第四章 領主の屋敷
第16話 第四章 領主の屋敷(1/4)
【約3100文字】
【トロピ界に召喚された
第四章 領主の屋敷
勇太とミマは突然現れた女剣士パルに襲われた。
女剣士は呪いのビキニに操られており、気絶させてビキニを脱がしたら正気を取り戻したのだった。
女剣士の名前はパルといい、勇太達を盗賊と勘違いしてビキニを取り戻そうとするが、光る蛇剣を聖剣と間違えて逃げてしまった。
呪いのビキニは、誰も拾わないように勇太が川の砂地に埋めたのだった。
その小川から勇太がミマのもとへ戻った。埃が溜まりゴミが散乱したような別荘の一室である。
治療魔法のお礼を言う機会がなかったので、改めて勇太が言う。
「ありがとう、ミマ。パルに斬られた胸の傷を治してくれて」
ミマは少し恥ずかしそう。
「あたしの方こそ、ごめんなさいですわ。
斬られたのに、すぐに気付かなかったのですわ。少し治癒魔法が遅れてしまったのですわ。
それに、あれほどの大ケガになると、本来なら、べ、別の魔法で治癒すべきなのですわ。
ですが、その魔法は、ま、まだ自信がありませんでしたから、通常の治癒魔法を使いましたの。
敵に追われながらということもあって、十分に治癒魔法をかけられませんでしたの。ごめんなさいなのですわ」
途中、顔を少々赤くしたものの、チョコンと頭を下げた。
「そ、そんなことないよ! 治癒してもらったから、早く目が覚めたと思うよ。ナーガの声だけじゃ、もっと遅くなっていたよ」
床に散乱しているゴミの間で、ニョロっとしてたナーガが、ピクンと反応した。
「何を言うっすか! アタイが起こしてあげなかったら、勇太は今でも寝ていたっすよ!」
ふんぞり返っている。
勇太は言い返そうしたが、それよりも早くチクミが口を出す。ミマの左胸に貼ってあるカエルシールだ。
「敵は蛇なんて、見向きもしなかったケロ! だから、暇だっただけケロよ。蛇は人間を起こす係が、お似合いケロね!」
カエルのくせに蛇をバカにした。
ナーガだってカエルには負けられない。
「チクミこそ、姫様にくっついてるだけで、何の役にも立ってないっすよ!」
「あっしは、契約が破棄になるんじゃないかと、冷や冷やものだったケロ! 『カエルの気持ち蛇知らず』ケロよ!」
トロピ界には、そんなことわざがあるのだろうか?
「フンッ! そんなことわざなんて、ないっすよ!」
チクミの創作だったようだ。
「もう! うるさいのですわ!」
ミマはナーガとチクミの他愛のない口喧嘩が我慢できなかったようだ。
「これから領主様のお屋敷に参りますわ! 静かにするのですわ! さあ、行きますわよ!」
ナーガとチクミが謝ると出発となった。
みんなで一緒に歩こうとすると、
「うわっ!」
と、勇太が声を上げた。
ナーガが勇太の左腕に飛び掛かり巻きついてきたのだ。
「アタイを乗っけて行くっすよ」
表情の分かりにくい蛇の顔。
勇太は乗り物にされたくなかったが、ナーガが自分の家来になったと思い出して寛容になる。
「あ、まあ、いいよ、軽いし」
しかし、さすがに変温動物である、腕が
朽ちた別荘の玄関ホールへ行くと、大皿やコップが入ったリュックサックが目に入った。
ミマに聞くと、この引っ越し荷物の全てを、いつもは背負って出かけているらしい。今日の行き先は領主の屋敷なので置いて行くようだ。それに、これまで盗賊の1人も現れなかったので、あまり心配はないとも言っていた。
リュックサックは投げ置かれた感じなので心配したが、確認すると大皿もコップも割れてなかった。
勇太とミマは玄関ホールを出る。そして、草地も通り抜けて森へと入った。
そこは藪ではなく細い道が続いている。
並んで歩けないので、勇太がミマの後ろについた。
そのミマは緊張の
毒殺が占われた屋敷に向かっているのだ。声をかけずらいので、勇太はナーガに話しかける。
「なあ、ナーガはいつも人間に巻きついて移動しているの?」
楽をしてるように見えた。
