第19話 第四章 領主の屋敷(4/4)

【約3400文字】



【ミーリーク王国の末裔であるミマの毒見役として、ジャンケンで毒見ができる勇太が召喚された。ミマが毒殺されると占われた領主の屋敷は、丘の上に建つ城壁の中にあったのである】



 城壁へ向かう道には、明るい灰色の砂利が敷いてあり、ジャリジャリと音を立てて登る。だが、ゆるい傾斜の割にはクネクネが多い。必要以上に道が蛇行していた。


 すぐ上を通るU字の折り返し道は、今歩いている道から10メートルも離れていない。


「近道しようか?」

 勇太は軽い気持ちでミマに提案した。

 草地の斜面は緩く、ショートカットであっても楽に登れると思ったのだ。


「ダメですわっ! 絶対に草地には入ってはなりませんわっ!」

 ミマが真面目ににらんできた。


 理由を聞くと、敵に対する備えとしての罠があるらしい。小さくとも立派に城なのである。


 城壁の周りが危ないことは、トロピ界では子供でも知っており、勇太の平和ボケが露呈したのだった。




 クネクネと砂利道を忠実に登りきると、すぐに石の城壁である。


 しかし、入口である城門は登ってすぐの城壁にはない。


 城壁と城壁に挟まれ、馬車が通れる程の通路を10メートルほど直進した奥にあった。


 そうなのであるが、3階くらいの高さがある石の壁に挟まれているのだ。城らしい威圧感に圧倒されてしまう。


 勇太は気付いてないが、これは城門に到達した敵を、左右の城壁から攻撃できる構造なのだ。


 圧倒されつつも、その通路を通って城門の前までいくと、そこには2人の門番が槍を1本ずつたずさえて立っていた。


 普通のように感じるが、2人とも海パン姿である。

 さすがに裸足でなかったが、まるで竜宮城の門番だ。


 おとぎ話の世界になってしまい、せっかくの城らしい威圧感が台無しとなった。


 ミマが近づくと、話が通っていたようで、すんなりと入城できた。案内係のメイドが1人待機しており、彼女の後について歩き出す。


 当然、そのメイドもビキニだ。

 ビキニなのにメイドと一目で分かった理由は、ビキニにメイド服っぽい絵が描いてあったからだった。


 ビキニメイドと言えば、大人専用のゲームや、大人しか読めない漫画に登場するキャラなので、勇太は恥ずかしいやら、嬉しいやらであった。


 城内には建物がいくつかあり、どれも石造りでドッシリとしているのだが、要塞という雰囲気はなかった。大きな屋敷の敷地内に迷い込んだみたいだった。



 中でも一番大きな建物に案内される。

 その玄関や廊下は、ゲームで見るお城の内装ほど豪華ではないものの、一般家屋よりもずっと上品な造りだった。


 廊下を少し歩き、あるドアの前でメイドの足が止まった。


 ドアの向こう側にもメイドが1人おり、呼応してドアが開けられた。ミマと勇太だけがそのドアの奥へ入り、2人のメイドはドアの外に待機した。


 その部屋は学校の教室くらいに広い。窓も大きいので、照明がなくても明るかった。


 なので、よく分かる。

 壁も、天井も、カーペットも、家具も、ベッドの寝具も、どれもこれもがパステル調なのだ。

 そして、動物のいぐるみが幾つもあり、かわいらしさに拍車をかけていた。


「あっ! 姫様だ! と、隣は誰?」

 小学校に入学する前くらいの女の子が、子犬のように愛らしく駆け寄って来た。


 青いつぶらな瞳をもった少女である。

 長い金髪を愛らしいツインテールに仕上げているものの、幼さが先に立って、上品さはまだ備わってないようだ。


 ご多分にれず、この子もビキニである。

 ピンク色のビキニで白いレースのヒラヒラが、トップにもボトムにもついていて可愛らしい。当然胸はペッタンコだ。


 そんな子が、勇太を見るなり『誰』と言って首をかしげた。


 ミマはしゃがみ、目の高さを同じにして、ニッコリとして見せる。

「ナナお嬢様、こんにちは。あたしの隣にいる人は、あたしの毒見役ですわ。気になさらないでね」


 この子はナナちゃんと言うらしい。


 勇太も挨拶だ。

「こんにちは、俺は勇太、毒見役だよ」

 同じように微笑んで見せた。


 ナナちゃんは1つうなづいたが、毒見役の意味が分からないようだった。

「こ、こんにちは。そっちの人は、分かんないけど、分かった。


 それで姫様、おっぱいにカエルさんがいるよ!」

 思いっきり、指を差す。もちろんチクミのことだ。


 チクミはミマの左胸に貼られたカエルシール、ビキニの穴からポヨンッと飛び出しているので、よく目立つのだ。


 市場では、勇太だけがジロジロ見られていたと感じていたが、ミマの胸も同様であった。異世界召喚を知っている大人だったから、特に何も言わなかったのである。

 子供は純粋で正直なのだ。


「これは召喚業者のシールですわ。恥ずかしいから、気になさらないでね」

 ミマは困った笑い。


「気にしないけど、触ってもいい?」


 こ、子供なのに! お、女の子なのに! ミマの胸に触ろうというのかっ!


