第六章 デザート

第22話 第六章 デザート(1/4)

【約3200文字】



【ミマが毒殺されると占われた領主の屋敷で、そのミマと毒見役の勇太が会食をする。でも、どの料理も安全であり、勇太は毒を一欠片ひとかけらも感じなかった】



   第六章 デザート


 料理でいっぱいだったテーブルからは、空になった皿が、どんどんと下げられ、運ばれる新しい料理も少なくなり、やがてテーブルの上は元のようにからの水平面となった。


 勇太は料理が増えるたびに、ジャンケンと毒見をしたが、1度も危険を感じることもなく、会食は無事に終わると思われた。

 ホッとしたところで、ラストの皿である。


「それでは、デザートを持ってきなさい!」

 領主のめいに、待機していた2人のメイドが取りに戻った。


「実はな、姫をねぎらいたいと思ったのは、もっと前のことだったのだ。でも、今日という日を選んだのは、届いたばかりのこのデザートを食べてもらうためなのだ」

 デザートなのにメインであるかのような口ぶりである。


 コト コトリ トン


 メイドたちが、3人の前にデザートが入った皿を置いた。


 途端、ミマの目が、まん丸!

「こ、これはっ!! ミーリークのスクマミロンッ!!」


 勇太の目には、15センチくらいの三日月型に切られたマスクメロンである。

 カットされた幅は、丸々1個の8分の1くらい。レストランで出てくるメロンよりもボリューム感がある。


 その淡い緑色の果肉は、大気にさらされたばかりのようにみずみずしく、シロップのような果汁がみ入るように、なみなみとたたえられている。

 ひとたび口に入れたなら、舌の上にふんわりと滑らかに溶け出しそうで、ほとばしる甘さを髣髴ほうふつとさせていた。


 加えて勇太は、複雑な白い網目模様をまとった皮に、高級感が漂うマスクメロンを感じとったのだ。

 ここでの名前もスクマミロンであり、マスクメロンによく似ている。


 きっと、切り分けられる前の丸い時には、白い絹のような紙にくるまれ、うやうやしく桐の箱に収まっていたに違いないと、想像力がどんどんと膨らんでいき、きたるべき賞味の瞬間に、勇太の心はときめいていた。


 しかし勇太以上に、驚きとときめきを隠せないのはミマである。

「な、なぜ、スクマミロンがここにあるのですか?


 これは、ミーリークでしか採れませんわ。それに、腐りやすいので国外へ出ることもございません!」


 ミマには天地が転がるほどに、とてつもない、でんぐり返しだった。どうやら、市場で言っていた好物の果物とは、このスクマミロンのことのようだった。


 ミマの驚いた顔に満足したのは領主である。得意顔となり、その声に、自慢げな息をからめて講釈を始める。

「スクマミロンは低温で運べば、腐りにくくなるようだ。


 水が染みない木箱に密封して、水槽に沈めて運ぶんだそうだ。宿場宿場で冷えた水に換えれば、低温を保って運べるらしい。


 新発想の新技術だな。


 お陰で、我が領内でも食せるのだ。それに、このスクマミロンはサマルカンド王家にとっては、神聖な食べ物と聞いたので、その新技術の話に乗ったのだ」


 勇太はトロピ界では物流が整っていると感じていた。この町だけでは、消費できそうにない数のキャベツが、畑にあったからである。

 そんな物流技術から、新技術が生まれたのだと納得した。


 にしても領主の講釈は、新技術を売り込んだ何者かの存在を臭わせていた。


 だが、ミマは感激のあまり、そんなことは気にしていない。

「ありがとうございます! ありがとうございます、領主様!

 ミーリーク、いいえ、サマルカンドにとっては、神様から魔法を授かった時に、共にいただいた神聖な食べ物なのですわ。


 本来なら種も一緒にいただくのですが、そこまで言ったら贅沢ぜいたくですわね。遠く離れた地でいただけるだけでも、感謝いたしますわ。


 ――ああ、まるで、夢のようですわ!」

 恋人を見つめるほどに、目がトロンとしている。半端なく嬉しそうだ。


 しかしミマは、市場でメメ(梅のような果物)を食べた時のように、スクマミロンも種まで食べていたようだ。

 勇太はメロンの種を食べたいと思ったことは一度もない。粒粒とした不思議な喉越しを想像しつつ、キモイと思いながらも、一種独特な異文化気分に浸った。


「それでは、いただきます、なのですわ!」

 気付くと、ミマがスプーンを持っていた!


 肝心なことを忘れている!

