第23話 第六章 デザート(2/4)

【約4100文字】



【毒見役の勇太がデザートのスクマミロンに危険を感じた! しかし、それはスクマミロンがミマの前にある時だけだったのである。ミマから離れると危険を感じなくなるのだ。その不思議に領主が挑むのであった】



「では、メイドが持っている皿はどうだ? 少年から、姫、メイドの順で位置が変わった皿だぞ。


 そうだな。正確にはジャンケンだったな、相手はこのわしでも良いか? だが、わしは強いぞ!」


 領主は自信たっぷりだ。

 実はなんてことはない。領主はジャンケンを見ていて、自分もやりたくなったのである。


 勇太の毒見はジャンケンによって勘が鋭くなれば、それで足りるわけだから、特に相手は誰でも構わなかった。


 勇太がジャンケンに承諾すると、領主が鎌をかけてきた。

「わしが見るに、少年はグーで勝つことが多いようだ。どうやら、グーが好きなんだな。でーは、今度もグーを出すのかな?」

「俺には、そんな駆け引きは不要です。ただ勝つだけですから」

 勇太は勘で勝つのだ。

「んーっ⤴、そんなことを言っても、気になるんだろう。さあ、グーを出すのかな⤴? 出すのかなぁ⤴?」

 惑わすように見つめてきた。

 でも、勇太には関係がない。さらりと言ってのける。

「俺は直前に決めますので。さあ、やりましょう!」


 領主の作戦。

 これだけグーと言ったのだから、少年はグーは出さないはずだ。よって、グーに勝つパーを、わしも出さないと、少年は読んでくる。

 しかし、それが落とし穴と考えてしまうのが勝負師だ。

 勝負にこだわるのなら、わしがパーを出さないと思わせて、逆にパーを出すと、裏を読むに違いない。

 すると少年は、チョキによって勝ちに来るはずだ。

 だから、わしはグーを出すのだよ。

「よし、決まった。さあ、行くぞ!」



「「最初はグー、ジャンケンポン!」」


 領主、グー

 勇太、パー

 勇太の勝ち。


 強いと言った割には、あっけなく領主は負け、無言でグーを見つめるだけである。


 勇太は、そんな領主を見もしないで、全ての皿を毒見する。


 メイドの皿と自分の皿は安全であり、ミマの皿だけに危険を感じた。

 そんな毒見結果を、みんなに話す。


「わしを負かして、その答えか。つまり、姫が食おうとする皿だけが、危険なのだな」


「そ、そういうことになります」

 答えた勇太も、ミマの皿だけという意味が分からない。それ以上説明ができなかった。


 領主は、危険がミマの内側に潜んでいるかも知れないと思った。

「姫よ、体調はどうだ? 腹などこわしてないか? たらふく食べて、食べ過たのではないのか?」


「いつも通りですわ。先程も、たくさんいただきましたけれど、私にとっては腹七分目よりも下ですわ。それに、体に痛いところも、悪いところもございませんわ。


 とにかくですの、あたしは早くスクマミロンを食べたいのですわ!」

 メッチャかしてくる。


 あれだけ食べても、まだ腹七分目よりも下とか、その腹はどうなっているんだ? 勇太がビキニの胴体を見ても、食べる前との違いが分からないくらいに、ミマの腹は膨らんでいない。

 漫画やゲーム・アニメで見る大食漢の女の子に、あるあるなパターンである。


 いているミマに、領主が大きなてのひらを広げて見せると、

「まあ、待つが良い」

 と言って毛むくじゃらの腕を組んだ。


「姫の体調から来るものではないようであるし、以前にしょくしていたので、体質に合わん食べ物である、とも言えんな。うーむ、置き場所だけで毒になるとは、なんとも面妖であることよ」

 結局、領主からは答えが出ない。


 ミマはもう我慢できない。

「勘が狂ったのですわ! 勇太の毒見レベルが上がったなんて間違いなのですわ! 毒見の精度が落ちたのですわ!」


 勇太はそうは思わない。ここで引き下がっては、ミマに危険が及ぶ。

「でも、始めと同じように領主さんとジャンケンしたじゃないか! おかしなこともなく、ミマの皿だけが危険なんだよ!」


 そもそも、それがおかしいとミマは思っているのだ。そんな説明でミマの気持ちが治まるわけもない。

「もう、お預けは嫌なのですわ! このスクマミロンは神聖な食べ物な上に、あたしの好物なのですわ! 好物を目の前に、お預けをらうなんて、とても我慢なりませんわっ!」


 体の内側からいてきている。


 勇太も、どうにかしたい。

「そうしたら、みんなで食べないってのは、ダメかな?」

 全員で食べなければ、ミマも我慢できるかもと思った。


「好物なのですわ! 安全なスクマミロンがあるのに、我慢なんてできませんわ!」

 逆効果、イライラ度が増してしまった。


 ミマが持つスプーンが、スクマミロンへと伸びる。

 食べる気だ!


 ダンッ! ザッ! パクパク ムシャムシャ


 食いついたのは勇太だ!


 ミマの皿を奪い、スクマミロンを素手でつかみ上げ、むしゃぶりつくようにして、食べる食べる。


 その果肉は、コーヒーゼリーを極力細かい粒に砕き、そこへ牛乳とクリームをたっぷりとかけて、スプーンで一回ひとまわししてから口に入れた時よりも、軟らかく滑らかであった。

 そして、冷たくはないがアイスクリームのように、スッと淡く口に溶けていった。

 果肉の繊維質に、いだかれるようにとどまっていた果汁が、一気に口の中にあふれ出たのだ。


 その味は、ほんのりと甘く上品であり、ベトベトとねばりつくこともなく、舌を優しくでている。

 そして、メロンと変わらない高級な香りが、さわやかな涼風が吹くがごとく、勇太の鼻へと抜けていったのだ。


 このスクマミロンは、以前に勇太が1回だけ食べたことがある、あのメロン、賞味最適日が記してあった超々高級完熟メロンと同じであった。

(賞味最適日とは、賞味期限ではありません。この日が一番美味しく食べられるという日です。そのメロンには一日だけが指定してありました)


 しかし、味わっている場合ではない!

