第五章 会食

第20話 第五章 会食(1/2)

【約2200文字】



【ミマは毒見役にした勇太を伴って、自分が毒殺されると占われた領主の屋敷へと行く。そこで、ケガ? をした領主の娘を治療した後に会食の席に呼ばれ、メイドに案内されて2人は屋敷の敷地内を歩くのだった】



   第五章 会食


 ミマと勇太が通された場所は、部屋でもなければ屋内でもない。

 広い中庭であった。


 そこは石壁いしかべや石造りの建物に囲われてはいるが、花壇があったり、人間くらいに太い木が何本も植わっていたりして、手入れの行き届いた西洋庭園だった。


 その庭の真ん中に、バスケコートの半分くらいの広さを持つ芝生のフィールドが、ポッカリと空に向かって口を開けている。


 その芝生はゴルフ場のグリーンのように短く丁寧に刈られ、きれいな水平面になるように整えらている。

 ミマの家で見た伸び放題の草地とは比べ物にならない。


 その芝生が生えたフィールドの真ん中に、畳二畳弱たたみにじょうじゃくの広さをもつアンティーク風なテーブルと、それに付属するデザインのイスが3つ、2対1で向かい合うようにしつらえられていた。


 テーブルの上はスッとした平面でしかなく、花瓶も装飾品も何も載っていなかったが、さながら、リゾートホテルの屋外レストランのように見えた。


 青空の下で会食だろうか? そうであれば、なんと気分がいいことだろう。

 毒という懸念材料さえなければ、ワクワクしていたはずの勇太である。


「おかけになって、お待ち願います」

 メイドは2つ並んだイスを示すと、来た道を帰っていった。


 ミマと勇太の2人だけとなった。

「ここで会食のようですわね。さあ、座りましょう」

 さっそく席に着く。


 きれいな庭なのに逆に不安を感じる勇太である。

「庭園で食事なんて豪勢だけど、ここで毒が出されるのかな?」


「そんな気がしますわね。ですから、勇太は毒見役と領主様に紹介いたしますわ」

 ミマは正直に伝えるというのか?


「毒見役なんて言ったら、疑っているって思われないかな? 従者とか、護衛とかと言った方がいいんじゃないの?」


「ジャンケンをする必要がありますし、下手な理由を言っても、ボロが出るだけですわ。あたしは正直なところを話すつもりですわ」

 ミマは覚悟をまとっている。


 そうだ、ジャンケンをしないと毒見ができなかったんだ。食べる前にジャンケンなんて不審に思うだろうな。

 それでも、あからさまに毒見役なんて言ってもいいのだろうか? テーブルの下でジャンケンという手もあるだろうし……。


「毒を疑っているって、思われちゃってもいいの?」

「必要なら、それも合わせて伝えますわ」

「気を悪くしないかな?」


 ミマは、勇太みたいに心配しているようには、全然見えない。

「領主様の性格からすれば、大丈夫と思いますわ。逆にウソを言った方が、よくない結果になりますわ」


 ミマは領主と面識があるのだから、勇太には出る幕がなさそうだ。

「分かった。ここはミマに任せるよ」





「やあっ! お待たせしたね!」

 大男が建物の影から現れた。


 低い声ではあるが明るい口調、190センチはありそうな20代後半くらいの筋肉男だ。(作者:声はOオー塚明夫さんをイメージしています)


 もちろん彼も水着だが、トランクスタイプではなく、ボディビルダーがコンテストで使うような黒いビキニパンツである。


 筋肉男なだけに、上半身は見事なまでの逆三角形だ。

 分厚い胸板、元気に割れた腹筋、頭ほどに太い首、そして頑丈な肩からは、力こぶがよく似合う腕を生やしている。


 下半身も同様で、太腿なんてミマのお腹よりもずっと太いし、ふくらはぎだってパンパンに膨らんでいて、裸足の大足とともに、その大きな全身を大地に支えている。


 しかしながら、ボディビルダーのようなツルンとした素肌はよく見えない。と言うのは体毛に富み、その長さは短いながらも、野人さながに毛深いからである。


 なのに、なぜ筋肉の肉付きが、詳しく分かったのか?

 その理由は金髪だからだ。


 その体毛の全てが、優美さが漂う金色なのである。なので、肉付きまでよく見えたというわけだ。


 もちろん頭も金髪である。

 しかも長髪で、クルクルと悩ましいくらいに天然パーマがかかっている。さらに、その瞳はブルーであり、勇太にはモロに外国人だった。


 馴染なじみのゲームから言えば、肉体派の戦士か、その上官の戦士長くらいにしか見えなかった。


 領主らしいところといえば、せいぜい整ったヒゲくらいである。特にとがった金色のアゴヒゲは、支配者の風格を持っていた。


 そんなキャラの濃い金髪筋肉男が、イケ面サッカー選手ばりのさわやかな笑顔をたずさえて現れたのである。


 すかさずミマが立ち上がった。勇太もつられて立ってしまう。


「お招き、ありがとうございます」

 ミマが深々と頭を下げたので、勇太も黙って真似をした。


 ウムと筋肉男は、納得するように、うなづいた。

「これから食事だが、これは、娘のケガを治してもらったお礼だよ。ただ、当の娘は外へ出て行ったがな。ハハハ……。


 すぐに食事を運ばせるが、――姫よ。そちらはどなたかな? 見たところ異世界人のように見えるが」


 勇太が学生服を着ているから、すぐに分かったし、ミマの胸にはカエルシールのチクミが貼ってあったから、より明白に分かったようだ。


「この人の名前は勇太、あたしが毒見役として召喚させた異世界人ですわ」

 ミマが紹介してくれた。


「毒見役の勇太です」

 勇太は一言だけで済ますと、チョコンと頭を下げた。


 筋肉男が力こぶを作って、筋肉を強調するポーズ。

「わしが領主のバーゼラルドである……って、


 お、おい! お主は毒見役なのか?


 ――どういうことだっ!

 姫よっ! このわしが、毒を盛るとでも思ったかっ!」


 怒ってる!

 大声をあげて怒ってる!






【ミマが勇太を毒見役として紹介してしまいました。領主は毒を警戒されていると思い怒りが沸き起こったのでした。次回は、その会食が始まります】


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