第15話 第三章 王家への呪い(4/4)

【約4600文字】



【トロピ界に召喚され、ミマの毒見役となった勘秘勇太かんぴゆうたは、突然襲ってきた女剣士をナーガの蛇剣によって倒した。気絶している女剣士は呪われており、インナービキニを脱がせば、その呪いは解けて正気に戻るらしい。その脱がす役が勇太であると、ミマは言っているようなのだ】



「えっ? 俺? 俺が脱がしていいの? ってか、俺が脱がすの?」

 喜んじゃいけない。勇太は意外な振りをする。


 フワッ


 勇太が持つ剣が蛇のナーガに戻った。

「勇太がやるっすよ! その服は呪われてるっす! 姫様はさわれないっすからね」

 ミマは脱がすことができないようだ。


「お、俺は男だから、女用の服に呪われないの?」

 ビキニを服と言っているので、勇太も言葉を合わせた。


「勇太が異世界人だからっすよ。その体は霊体っす。だから、呪われないっす」

 堂々と、勇太が下着かビキニを脱がせていいようだ。


「しゃーないな。俺しかできないなら、俺がやるか」

 スケベに大義名分を得た気分。でも、少し恥ずかしい。


 ナーガが軽く視線を送る。

「そうでもないっすよ。強い心を持った人間には、呪いは通じないっす。呪いももとは心っす。本人の心が強ければ呪う心を跳ね返せるっすよ」

 呪いよりも、自分の心が強ければ大丈夫のようだ。


 でも、そのくらいなら言い返せる勇太である。

「呪いと自分の心と、どっちが強いかなんて、分かんないんだから賭けのようなものだよ。とにかく、異世界人の俺は確実に大丈夫ってことなんだね」


「だから、早く脱がすっす! 目を覚ましてしまうっすよ!」

「はい! やりますよ、はい!」

 若干残る恥ずかしさを紛らすために、勇太は軽い調子で答えた。


 勇太が、うつ伏せに倒れているガーゾイルのかたわらにしゃがむと、何か言いたげだったミマが口を開いた。

「ねえ、勇太はインナーを脱がせたら、鼻血を出すんですの?」

 なんか、ちょっとモジモジしてる?


 いきなりの質問で、勇太はどう答えていいか分からない。

「えっと、アーマーがあるし直接的には見えないから、鼻血は出ないと思うよ。……あっ、治癒魔法が必要なのかってことなの?」

 正直に応答した。


 ミマはちょっと慌てた感じ。

「そ、そうですわ。出ないのならよろしいのですわ」

 何かホッとしている。

 勇太は言った通り治癒魔法のことだろうと思った。


 さて、気を取り直してビキニ脱がしに取り掛かる。

 さっきもミマに言ったとおり、脱がせてもアーマーがあるのだから、大事な部分は見えない。倫理的にはセーフと言えた。作者も安心する。


 インナービキニは紐で結んであるが、戦闘用のためか、どこも固結びだ。

 勇太は爪を使って全ての結び目をほどいた。

「固結びなのに、思いのほか簡単に解けたよ」


 ホッとした顔を見せると、ナーガは少々あきれ顔。

「達人のエキスが、効いているっす。達人の技で解いたってことっすね」


 達人の技でビキニの紐を解くとか、なんか達人に申し訳なかった。



 そして、解いた紐を持ってビキニを引きずり出す。


 ニュ ニュニュ ニュニュ スィーーーーッ!

 トップもボトムも全部抜き出した。


 脱ぎたてビキニである。

 きっと生暖かいことだろう。


 しかし、ほおずりとかにおいをぐとかはやってはいけない、ミマとナーガが見ているのだ。変態と思われてしまう。絶対にダメである。


 勇太は何食わぬ顔をして立ち上がり、ガーゾイルから少し離れた床にビキニを置いた。


 引き出したので、ビキニ全体の模様が分かる。ミマが言ったように、灰色に黒くて細い縦線がセンチくらいの等間隔で複数本並んでいた。灰色と黒い線だけで、他にはアクセントはない。

 これが、アンチ魔法組合のイメージカラーのようだ。



「ひゃっ!」

 ガーゾイルが目を覚ました。

 金属製のビキニアーマーが、じかに当たって冷えたみたいだ。起き上がって胡坐あぐらをかいた。


「あれ? ボクはどうしたんだ? ……君たちは誰?」

 全くの別人!


