第18話 第四章 領主の屋敷(3/4)

【約4200文字】



【異世界に召喚された勇太はミマの毒見役となり、ミマと勇太はミマが毒殺されると占われた領主の屋敷へと向かう。その途中、立ち寄った市場にて、バナナに似た果物くだものをもらい勇太が初の毒見を行ったのだが……】



 危険は感じられない。

「どれにも毒は入ってないよ。食べて大丈夫だよ」


 勇太の安心宣言を聞いた女店主が、ナバナの房を突き出すほどに、目をいた!

「毒ですって! 姫様に毒を食べさせるわけないわ! 失礼ね!」

 勇太に食って掛かってきた。


「ごめん、そんなつもりじゃないんだ。俺もちゃんと食べるから」

 勇太は身をすくめながら、ナバナの皮を剥いて食べた。見た目通りバナナの味だ。


 ミマがペコンと頭を下げた。

「あたしからも謝りますわ。占いババから毒に注意するように言われたのですわ。ですから、毒見役を異世界から召喚しましたの」


 占いババと聞いて女店主の怒りは収まった。


「占いババですか、よく当るって人もいますけど、私から見れば、当るのはよくて7割ってところかしら」


 ミマが、ちょっと首をかしげる。

「そうなんですの? あたしは、すごく当ると聞きましたわ」

 占いを信じていたようだ。


「人によって違うのでしょうね。外れた話も案外と聞いていますよ。召喚ぞんでなければ、いいですね」


 召喚損! 召喚して損をするってことらしい。こんな言葉が生まれているくらいに召喚は珍しくないようだ。


 しかし、ミマには動じた様子がない。

「例え占いが外れたとしても、毒に用心できますし、あたしの場合、召喚代金は魔法力ですから、外れても召喚損ってことはございませんわ」

 魔法力がお金の代わりになるらしい。


「姫様は現物支払いですか。うらやましい」

「そうでも、ございませんわ」

 オホホホみたいな感じだった。


「では姫様、体の具合が悪くなった時は、お願いしますね」

 女店主が言うと、応えるようにミマがポンッと胸を叩いた。


「任せるのですわ」

 貼り付いているチクミもろとも、胸がポヨヨンッと跳ねた。


 ナバナの房を持った店主は安心して微笑むと、勇太たちが食べたナバナの皮も受け取って、屋台に戻った。


「びっくりしたケロ! いきなり、叩かれると驚くケロ」

 チクミが迷惑な目をミマに向けている。


「あ、ごめんなさいですわ、以後気を付けますわ」

「分かればいいケロ。また、シールの振りをするケロ」




 勇太は魔法力が代金ってところが気になっていた。

「召喚の代金って、魔法力なの?」


「普通はお金ですわ。でもあたしの場合は魔法力をビビビって、専用の壺に入れるのですわ。その魔法力の一部を使って召喚しますのよ。勇太はあたしの魔法力で召喚されたと思いますわ」


 力があるのなら、わざわざ頼む必要はない。

「ミマが直接召喚しないの?」


「技術がございませんわ。魔方陣も知りませんし……」


 魔方陣! 真っ暗で見れなかった。

「ああ、企業秘密って言ってたよ」


「と、言うくらいに、魔法の技術は、みんなが大事にしているのですわ」

「召喚する力はあっても、技術がないのか。不便だね」


「治癒魔法があれば、なんとか生活できますわ。いざとなったら、魔法力を売ればいいのですわ」

「召喚業者の他にも売れるの?」


「売れますわ。売って学費にしたくらいですわ。それに同じ王家で、あたしより強い魔法力を持っている人は、魔法力を売るだけで贅沢な生活をしていましたわ。魔法力はちゃんと食事をっていれば、無尽蔵むじんぞうなんですのよ」

