第21話 第五章 会食(2/2)

【約2900文字】



【ミマは毒見役にした勇太を伴って、自分が毒殺されると占われた領主の屋敷へと行き、会食の席に臨む。そして、勇太が毒見役であると領主に紹介するのだった】



「わしが領主のバーゼラルドである……って、


 お、おい! お主は毒見役なのか?


 ――どういうことだっ!

 姫よっ! このわしが、毒を盛るとでも思ったかっ!」


 怒ってる!

 大声をあげて怒ってる!


「いいえ、領主様の性格からすれば、毒は使わないと存じておりますわ。それに、あたしを葬る理由もございませんわ。

 占いババが治癒魔法の代金代わりに占ったら、ここで毒を食べる可能性があると出ましたの。


 なので、毒見役を召喚させたのですわ!」

 ミマが食い下がるように説明した。


 領主は立ったまま腕組みをする。もう怒りは引いたみたいだ。どうやら占いババと言うと、みんなが納得するようだ。


「占いババか……、よく当るのではあるが、肝心なところで外すんだよなぁ。

 最近、転んで、起き上がる時に腰を痛めたと言っていたが、もう治ったのか?」


 転んだ時ではない、起き上がる時に痛めたようだ。年寄りとは思いもよらない時に体を痛めるものである。


「はい、もう痛くないと言っておりました」

 ミマは微笑みを添えて答えた。


「占いババの占いに備えての毒見役であるか。まあ、わしには姫をどうこうしたい理由もないし、わしが毒を使わないとも分かっているのなら、それでよい。


 全くの取り越し苦労となるだろうさっ!


 ――それで、毒見役が食って、どのくらい経ってから姫が食えるようになるのだ?」


 毒には即効性ではないものもあるので、通常、毒見役が食べて、毒が効く時間を待ってから、雇い主が食べるのである。

 だから、日本の殿様は冷めた料理しか、食べられなかったのだ。


 でも勇太は違う。

「この毒見役は食べずとも毒を見つけます。


 すでに市場でも腐ったメメを見つけました。もし、あたしが食べていたのなら、今頃は腹痛と格闘していたところでしたわ」


 と、いうことは、自らには治癒魔法が効かないらしい。


 まあ、それはいいとして、さわやかに言ってのけたミマに対して、領主はちょっと難しい顔をした。だが、すぐに気付きのまなこを上げる。


「異世界人の術というわけか。どんな術かは分からんが、食わずとも毒を見つけられるというわけだな。ウム、それなら、一緒に食えるなっ!」

 領主は細かいことは吹き飛ばし、晴れやかに言い放った。


「はい」

 ミマは不安を消し去るように、冴え渡る声をもって明るく応えた。


 ウムッ! と、領主は軽くうなづいて、納得の表情。


 勇太は何も起きずに、良かった~~っ! と胸をなでおろしたのだった。




「よし! では、食事を運びなさい」

 領主が軽く手を上げた。


 両手に料理を持ったメイドたちが、列をなしてやってくる。

 若いビキニメイドが、ずらずらと10人以上も大盤振る舞い。


 色気漂うお姉さんメイド、実る前の青い中学生っぽいメイド、お嬢様のような気高いメイド、素朴な田舎臭いメイド、引き締まった筋肉のスプリンターメイド、柔らかさ最高のぽっちゃりメイド、などなど、ビキニメイドのオンパレードである。


 足足、腿腿もももも、胸胸、腹腹、腰腰、勇太はヤバイ、ヤバイと心で叫ぶ!