 とても、これまでのガーゾイルには見えないし、ミマを殺そうとした記憶もないようだ。


 勇太は目線を合わせるように、少々かがんで答えてやる。

「俺の名前は勘秘勇太、この子はミマ・サマルカンドだよ。そしてここは、えーと、朽ちた別荘で、今はミマの家なんだ」


 サマルカンドと聞いても、女剣士には特別な反応がない。それどころか、寝起きのようにキョトンとしている。状況が飲み込めていない様子だ。


「ボクの名前はパル・ルックだよ」

 状況が分からないなりに名乗ってくれた。やっぱり、ガーゾイルという名前ではない。

 ミマが言うように、ガーゾイルとは100年前の人物名であり、そいつがビキニに呪いをかけたのだろう。


 だが、すぐにパルは、うーん、と頭を抱える。


「頭が痛いの?」

 勇太は心配した。なまくらとはいえ、後頭部へ蛇剣を打ち込んだのだ。


「あ、痛いのは少しだからいいんだ。それより、どうして、ボクがここに来たのか覚えてないんだよ。……はれ? なんか、スースーするな。あっ! 服がない!」


 ビキニアーマーの内側をのぞいてる。

 立ってる勇太にも内側が見えそう。ヤバイポーズだ。


 パルはオロオロと、うろたえたようにあわれな姿となって、目だけを使って自分のビキニを探す。


「君の服はこれだよ」

 勇太が呪いのビキニを拾い上げて、見えやすいように、紐を持ってプラプラと揺らして見せた。


「あっ! それっ! ボクの服っ! お前たちは盗賊か? 返せっ!」

 目を吊り上げ、おこりだした。


 ああ、これが怒る顔なんだと勇太は思った。

 ガーゾイルの時には、焼けた炭が破裂寸前というくらいに憎しみに染まっていたのだ。

 同じ顔なのに、明らかに違っている。

 いかれるパルには悪いとは思ったが、安心した勇太であった。


 ミマは譲れない。

「そのインナーは、呪われてますわ! だから、返せませんわ!」


 パルには言い訳にしか聞こえない。

「そんなの知らないよ! 返せ! 今日買ったばかりなんだ! 高かったんだぞ!」


 勢いよく立ち上がったが、すぐに、尻を後ろに突き出し顔を赤くする。

「いやーーっ! スースーする!」

 素肌の上に金属製のアーマーだから、さぞや風通しがいいのだろう。


 天井に刺さった大剣に気付いてクイッと抜いた。慌てなければ楽に抜けるようだ。そして、その大剣を構えたが、全然さまにならない、屁っぴり腰である。

 これまでの堂々とした構えではない。ガーゾイルではないということもあるだろうが、インナーがないと調子が狂うようだ。


「スースーするし、第一、恥ずかしいよ。ねぇ、ボクの服を返してよ!」

 しつこいかも知れないが、服とはビキニのことである。


 しかし例え、屁っぴり腰であっても、剣を構えた女剣士だ。

 ミマの安全を考えれば、勇太も対抗せざるを得ない。呪いのビキニを後ろ側の床に置いて、ナーガをつかんだ。


 ビュンッ

 一瞬で短いバージョンの蛇剣となり、空気とエーテル? をまとって光りだした。


 パルはまぶしそうな目。

「な、何? 聖剣っ! ……ち、畜生っ! そんな剣に、ボクが勝てる訳ないじゃないか! お、覚えてろっ!」


 タタタッ

 逃げた。


 中身は蛇なのだが、剣は神々こうごうしく光っている。見ようによっては聖剣に見えた。


 パルは部屋から廊下へ。勇太が追う。


「ちょ、ちょっと! 逃げなくても……」

 追われていると気付いたのか、パルは割れた窓から飛び出して森の藪へと消えてしまった。


 見届けた勇太が部屋へ戻ると、ミマが胸をなでおろしていた。


「良かったですわ~。逃げてくれて~」


 ナーガを床に置いた勇太は、ミマとは反対に心配になった。

「盗賊って言ってたから、警察を連れて来るかも知れないよ」


 ミマには心配の色はない。

「どうせ、これから領主様のお屋敷に参りますわ。その時に盗賊と間違えられたと伝えておけば、よろしいことですわ」


 ミマは領主の屋敷で毒殺されると占いに出たのだ。勇太が召喚されたのも、この毒殺に備えてのことである。


 領主とは、この地方の最高権力者なのだから、警察組織を手足のように使う側なのだ。

「それもそうか」