 自家製の油田を持っているアラブの富豪みたいだ。勇太なら、遊んで暮らすと思った。


 でも、魔法力を売って学費にするとか、元魔法王家の割には意外と苦労をしているようだった。

 勇太は苦労話の1つでも聞きたいと思ったが、没落貧乏の話になると返答に困るし、自らの苦労を話したくない人もいるので控えたのだった。




 その後、ミマは市場のような通りで、いろいろな食べ物をもらった。どうやら、多くの人に治癒魔法をほどこしたらしい。


 もらった食べ物は果物と野菜ばかりだったが、領主の屋敷へ行く途中なので、その場で食べられない物は帰りにまとめて受け取ることにした。


 その場で食べられる物は勇太も毒見がてらに、ご相伴しょうばんあずかった。その全ては果物だった。


 聞くとミマは果物が好物であると言う。だから、店主たちも喜んでミマへ差し出しているのだ。


「あたしは、どの果物も好きですわ。でも、一番の好物はここでは食べられませんの」

 寂しそうにする。


「どうして?」

「ミーリークでしか育たないんですの。だから、故郷に帰った時の楽しみにするのですわ」


 地域によって、採れる果物が違うらしい。

 日本でも各地に特産の果物があるわけだし、このトロピ界もそう変わらないようだ。



 勇太はもらった全ての果物を毒見した。全部OKと言いたかったが、1つだけ危険を感じたものがあった。


 それは、甘い匂いをプンプンと漂わせ、緑色から橙色に変色しかけている梅に似た果物だった。ただ、梅よりも少々大きい。ここでの名前をメメという。


 小太りで店主の海パンおじさんが、一抱えもある大きなカゴにどっさりと入ったメメを持ってきたのであるが、その中の1つに危険を感じたのだ。


 勇太が指摘すると、慌てて店主が調べた。

「さすが異世界人だなあ。こいつだけ、腐ってまさぁ」

 そのメメは、一箇所だけげ茶色に変色していた。


 勇太の毒見を、横から見物していた男性客が声を荒げる。

「おいおい、買ってたら、ひどい目に合ってたぞ。腐りかけのメメは、見た目以上に毒性が強いんだからな!」

 店主を睨みつけた。


「いやー、すまん、すまん、見落としてたよ。でも、他は危険がない上物じょうものと、異世界人のお墨付きをもらえたから、安心だよ。ほらほら、安心な上に上物だよ!」


 安心と上物をことさらに言うので、多くの客が寄ってくる。

 どうやら、勇太は商売に貢献したようだ。

 上物とは言わなかったが、商売の方法だから、まあいいかと勇太は思った。


「兄ちゃん、お墨付きを、あんがとな」

 初めて会ったメメ屋のおじさんだけど、しかも、小太りの海パンおじさんだけど、勇太は感謝されて嬉しかった。


 自分が認められた気がした。異世界に来て良かったと心から思った。


 このメメは生で食べられる。毒見した後だったので、ミマは皮も剥かずにそのまま食べた。

 見ていた勇太も真似して食べる。


 酸味もあるが、ほのかに甘い。でも、匂いほどの甘さは感じなかった。

 真ん中には種が1個あり非常に硬く、口から出すと梅干の種と同じ形だが、大きさが2センチ以上はある。


 しかし、ミマには口から種を出した様子がない。

「ねえ、この梅、じゃない、メメの種はどうしたの?」

 勇太がてのひらに載せた種を見せた。


「あたしは飲み込んでしまいましたわ」

 何ともなさそうであるが、飲み込むには大きい。


 メメ屋の店主が、血相を変えて割り込んできた!

「姫様! 種は出すもんですよ! 喉に詰まっちまいますよ!」


 でも、ミマは平然。

「そうなのですの? あたしの国では、どの果物も、種まで食べますわ。今の種は固くて噛めなかったから、飲み込んだのですわ」

 ケロリとしてる。


 どうやらミマには、果物は種も食べる習慣があるらしい。


「ハハハッ! 姫様は案外と豪快なんだなあ!」

 店主はあきれて笑った。


 しかし、その後店主に説得されたので、これからはメメの種を飲み込まないようにするそうだ。


 思い返すと、スイカのような果物も、ミマはバリバリと種をんで食べていた。(厳密にはスイカは果物ではありません)