 でも、鼻が反応しない。

 そうなのだ。ミマが行なった治癒魔法は、その時以上の刺激がなければ出血しないのである。


 チクミがビキニを食い破って、ミマがポロリと出した時以上の刺激がないと、鼻からの出血は起きないのだ。


 ミマも出血のない勇太を見て満足しているようだった。


 勇太がビキニメイドたちにドギマギしている間に、からのテーブルには料理の花が咲いていた。

 どうやら、フランス料理の方式とは違い、中国料理のように、大皿に盛った料理を一気に並べるようだ。

 取り皿が用意してあるところから、大皿から個々人で取り分けて食べるように思えた。


 特にゲテモノ料理は見当たらない。レストランで見るような、少々高級な西洋料理に似た料理であった。ちなみに、勇太も作者も本当の高級料理を知らない。


「さあ、存分に食べてくれ!」


「領主様、ジャンケンをいたしますが、お気になさらないでください」

「ジャンケンとは、どういうことだ?」


 ミマが毒見のやり方を説明した。領主は何となく分かったようで、ミマと勇太のジャンケンが始まる。


「「最初はグー、ジャンケン ポン」」


 ミマ、チョキ

 勇太、グー

 勇太の勝ち。


 勇太はテーブル全体を思ってジャンケンをしていた。どの皿からも危険を感じなかった。


「ここの皿は全部安全だよ」


 ミマは思い出す。

 20ほどの水滴の中から、数を減らしながら次々と蛇毒を言い当てたのは勇太である。そのゆるぎない能力を改めて心に刻み直した。

 実績に裏付けられた信頼の気持ちを込めて、ミマはニッコリとする。


「それでは、いただきますわ」


 大皿から自らの手で料理を取り分けると、フォーク1本でバクバクと始めた。

 上品とは程遠い男らしい食いっぷりである。ミマは、どんどんと腹に料理を収めていく。


 領主はメイドがよそった料理を、フォークとナイフとスプーンを使って、ごく普通に食べる。体の割にはペースは遅いようだ。


 勇太はというと、全種類の料理を制覇するように、ちびちびと食べていた。というのは、思ったほど食欲がないからだ。


 なので、ミマの食べっぷりを不思議に思った。

「ねぇ、市場で果物をたくさん食べてたけど、まだお腹に入るの?」


「モグモグ も、問題、ご、ございませんわ! モグモグ」

 ミマはしょく強者つわものであった。



 その食いっぷりに満足した領主が打ち明け始める。

「実を言うとな。娘のケガと全快祝いは口実でな。


 本当は、この食事は姫の仕事ぶりに対する感謝なんだ。


 姫はたいして代金を取らなかったり、食べ物を代金代わりにしたり、貧しい者には無料だったりと、が領内の人々に治癒魔法を惜しみなく使ってくれたんだ。


 なので、そのねぎらいなんだよ。

 だがなぁ、正直に言って呼ぶと、姫が人々の治癒を優先して、断るかも知れぬと心配したんだ。だから、口実を作ったというわけだ」

 どうやら、領主から本音が出たようだ。


 勇太もこの人は毒を使わないと確信した。


 ミマも食べる手を一時止める。

「ありがとうございます。お金をもらえば、そのお金を守らねばなりません。今のところ、あたしの護衛は蛇1匹ですので、無用な蓄財を避けているのです」


 森の中にひっそりと建つ朽ちた別荘に住んでいるのだ。盗賊の標的にならないように考えていたようだ。


「姫の生活ぶりを見てから、屋敷に招こうと思っておったのだ。サマルカンド王家は派手好みと聞いていたからなあ」

 ワハハハと、笑った。


「昔のことですわ」

 ミマは恥ずかしそうだ。


「それにしても、姫はよく食うなあ」

 領主はミマの食いっぷりに感心する。


「はしたなくて、申し訳ありませんわ。

 魔法を使うと、無性にお腹が減ってしまうんですの。代金より食べ物をもらうのは、空腹をいち早く満たしたいという欲求もあるからなのですわ……」

 また恥ずかしそう。


 魔法は思ったよりエネルギーを使うようだ。


「ハハハ! 食い気が先に立つのは魔法のためか! 『魔法姫にして、豪快!』といったところだな!

 さあ、どんどん食べてくれ!」

 ふところが深そうな領主で、勇太は安心した。


「お恥ずかしいですわ」

 ミマは指先でちょんと口元を一度押さえると、怒涛どとうごとく食事を再開するのだった。








【今のところ、毒の気配はありません。領主も毒を盛る人物に見えません。では毒はどうなったのでしょう? 次回、その毒? が登場します】




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