないながらも応援する。


 ミマはもう動じない。

「それでは、仕方ございませんわね。勇太は勘が狂ってしまったので、契約破棄といたしますわ」

 冷たい視線が勇太に向いた。


「勘は狂ってないよ! 腐ったメメも見つけたし、ジャンケンで領主さんにも勝ったじゃないか! その上で、スクマミロンは危険なんだ! 絶対に食べちゃダメだよ!」


 ミマの温度に変化はない。

「その議論は、もうよろしいですわ。今は勇太を信頼できませんわ!」


 ガガーーーーーーーーンッ!

 勇太は一瞬、思考が止まる。


 その僅かな間隙かんげきってチクミが決断した。

「分かったケロ、契約破棄だケロ」

 あっさりと、契約破棄を認めてしまった。


「ダメだよ! チクミも諦めないでよ!」

「ミマはお客様ケロ。あっしは、お客様の意向を尊重するケロ。これもマニュアル通りケロよ」


 勇太はありったけの言葉をぶつけたい。市場で聞いた言葉を思い出した。

「そうだ! これじゃあ、召喚損になるよ!」


「あたしは魔法力で支払ってるから、損にはならないのですわ」

 そうだった、お金じゃなかった。それに、サマルカンド王家の魔法力は、ほぼ無尽蔵だったんだ。


「なら、占いババの占いは? すごく当たるんでしょ! このままだと占い通りだよ!」

「当たるのは良くて7割くらいという意見もございましたわ」


「そう、7割が当たるんだよ! 7割だよ! 7割! プロ野球で言えば、来日当初のホー〇ー〇ーナークラスだよ! 国中が湧いたスゴイ選手だったんだ! 7割って言ったら、そんなスゴイくらいに占いが当たっちゃうんだよ!」


 知識のフル活用、駅長だった祖父から聞いたヤクル〇ヤ〇ルト自慢の記憶である。(作者:古くてごめんなさい、ホー〇ーと言う選手は来日2試合で打率が8割以上、4本塁打でした)


 勇太は、とても役に立たないと思われる例えでも、言ってしまうくらいにミマに食い下がった。


 ミマには、うんざりな顔。

「そんなの知りませんわ。もう、いいですわ。チクミ、話を進めるのですわ」


「そんなぁ~~~~~~~~~~~~~~~~…………」

 勇太の声は、最後の方では、ただの息となった。


 チクミはマニュアル通り、事務的に始める。

「それでは、契約破棄の注意事項ケロ。


 契約破棄でもラスト勝負は必要ケロ。でも、勝負が可能な時間は、色々な状況が想定されるので、とても長く設定されているケロよ。スクマミロンを食べてる余裕は、十分にありそうケロね。


 契約が破棄されれば、あっしは白い光で点滅するケロ。点滅している間にラスト勝負をするケロ。点滅の間隔が速くなってきたら、ラスト勝負ができなくなる時間が迫っているケロ。

 気をつけるケロね。


 そして、あっしの点滅が消えたら、タイムアップケロ。そうなったら、もうラスト勝負はできないケロよ。


 と、言うわけで勇太の能力は、あと1回ケロ。

 点滅しているあっしにさわっている時に、1回だけ能力が使えるケロよ。


 ラスト勝負に勝つと、あっしが緑色に光るケロ。光っている間に勇太が自らあっしをがして、自分の肌に貼るケロ。


 そうすれば、元の世界に無事に帰れるケロよ。もし、あっしが貼られてなければ、勇太は焼死するケロ、十分に気をつけるケロね。


 最後に、代金の払い戻しはできないケロ。といっても、本契約は現物支払いによるから、特に関係ないケロね。

 以上の内容で承諾するケロか?」


「いいわ、それで」

 TVドラマで見た離婚届に印を押す妻のように、冷めきった顔でミマが承諾した。


「ミマ! 考え直してよ!」

 勇太は顔も手足も衛兵に押さえられているので、ミマにすがりつけないが、気持ちだけでもすがりたい。


「勇太の毒見は、あやふや過ぎますわ。信頼できないから契約破棄ですわ!」

 最後通告のようだ!


「そんなあ~~……」

 勇太からは力が抜けた。

 森では信頼すると言っていたのにくつがえってしまった。女の子とはこんなものかと、気持ちの火が消えそうになる。


「今から、契約破棄ケロ!」

 チクミは事務的に宣言した。


 ピカ スン ピカ スン


 カエルシールのチクミが、白い光の点滅を始めた。


 レベルが上がった毒見の勘はもう働かない。スクマミロンをどんなに見ても、ミマの危険を感じられなかった。


 勇太は普通の人間になったのである。


 勇太ができる毒見の勘は、ラスト勝負だけになった。でも、帰るなんて考えられない。気持ちの火をもう一度ともす。

 ミマを守りたい!


「やめてっ! ミマ! 食べないでっ!」


 ミマは勇太の言葉も聞かないで、イスを持って勇太から離れた場所のテーブルに座り直す。すると、ビキニメイドがスクマミロンの皿をミマの前に置き直してくれた。


 ミマはラスト勝負よりも、まずは好物のスクマミロンである。

「勇太も食べたのですわ。あたしが食べても、きっと、なんともありませんわ」

 スプーンでスクマミロンをすくった。

 ミマは赤らむほどの期待に震えながら、その口へと近づけていく!


「あーーーーーーっ! ダメッ! 食べちゃダメーーーーッ!」

 勇太の空しい声。


 パクンッ


 ミマの口にスプーンが納まってしまった。


 ぺロリ


 スプーンをめ出すと、なんとも幸せそうな笑顔。


 ミマの心は、最も幸福な世界に包まれていく。


 その幸福な世界とは、世界中の美しい花々が所狭ところせましと咲き乱れ、色取り取りの羽を派手に着飾った数羽の極楽鳥が、透き通るような麗しい声で競うように歌い合い、優雅なスクマミロンの香りが、清涼な春のそよ風に乗ってかぐわしく遊び、甘美な妖精たちが祝福のダンスを軽やかに踊る、というくらいに極上なる世界である。


 モグモグ ゴックン


 ミマの細い喉が小さく動き、スクマミロンを腹へと落とした。

 顔いっぱいに、最高の満足が華やいでいる。


「ほら、何ともございませんこと……よ……」


 ドンッ!


 バタンッ!


 ミマが一瞬で眠りに落ちたかのようにテーブルに崩れ落ち、さらにイスからもころげて、芝生の上に仰向あおむけに倒れてしまった!






【ミマがスクマミロンを食べて倒れてしまいました。マジで毒だったのでしょうか? 次回、新キャラが登場です】

【プロ野球のヤクル〇と駅長の関係が分かる人はスゴイです。物知りです】




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