「アタイが、いくらかわいい小動物といっても毒蛇っす! 町に行ったら怖がられるっすよ。姫様まで怖がられてしまうっす。だから、いつも作り物の振りをしてるっすよ」
腕に巻きついたのは、アクセサリーの振りだったようだ。
「でも、それだけが理由なの? 楽をしたいんでしょ?」
勇太は意地悪っぽく攻めてみる。
「アタイは蛇っすよ! 蛇は省エネ動物っす。元々必要のない運動をしない主義っす。それに、体を休めておけば、いざという時に、力が出せるってもんすよ」
ナーガは蛇剣になれる。
だから、その役目のために体力を温存しているようだ。
「蛇は元来、怠け者ケロ!」
横から口を挟んだのはカエルシールのチクミである。
「怠けたいから、手も足も失ったケロよ。蛇は一日中寝て暮らしている超怠け者ケロ!」
そう言いながらミマの左胸でポヨンポヨンと跳ねている。右胸よりも、そしていつもよりも格段に弾んでいる。
というのは、ミマの左胸だけがビキニの穴からポロリ状態なのだ。チクミが視界確保のためにビキニを食い破ってしまったのだ。
しかし残念ながら、勇太は後ろを歩いているので、ミマの胸もチクミも見れなかった。
ナーガも同様なのだが、届かないながらも勇太の腕に巻いた頭を少し伸ばして言い返す。
「うるさいっすね! アタイは怠け者じゃないっすよ!
蛇は寝てるんじゃなくて、地面を這っているっす!
そして、手足がないのは、進化の結果っすよ!」
誇り高き蛇眼が光った。
「何が進化ケロ! 手も足もなくなって、退化ケロよ!」
チクミの顔は見えないがバカにした口ぶり。
「手足を捨てたのは進化っすよ!」
「退化ケロ! 怠け者の退化ケロ!」
「進化っすよ! 蛇は爬虫類の究極進化形っす!」
どっちも譲らない。
緊張の趣で歩いていたミマが、足を止めてクルッと勇太を向いた。
「うるさいですわ! これから領主様の屋敷や町へ行くのですのよ。黙っているのですわ!」
蛇とカエルの会話では、ミマの気がまぎれなかったようだ。
そんな声にナーガもシュンとなる。
「姫様、すまないっす! いつものように作り物の振りをするっすよ。アタイは省エネモードに入るっす」
ナーガは伸ばしていた頭も勇太の腕に巻きつけて、アクセサリーの真似をした。
「あっしの仕事は、蛇との喧嘩ではないケロ。会社の人からも、必要な時以外は静かにしていろと言われていたケロ。ただのシールをやるケロよ」
チクミも召喚業者から指示を受けているようで、ミマの左胸に貼りつきポヨンポヨンするだけのシールになった。
シールになったと言っても、描かれた絵であるから、特に見た目に変化はない。
毒殺される占いのために、ミマはナーバスになっていたようだ。
静かになった森の道を、再びミマと勇太が歩きだしたのだが……。
静か過ぎる。
より深刻になりそうなので、ミマの方から勇太に話しかてきた。
「勇太、よろしくお願いするのですわ。あたしは毒見能力を信じているのですわ」
振り向いた顔には信頼が満ちている。
「ミマは俺の勘を信じてくれるんだね」
「信じますわ。あたしの命を預けますわ」
信頼に加えて安心も感じた。
勇太の気が引き締まる。
何か、ミマに応えたい。
「そうだ、俺もミマと同じものを食べるよ」
江戸時代の毒見役は、殿様よりも先に同じものを食べて危険を受け止めたのだ。
勇太の体は霊体なので、死ぬことはないが、痛みや
毒見役として体を張るくらいの気概を見せたかったのである。
「よろしく願いしますわ」
再び振り向いたミマの顔からは、緊張の影が消えている。ホッとした勇太であった。
しかし、勇太には根本的な疑問がある。
領主の屋敷へ行かなければ毒殺の心配もない。危険と分かっているのに、なぜミマは行くのだろうか?
【次回は森を出て町に入ります。町には市場があり、もらい食い? をします】
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