 店主がカットスイカのように、厚皮つきの扇形に切ってくれたので、勇太はスイカのごとく、赤い果肉を口に頬張ほおばり、種を地面に向けて吹き飛ばした。

 他の人も同じだった。


 でも、ミマだけが種を飛ばさずに、噛んで飲み込んだのだ。


 みんなに笑われたが、ミマは気にする様子もなく笑っていた。

 自分の習慣を恥ずかしいと思わないし、なるべく貫こうとしているようだった。



 屋台の市場は10数軒くらいしかなかった。

 売り物には畑で見たあのキャベツのような野菜もあり、この周辺でれたであろう野菜や果物が多いようだった。

 塩や香辛料などの調味料や、大人には欠かせないお酒もあった。

 でも、魚や貝などの水産物や食肉は、干した物や日持ちするように加工された物ばかりだった。どうやら冷蔵技術はないようだ。


 他には食器や壺や木製のタライ、タオルや石鹸などの日用品もあった。

 また、ここの衣服であるビキニや海パンも屋台で売っていた。

 生活必需品は、この市場で一通り手に入るようだった。



 町自体も小さく、市場を過ぎるとすぐに、家並みと防風林を抜けてしまう。


 抜けた先には丘があった。

 丘の斜面は全て草地であり、目を見張るほどに広い。その広さは見えているだけでも、勇太が通う高校の校庭や体育館を含めた敷地の4倍以上である。丘の高低差も優に30メートルはありそうだ。

 でも、山にしては低く、なだらかであり、ミマが丘と言うので、勇太もそれに合わせた。


 その丘の頂上には城壁が見える。

 加工された石で造られ、上部には『おう』の字のような切込みが、規則正しく幾つも並んでいる。なので、城壁と一目で分かった。

 大きさは、勇太が通う高校にある一番大きい校舎を、2つ並べたくらいもあり、3階ほどの高さがある。


 ただ、壁といっても単純な一つの垂直平面ではない。折り紙でいう山折りと谷折りの角を設けながら、平らな頂上地形に沿うように建てられていた。


 そして、城壁の左右両端には、やや背の高い円柱状の見張り台が隣接していて、その屋上にも城壁と同じような『凹』の字が並んでいる。


 石造り・『凹』の字・円柱の見張り台の3点から、いかにも中世ヨーロッパ風の城だった。


 しかしながら、城壁より高い建造物がその奥に確認できないので、実際には大きなとりでレベルと思われた。


 日本の城で言えば、堀の石垣だけで天守が見えない感じだ。(作者:天守が復元されていない城もあります。外からでは石垣だけしか見えない城は、思った以上に多いのかも知れません)


 ミマによると、その城壁の内側に領主の屋敷があるらしい。


 城壁へ向かう道には、明るい灰色の砂利が敷いてあり、ジャリジャリと音を立てて登る。だが、ゆるい傾斜の割にはクネクネが多い。必要以上に道が蛇行していた。


 すぐ上を通るU字の折り返し道は、今歩いている道から10メートルも離れていない。


「近道しようか?」

 勇太は軽い気持ちでミマに提案した。

 草地の斜面は緩く、ショートカットであっても楽に登れると思ったのだ。


「ダメですわっ! 絶対に草地には入ってはなりませんわっ!」









【果物の種まで食べるミマでした。そして、近道をしようとした勇太はミマに怒られてしまいます。なぜなのでしょう? 次回は領主の娘が登場します!】

【厳密にはスイカが果物ではない件について:

 消費者から見れば、スイカは、れっきとした果物です。ですが、お役所(農林水産省)の定義によれば野菜なのです。木に実り食用になるものは果物、草に実り副食物であるものは野菜に分類されるのです。なのでスイカは、ナスやキュウリと同じ野菜という位置付けになります。(副食物なので、米や麦は野菜には入りません)

 さらにその定義によれば、イチゴやバナナも野菜です。イチゴは草ですし、バナナも『バナナの木』と言いますが、実は木ではなく草の仲間なので野菜なのです。

 ただ、野菜ではありますが、果実的野菜(果菜かさい)と言っているみたいです。

 リンゴやモモは樹木なので、同じ木から何年も収穫が可能ですが、スイカは草なので、毎年種をいて(または苗を植えて)一から育てます。育て方や手入れが全く違うのです。

 そう考えると違いが分かり易いです。

 つまり育てる立場から、果物と野菜が分類されているのです。

 しかし、ご安心ください。本作ではスイカもバナナも果物として書いております。残念ながら、イチゴは登場しませんが……】








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