「ジャンケンだよ! 毒見をしないとっ!」


 勇太の言葉に、ミマは少し不機嫌ふきげんな顔になったが、その気持ちをおさえた。

「そ、そうでしたわね。最初はグー ジャンケン ポン」


 ミマ、チョキ

 勇太、グー

 勇太の勝ち。


 勇太はマスクメロン、じゃないスクマミロンを凝視により毒見する。




 危険! 超危険!




「ミマ! 食べちゃダメだっ! 絶対にだっ!」


 勇太のてのひらが、勢いよく飛び出した!


 並んで座るミマの口を、塞がんとするほどにである。


「ウソですわ!

 これは切ったばかりのスクマミロンですわ!

 毒なんてことはございませんわ!


 それに、神聖な食べ物ですわ! 早く食べるのですわ!」

 不満があふれている。


「ごめん、だけど、その果物は危険だって、俺の勘が言うんだ! すぐにどうにかなっちゃうくらいに、最高レベルの危険を感じるんだよ!」


 バンッ!


 領主がテーブルを叩いて立ち上がった!


「何を言うか! 毒なんて入っておらぬわ! 会食の前に、わしは味見をしたのだぞっ! わしはすでに食べたのだ! 腹も痛くないし、何ともなかったぞっ!」

 と、勇太を睨んだ。


 メイドの1人が手を上げた。

「私も味見をいたしました。体に不調はございません」

 食べた人は何ともなさそうだ。


 勇太には、しかし、である。


「ど、毒かどうかは、分かりません。

 ミマが食べようとしているメロン、じゃない、スクマミロンに危険を感じるんです!」

 勘が示すままにしか答えられない。理由は分からなかった。


「それなら、ですわ。勇太の前にあるスクマミロンは、どうですの?」

 ミマは勇太の前に置かれた皿を、小さく指差した。


「そうか、こっちが安全なら交換すればいいのか、ならジャンケンを……あれ?」

 勇太の能力レベルが上がったようで、ジャンケンをするまでもなく勘が告げる。


「ジャンケンを重ねて、毒見能力のレベルが上がったみたいだ。今のままでも、俺のは安全と分かるよ。ミマ、こっちを食べて」

 まだ食べていないので、自分の皿とミマの皿を交換した。


 召喚された時に、能力が上がる時があるとイラシャから言われていたのだ。これがそうなのだと勇太は思った。


 ジャンケン後に、毒見ができる時間が延びたようなのだ。


「では、安全なスクマミロンをいただきますわ」

 ミマがスプーンをスクマミロンに当てる。




 危険! 毒、毒、超ヤバッ!




「ヤ、ヤバイ! 食べちゃダメだ!」

 勇太は、スプーンを持ったミマの手をつかんだ!


「どうしたのですっ! これは安全と言ったばかりですわっ! スクマミロンは、あたしの好物ですのよ! 意地悪をしては、なりませんわ!」


 ミマの目が少々つりあがる。勇太への信頼が揺らいだ。でも、レベルアップした毒見能力が危険と告げたのだ。


「意地悪じゃないんだ。危険になったんだよ!」


「きっと、ジャンケンをしてないから、毒見が狂ったのですわ。ジャンケンをしてから毒見をするのですわ。やりますわよ。最初はグー……」


 ジャンケンしてからも同じくミマの前に置かれた皿だけが危険であった。


 領主は2人の違和感に、毒と言われた怒りを忘れ、かえって冷静になった。


「異世界の少年よ! わしのスクマミロンはどうだ? 危険なのか? 安全なのか?」


 勇太は安全であると告げた。


「そうか、ならば、まだ食べておらぬから、このスクマミロンを姫が食べると良い」


 メイドが領主の皿をミマの前に置いた。

 その直後。




 毒入り危険! 食べたら死ぬで。




 勇太の勘が、古い未解決事件の台詞で騒いだ!

「ダ、ダメだ! 食べちゃダメ! なぜか、ミマの前に来ると、危険と感じるんだ!」


 皿を置かせた領主には予想の範囲内だ。

「では、メイドが持っている皿はどうだ? 少年から、姫、メイドの順で位置が変わった皿だぞ。


 そうだな。正確にはジャンケンだったな、相手はこのわしでも良いか? だが、わしは強いぞ!」







【勇太はマスクメロン(スクマミロン)に危険を感じますが、ミマから離すとその危険を感じません。勘に頼った毒見なので、その理由が全く分からないのです。次回は、筋肉ムキムキな大男の領主と勇太が勝負をします。ジャンケンではありますが……】




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