第17話 第四章 領主の屋敷(2/4)

【約4000文字】



【ミーリーク王国の末裔であるミマの毒見役として、ジャンケンで毒見ができる勇太が召喚された。2人は突然襲ってきた女剣士パルを退けて、毒殺されると占われた領主の屋敷へ向かうのであった】





 しかし、勇太には根本的な疑問がある。


 領主の屋敷へ行かなければ毒殺の心配もない。危険と分かっているのに、なぜミマは行くのだろうか?


「ところでミマ、どんな用件で領主の屋敷に呼ばれてるの?」


「娘さんがケガをされたそうですわ」

 前を歩くミマの顔は見えない。

 でも、その声からはケガの深刻さは感じなかった。


 ケガならば、治療は早いに越したことはない。

「すぐに行かなくてよかったの?」


「昨日、連絡が来て、すぐに行こうとしたのですわ。でも、翌日の昼に来て欲しいという要望だったのですわ」

 ミマの声にも、不可解なニュアンスがかぶさっている。


「大きなケガじゃないのかな?」

「そう感じましたわ。何か別に目的があるのでは? とか、思いましたわ。毒が頭をよぎって断ろうかと思いましたけど、娘さんのケガをそのままにはできませんから、行くことにしたのですわ」

 声から不安な気持ちがのぞきつつも、治癒魔法師としての使命感を帯びていた。

「そうだよね。子供に痛い思いをさせておけないよね」


 領主が企んでいる目的と占いババの毒殺が重なりそうであるが、パルに襲われる以前に、ミマはそれを否定していた。

「領主がミマを毒殺しないというのなら、別の誰かが毒を盛ろうとしているのかな?」


「あたしは、町に住む多く人たちに治癒魔法を施したのですわ。でも、敵意を持った人は1人もいませんでしたわ。誰も隣国の元王家であるあたしに、嫌な顔を1つも見せませんでしたのよ。この町に毒を盛る人なんて、1人もいませんわ!」

 最後には不機嫌な声となった。


「ごめん、気を悪くさせて。それじゃあ、ますます誰が毒を盛ろうとしているのか、分からないな」


「だから、困るのですわ」

 犯人を推測するには至らなかった。




 そんな話をしているうちに、道は森から出た。


 一面に畑が広がっている。

 その真ん中を、道が真っ直ぐに貫いていた。


 また、畦道あぜみちがその道と直交して左右に何本かあり、サッカーフィールド程の広さに畑を区切っているようだ。


 勇太には、ヨーロッパの片田舎を思わせる田園風景だ。


 その畑には丸っこいキャベツのような野菜が整然と並んでいる。同じ野菜ばかりだ。

 その作付け間隔は狭く、同じ野菜を大量に栽培しているように見える。近隣の地域だけでは余ってしまうほどの量がありそうだ。消費しきれるのだろうか? 


 なら、遠くの町へも出荷しているのだろう。

 勇太は素人ながらも流通の仕組みが整っていると思った。



 徐々に道幅が広くなり、途中から轍道わだちみちとなった。広くなったのでミマと並んで歩く。


 ミマを見ると、歩くたびにビキニの穴からはみ出ている胸がポヨンポヨンと跳ねている。

 危ない気持ちになりそうなので、勇太はあまり見ないことにした。


 畑が広いためか、農家の人には会わなかった。野菜や風景の話をしながら、畑にはさまれた真直まっすぐな道を2人で歩いた。



 しばらく歩くと、道は林に入った。ミマの別荘を囲んでいる森とは別の林である。


 すると、木々の間に石造りの家が何軒か見えてきた。

「おーっ! ゲームで見るような中世ヨーロッパ風の家だ!」

 石壁に茅葺かやぶき屋根の田舎屋である。


 その頑丈そうな田舎屋が不規則に並んいる。見慣れたゲーム画面の田舎町ようで、勇太がはしゃいだ。


 そんな様子に、ミマはくすっと笑う。

「やっぱり、異世界人には馴染なじみみがあるみたいですわね」

 他にも異世界人を知っているような口ぶりだ。


「もしかして、俺以外にも異世界人がいるの?」

「引っ越してきて、まだ2週間ですが、あたしの知る限りでは、この町には異世界人はいませんわね。以前に、自国で会ったことがあるのですわ」

「ここにはいないのか……」

 ちょっと残念だった。




 林は防風林だったようで、すぐに抜けて町へと入った。遠い先に店であろうか、屋台が見えた。


 市場があるのだろうか?

 まだ遠いので概要しか分からないが、屋台には布製の日除け屋根しかなく、商品は地面に置いた板や、膝くらいの高さにかさ上げされた板の上に載っている。ゲームに出てくるような粗末な造りの屋台だ。


 雨の日には休んでしまいそうで、のんびりとした牧歌的な雰囲気が、勇太にはなごんだ。毒を盛るような悪い人間がいるとは、とても思えなかった。


 市場の入り口を遠くから見ているためか、まだ人影を見かけない。

 さらに近づいていくと……。



「ええっ! な、なぜ?」

 勇太が思わず驚きの声を上げた。



 屋台の近くに2人の女性が立っている。おそらく店員のおばさんとお客のおばさんである。

 人の存在については、何の驚きもなかったのだが、その服装に勇太の目が釘付けとなったのだ。


 なんと、2人とも……、





 ビキニなのだ!





 ミマを初めて見た時、トロピ界だからトロピカルと思って納得していた。鼻血を出すほどに衝撃を受けた割には、ビキニの理由を聞きそびれていた。


 そして、ここでは、明らかにおばさん年齢の女性が、2人ともビキニなのだ!