 でも、偉い! いきなり触らないで聞いてきたところは偉いぞ。


「ごめんなさい、なのですわ。がれるといけないから、触らないで欲しいんですの」

 ミマは引きつった笑いだ。


「うーん!」

 ナナちゃんの指は、触りたいポーズ。


「ケロケロ、触っちゃダメケロ、怖い人がおこりに来るケロよ」

 チクミも注意した。

 子供相手だからしゃべったみたいだ。


「しゃべった! しゃべるカエルさんだ! でも、怖い人は『や』なの。触りたいし、気になるけど、我慢するの」

 ナナちゃんは素直ないい子である。


「それで、ナナお嬢様、今日はどうなさいましたか?」

 ミマが本題に入った。


 ナナちゃんは不満な顔を向ける。

「こんなのケガじゃないって、言ったのに、お外へ出れないの」

 2つの困った眉毛が、真ん中に寄る。


「ケガですか? どこをケガされたのですか?」

「ここ、赤いとこ」

 左腕を見せる。見た感じ何ともない。少し赤いくらいだ。


「ただの擦り傷ですわね。痛いですか?」

「もう、痛くないよ」

「一日以上経っているようですが、いつケガをされましたか?」

「おとといの夜」


「分かりました。すぐに治してしまいますね」

「うん」

 ミマはどこからか、例の細長い棒を出して傷の上で振る。


「クランケ、クランケ、えろや、癒えろ。カラダ元気に、いつもの体」


 フアッ

 風が吹いたと言うか、気圧が変わった。


 魔法は空気に混じったエーテルを使う。ここは屋内なので閉じられた空間である。このため、空気の変化をより感じたようだ。


「あっ! 赤いのが取れた」

 ナナちゃんが言うように、赤みが消え何の痕跡もない。


「もう、お外で遊んでいい?」

 かわいい! 今日一番の笑顔だ。


「ダメですわ。傷は治りましたが、『外で遊んではいけません』と言った人に聞いてからですよ」


 早々に遊べると思っていたようで、ナナちゃんは意気消沈する。だが、すぐに解決策に気が付いた。


「パパがダメって言ったんだよっ! パパに聞かないといけないのか。パパの所へ行ってくるね!」


 タタタ バンッ! バタンッ!


 部屋のドアから、つむじ風のように出て行った。子供は思い立ったら、即行動なのである。


 部屋には、ミマと勇太が残された。あと、蛇とカエル。


 勇太は気持ちが緩んだ。

「あっけなかったな。これで家に帰れば、毒見役はおしまいってことかな?」

 しかし、ミマの顔は緩んでなどいない。


 勇太の腕に巻き付いているナーガも同様だった。

「口実っすね。あの子のケガは、ただの口実みたいっす」

 人がいないので、アクセサリーに振りをやめたようだ。


「そのようですわね。あの程度なら、塗り薬で十分ですわ」

「じゃあ、何? これからが危険の本番なの?」

 勇太も不安になってくる。


 ミマの胸がプルンと揺れた。

「そうケロ! これからケロ! まだ、目的のクエストをこなしていないケロよ」

 どうやら、シールのチクミが気持ちで跳ねると、ミマの胸を揺らすようだ。



 トントン

 ドアのノック! 蛇とカエルが元に戻った。


「どうぞ」

 ミマが返事をするとドアが開き、案内してくれたメイドが入って来た。

「失礼いたします。ご主人様が、ナナ様の全快を祝う会食の席を用意しております。これから会場へご案内いたします」


 メイドだから普通に『ご主人様』と呼ぶようだ。領主の屋敷なので本物感がビンビンである。

 メイド喫茶の『ご主人様』なんて、乾いているように思えてしまう。


 しかし、このメイドの本物感は声だけである。視覚的にはビキニメイド! メイド喫茶よりも、格段にしっとりとしてエロかった。



 部屋から出ると、再びメイドの後について歩き出す。

 ミマは不安の坂道を登るようだ。


 勇太はその不安を確かめるようと、ミマにヒソヒソ。

「この会食が、今日呼ばれた目的なのかな?」


「きっと、そうですわ」

 ミマの瞳には、暗い雲が垂れ込めていたのだった。







【かわいいナナちゃんでした。次回からは『第五章 会食』です。ナナちゃんの父親である領主が水着姿で登場します】




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