 勇太も安心したのだった。


「なら、早くこの服を捨てて来るっす!」

 ナーガが、床にある呪われたビキニを、尻尾で指を差す。


「どこへ捨てるの?」

「川へ行くっすよ」

「川に流しちゃうの?」


「バカっすね! 流したら、誰かが拾うっす! また、襲って来るっすよ! 呪いの服は川の砂地に埋めるっす! この辺りは人家がないから好都合っす」


 川なんて、飛んで来た時には見えなかったし、なんか、めいどい。

「燃やすのはダメなの?」


「燃やした時の灰や空気が、どう作用するか心配っす! 呪いが拡散したら困るっすよ」

 蛇のくせに慎重だった。


 考えてみると、呪いの煙を吸い込んだ人間が、徒党を組んでミマを襲いに来たら、かなりヤバイ。


 と、勇太は思い出す。

「ああ、そんなゾンビ映画を見たことあるな」

 古い映画である。(作者:『バタリ〇ンバ〇リアン』といいます)


「アタイは、エイガなんて知らないっすよ。服を川に埋めれば、大水の時に海まで流されて、土砂と一緒に海底に堆積するっす。そうなると、誰も拾えないっすからね。さあ、アタイが川に案内するっすよ」

 蛇なりに考えていた。




 呪いのビキニを埋めようと、ナーガと一緒に部屋を出ようしたところで勇太が振り向いた。1つ引っかかっていたことがあったからだ。


「ねえ、どうして、ミマはこの部屋で声をかけたの? 声を出さなかったら、ガーゾイルに見つからなかったでしょ、それに、見つかったのに、なんで逃げなかったの?」


 外にいたのだから、勇太がガーゾイルを相手にしている間に逃げられたはずだし、見つかった後も、勇太がガーゾイルを足止めしている間に逃げられたはずである。

 そして、どこか別の場所にミマが隠れて、勇太がガーゾイルを振り切って、ナーガにミマを見つけてもらって落ち合えると思っていた。そう、勇太はミマに伝えた。


「あ、あ、あの、そ、それは、えーと、勇太がナイトになれるかどうかを見ていたかったのですわ。姫にはナイトが必要なんですの」


 あまり、姫にこだわっていなかったミマが、いきなり姫を持ち出してきたので、勇太には違和感があった。


「俺は異世界人だし、クエストが終わったら帰るから、ナイトにはなれないし、それに、あの闘いは達人のエキスが闘ったんだよ。俺の実力じゃないんだ。俺はナイトより毒見役が合っていると思うよ」


 姫とナイトとか、いい響きではあったが、正直ミマの答えを勇太は信じられなかったのである。


「そ、そうなのですか、そ、それは残念でしたわ。そ、それでは川へ行ってらっしゃいまし」

 ミマは明かさなかったが、勇太の見立て通り、ナイトと言うはウソである。

 ウソなのであるが、実は蛇剣を渡して勇太の行動を見たかったというのは事実であった。


 剣の実力を見たかったという理由もあるが、勇太と言う男子が、自分を守るために闘う姿を見たかったというのが本音なのだ。そして、うっとりとしたかったのである。


 だが、そんなことを勘繰かんぐられたくないミマなのだ。うっすらと笑って早々に勇太とナーガを送り出したのだった。


 勇太には違和感が残ったが、女子とはそんなものだと深く考えずに結論付けた。




 そして、勇太はナーガの案内で、別荘の近くにある川にやって来た。川幅が1メートルくらいの小川である。

 森の木々に覆われているし、上空からは見えないだろう。


 岸辺の砂地にできるだけ深い穴を素手で掘り、呪いのビキニを埋めたのだった。


 それまでは、紐しか持たなかったので、この時初めてビキニの布に触ってみた。

 ナーガが見てるので、ほんのちょっとである。


 布は埃まみれだったが、スベスベとして滑らかであり、絹のようなカシミヤのような超高級品に思えた。


 しかも、生ビキニ!

 埋めてしまうなんて、もったいないと思う勇太であった。






【女剣士パルは逃げ、呪いのビキニは川の砂地に埋めました。一件落着です。

 次回は『第四章 領主の屋敷』です。ミマが毒殺されると占いに出た場所へ、2人で向かいます。いいえ、2人と2匹で向かいます】






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