 驚きの衝撃に声を失いながらも、ミマの後について、さらに数メートル進むと、似たような屋台が道の両側に何軒も並んでいると分かる。だが、そんなことはどうでもよい、もっと大勢の人間が勇太の目に入ったのだ。




 み、水着! 全員が水着だ!




 老若男女ろうにゃくなんにょ、全員が水着を着ている。特に女性はもれなくビキニなのである。


 子供を連れた母親も、小学生くらいの女の子も、店のおばちゃんも、杖をついたおばあさんも、負んぶされた赤ちゃんも、色や型はそれぞれ違うが、みんなビキニだ! しわしわの皮膚にビキニなんて、勇太には初めてだった。


 ビキニを見た後には、男なんてどうでもよかったが、トランクス型の海パンが多いようだった。


 しかし、その水着たちの後ろに見える背景は、中世ヨーロッパの牧歌的な町並みなのである。

 なんとも場違い、アンバランスに見えた。これが、異世界の文化なのだろうか?


「ミ、ミマッ! ちょっと、ちょっと! どうして、みんな水着、いや、ミマのような服なの?」

 勇太は、水着と言いかけたが、ミマが服と言ったのを思い出して言い直した。


 ミマが覗き込むように勇太の顔を見る。

「女性達を見ても鼻血は出ませんの?」


 逆に聞かれて戸惑いながらも素直に答える。

「で、出てないけど……。どうして?」


「特に何てこともございませんわ。あたしより刺激が小さかったことを確認しただけですわ」


 刺激?


 勇太が不思議な顔をしていると、ミマが何事もなかったかのように、水着の質問に答える。

「みんなが肌を見せているのは、より多くのエーテルに触れるためですわ」


 エーテル! 聞き覚えがある。

「魔法の素になるやつ?」


「そうですわ。空気に含まれているエーテルは、生命エネルギーの源と、古来から信じられていますのよ。より多くのエーテルが肌に触れていると、元気に長生きできるのですわ」

 ビキニは健康長寿のためらしい。


 気温は暑くもなく寒くもなく、暖かいくらいに感じる。しかし、水着姿で快適と言えるほどの気温ではない。

「寒くないの?」


「エーテルに触れているから寒くありませんわ。空気の薄い高山でない限り、寒いことはありませんわ」

 エーテルってだけで適温に感じるようだ。

 にしても、このエーテルとはトロピ界では思ったよりも、存在感がありそうだ。




 気が付くと、水着の人たちが勇太をジロジロと見ている。

 勇太は学校から召喚されたままだから、学生服姿であった。水着の中では逆に目立つのだ。でも、誰も見るだけで、特に話しかけたりはしない。


「ミマ、俺って目立ってる?」

「そう思いますけど、この町のみなさんも、異世界人の事情を分かっているみたいですわね」


 勇太を召喚したのは民間企業だった。召喚は商売になるのだ。召喚の頻度は高いはず、今は異世界人がいなくても、この町にも頻繁ひんぱんに来ているのだろう。


 実は、ミマの胸も勇太と同じくらいに目立っていた。左だけがビキニの穴からはみ出ており、大きく揺らして歩いてくるのだから当然である。

 でも、カエルシールを見て、誰もが異世界召喚を察したのだった。


 ミマはそんな胸を多くに人に見られても恥ずかしく思わなかったし、普段よりもずっと大きく揺らして歩いても特に痛みを感じない。

 恥ずかしさも痛みも、チクミの催眠液のお陰で緩和されているのである。



 そこへ、1人のおばさん、じゃない、女店主が近づいてきた。もちろん、ビキニである。


「姫様、先日はありがとうございました。治療代の代わりに、これを食べていってくださいな」


 バナナだ!

 女店主はミマにバナナの房を差し出した。

 勇太はバナナにビキニは似合っていると思ったが、持っているのがおばさんなので、特にコメントは差し控えた。


 ミマは優しくたずねる。

「あら、具合はよろしいんですの?」

「治していただいて以来、何ともありません」

「それは、良かったですわ。それなら、2本いただきますわ」


 どうやら、この女店主は、ミマの治癒魔法を受けたみたいだ。

 ミマはバナナの房から2本をプチンと外した。1本を勇太に渡しすと、普通に皮をき始める。


 勇太が受け取ったバナナは、重さも触感も普通のバナナと変わらない。

「これって、バナナ?」

「ナバナですわ。異世界人にも馴染みのある食べ物みたいですわね」


 ミマが大口を開けた! 食べようとしてる!


 勇太は思い出した!

「ちょっと待ったっ! 毒見! 毒見をしなきゃっ! ジャンケンをしよう」

「は、はい。ジャンケン ポンッ」

 ミマが慌てて始めてしまう。


 ミマ、グー

 勇太、パー

 勇太の勝ち。


 タイミングは微妙だったが勝負は成立した。

 勝ったので、毒見だ。


 ミマが皮を剥いたナバナと、自分のと、女店主が持っている房のナバナをまじまじと見る。


 危険は感じられない。

「どれにも毒は入ってないよ。食べて大丈夫だよ」


 勇太の安心宣言を聞いた女店主が、ナバナの房を突き出すほどに、目をいた!








【勇太が初めて食べ物の毒見をしました。何ともなさそうですが、店の人は怒っているようです。さて次回、ある食べ物に勇太が危険を告げます。また、次回はあらかじめ決めていた文字数よりも多いです】







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