 とろけるような果肉を飲み干すように、あっという間に勇太は食べきったのだった。


 ポトリ


 勇太は、ペラペラとなったスクマミロンの皮を、行儀悪ぎょうぎわるくテーブルの上に落として見せた。

 スクマミロンは、皮の近くまで熟していたので、短い時間にしゃぶっただけでも薄くなったのだ。


 勇太がこれ見よがしに、皮をポトリと落とした理由は、ミマに敗北感を味あわせて、あきらめさせたかったからである。


「何をするのです!」

 ミマの目がつり上がる!


「もう、俺がスクマミロンを全部食ってやる! そうすれば、ミマが助かるんだ!」


 1人で完食作戦である。

 例え、毒であっても勇太は不死身なのだ。


 しびれるくらい、なんてことない! 俺が痺れてミマが助かるんならそれでいい!


 ムシャムシャ

 ポトリ


 テーブルにあった2つ目のスクマミロンも食って、芸術的な網目模様が貼りついている薄皮を、テーブルの上に落とした。


「きゃーーーーーーっ!」

 ビキニメイドに飛び掛って、3つ目のスクマミロンも食べた。

 そして、ホッとした顔でテーブルの上に皮をポトリと落としたのである。


 ゲップッ

 痺れることもなく、毒っぽいこともなかった。


「こ、これで全部食ったぞ!」

 勇太はミマを救った。と、思った。


 けど、ミマは救われたなんて、思ってもいない。

「何てことをしてくれたのです! 領主様に失礼ですわ!」


「俺が怒られるて済むんなら、安いもんだよ」

 勇太は筋肉がパンパンの領主にだって、殴られてもいいと覚悟した。


「先ほど、わしはジャンケンに負けたのだ。非礼は許そう」


 領主はジャンケンに負けて、負い目を感じていた。勝敗にこだわる性格のようだ。

 そして冷静に続ける。


「だがな、異世界の少年よ。スクマミロンはまだまだあるのだ。姫がお代わりを所望しても良いように、多めに用意しているのだよ」


 領主は軽く手を上げる。

「おいっ! 姫とわしの分のスクマミロンを、改めて用意しなさい」


 領主が冷静な裏にはスクマミロンの予備があったのだ。きっと、丸々1個分が用意してあったのだろう。

 1切れが目算で8分の1であり、勇太が食べたのは、それが3つだったから、まだ半分以上残っている計算になる!


 領主のめいに、1人のメイドが足早に取りに行ってしまう。


 一瞬、勇太はそのメイドを追おうとした。

 置いてある場所へ行って、とっとと全てのスクマミロンを平らげてしまおうと思ったのだ。


 しかし、1箇所に置いてあると限らない。


 ここは屋外だ、おそらく厨房からは遠い。そして『お代わりを所望しても』と言っていたので、近くに一時置き場を設けている可能性が高い。


 その場合、1箇所で食べてるうちに、もう1箇所から運ばれて来るに違いない。


 ミマから離れてはいけない。勇太はそう判断した。


 動きかけて止まった勇太を見届けた領主が、正当な問いかけをしてくる。

「それに、わしと少年が食っても、なーんてこともなかったぞ。姫が食っても危険がないとは、思わんのか?」


「危険なのは、俺やあんたじゃないんだよ! ミマが危険なんだ! きっと、次にくるスクマミロンも危険だよ! ミマは絶対に食べちゃダメだっ!」


 ここまで危険を感じたのだ。

 どのスクマミロンも危険と勇太は思った。


 冷静な領主も黙っていない。そして、あんたと呼ばれたことも、気に入らない。

「少年の毒見能力に、支障をきたしておるのだ。それしか考えられんぞ!」


「俺は何も変わってないよ。むしろ、レベル上がっているんだ。ミマを守るために次のスクマミロンも、俺が全部食ってやるっ!」

 勇太なりの使命感であった。


 ミマも立ち上がる!

「そんなの許しませんわ! 勇太が食べても何ともないのなら、あたしが食べても何ともありませんわ!」


「俺のことなんて、どうでもいいっ! ミマが危ないんだ! 俺が全部食うよっ!」

「ダメですわっ!」


 立ったまま、にらみ合う2人!


 領主が軽く右手を上げた。

「仕方ないな、衛兵!」


 ザザッ!


 剣をたずさえた5,6人の海パン男たちが、素早く領主の前に集り、ビシッと整列した。

 領主がめいを下す。

「異世界の少年を、一時取り押さえよ!」


 ザザッ! ザザザッ!

 ガツンッ!


 勇太は、その頭をテーブルの上に押さえつけられた!

ってーーーーーーっ!」


 グイッ グググッ


 腕も足もつかまれ、身動き一つできない。


「い、痛いっ! やめてっ! 放してよっ!」


 もがいていたら、腕に巻きついていた蛇のナーガがニョロっと動いた。

「目が覚めたっす! いったい、何事っすか?」







【アクセサリーの振りをしていたナーガが目を覚ましました。スクマミロンを食べようとするミマを止めてくれるのでしょうか? 次回、チクミも毒見論議に参戦します。そして次回は、あらかじめ決めた文字数より多いです】




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