第14話 第三章 王家への呪い(3/4)

【約3300文字】



【トロピ界に召喚された勘秘勇太かんぴゆうたはミマの毒見役となった。しかし、ミマを守るためにナーガから変わった蛇剣を持ち、ガーゾイルに闘いを挑んだのである】



「おい! ガーゾイル! 俺が相手だ!」


 ガサガサ!

 ガーゾイルはチラッと勇太を見たが、この部屋に隠れているミマの捜索をやめない。


 勇太はガーゾイルと対峙しようと部屋に入った。だが、床には散乱物が多いし、屋外が意外と明るくてまぶしい。

 なるべく空間が空いた場所に行って、大きな窓を背にしてガーゾイルへと向いた。

「俺が相手だ!」


 闘っている間に、隠れているミマを逃がせると勇太は思っていた。そして、頃合いを見計みはからってガーゾイルを振り切り、別荘のどこかに隠れたミマをナーガに見つけてもらえれば、ガーゾイルから逃げきれると踏んだのだ。


 なのに、そのガーゾイルは無関心、ミマの捜索を続けている。

「おいっ! 俺を見ろ!」


「無駄っす。ガーゾイルの興味は、サマルカンド王家だけっすよ。

 最初みたいに、つかんで行動を邪魔するとか、姫様との間に入らないと、たぶん闘わないっす!」


「あたしは、ここですわ」

 勇太やナーガの声が聞こえたからか、ミマが声を発した。


 後ろからだ。振り向くと、外だ!

 割れた大きな窓ガラスの外にいる。安全な屋外からガーゾイルを見ていたようだ。


「そこか! サマルカンド!」

 ダダッ!


 ガーゾイルがミマに向かうが、その前に勇太が立ちはだかる。窓を背にしていたのが功を奏した。


 実は、逆である。

 窓の近くに勇太が来たから、ミマが声をかけのだ。始めに蛇剣を持つように指示したのはミマなのである。その効果を見たかったのかも知れない。


 ガーゾイルが大剣を振り上げる!

 ズガッ!


 いや、振り上げようとしたら、低い天井に当った!

 この部屋で大剣は長過ぎるのだ。


 でも、ガーゾイルは動じることなく、すぐさま剣を横に振り直す。


 チンッ!

 でも、威力が半減!

 短くなった蛇剣でも、余裕で受け止めた。


 屋内では小太刀の方が有利と勇太は実感した。本か、映画のとおりだ。(作者:日本の時代劇です)

 このまま行けるかも知れない。


 ガーゾイルも初撃を止められただけである。

「そこをどけ!」

 ジャン チン ジャン


 二撃、三撃と何度も繰り出される大剣、勇太はその全てを受け切っている。


 剣の心得などないのに、ガーゾイルと互角にやり合えているのだ。ナーガによれば、達人のエキスが効いているためらしい。


「達人のエキスはケガを治すこともできるっすけど、本来の目的は剣技を導くことにあるんすよ」


 勇太は自分が闘っているのに、どこか他人ごとのような気がしてならない。達人のエキスは剣の技を教えるというよりも、本人の代わりに闘ってくれる存在のように思えた。


「達人の剣技を体感させながら習得させるっすよ」

 実践的な剣術教材のようだ。


 しかし今は剣の技術を学ぶよりもミマである。


 勇太はミマに逃げるように言ったのだが、『大丈夫』と言って窓の外から勇太が闘う姿を見るばかり、逃げる気配がなかった。


 ギギギ

 鍔迫つばぜり合いの力勝負、動きが一時的に止まった。


 ミマは時間ができたと思ったので、窓の外から報告する。

「勇太! 思い出しましたわ。ガーゾイルは今の人ではありませんわ。100年くらい前のアンチ魔法組合にいた人物の名前ですわ」


 100年前?

 でも、ガーゾイルの年齢は勇太とそう変わらないように見える。

「なら、その子孫か……」


 ガーゾイルがニヤリとする。

「フンッ! 思い出したようだな。だが、子孫などではない。私がアンチ魔法組合のガーゾイル本人なのだ。何年前かは憶えておらぬが、サマルカンドは私の家族を殺し、私を追い詰めたのだ! そして今、復讐の時が来たのだ!」


 家族を殺されたのは気の毒と勇太は思ったが、殺したのはミマじゃない。

「100年前なら、ミマは関係ないぞ!」

「そんな時間は、もうどうでもいい! サマルカンドは全員殺すのだ!」

 恨みしかないみたいだ。攻撃をやめない。


 ジャンッ ズジッ

 勇太は、達人のエキスでガーゾイルを防ぐ。


 その大剣を受けているナーガが気付いた。

「この女は子孫じゃないっす! そして、本人でもないっすよ! 剣を交えて感じたっす。

 このガーゾイルは、100年前の呪いっすよ!


 この女が呪われた物を身に着けていて、それに操られているっす」


 ナーガの考えによると、過去の呪いが人格を持つようになって、持ち物を介して現在の人間に取り憑き、呪った人間の分身であるかのように振舞っているらしい。


「だからっす。呪われた物を取り上げれば、正気に戻るはずっす!」


「この蛇っ! 余計なことをっ!」

 どうやら、図星のようだ。

「なら、その呪われた物って? 何?」


「そこまでは、分からないっす。面目ないっす……」

 ナーガは柄の中ですまなそうにする。

「ざまあみやがれっ! くそ蛇っ!」


 ジャジャン ギギギ チンッ! ジャンッ!


 達人のエキスのお陰で、勇太はガーゾイルの攻撃を防げている。とは言っても、体力的には及んでいない。


 長引くと不利だ。

「ナーガ、このままだと、いずれ疲労が来るよ。ミマもニヤニヤ見てるだけで逃げてくれないし……」


「そうっすね。姫様のお考えは別にして、防いでるだけじゃダメっすね。この女はノーヘルだから頭を狙うっすよ」

 ガーゾイルはかぶとかぶっていない。それをノーヘルと言っているのだ。バイクの交通違反みたいだ。


 でも、剣で頭を狙うのか?

「危険だよ」

 例え敵でも、女の子に大きな傷をつけたくない勇太である。


「大丈夫っす! アタイを信じるっすよ」

 呪われているとナーガが気付いたのだ。呪われている物を探そうとしてると勇太は思った。


「分かった。達人のエキスよ、敵の頭に一撃をっ!」

 蛇剣に力が入る!


「バカめ! 頭、頭と言えば、簡単に、防げ……」


 ズサーーーーンッ!


 ガーゾイルの大剣が天井に刺さった! 頭を守ろうとして、低い天井を忘れ、振り上げたら刺さったのだ。


「かかったっす!」

 ナーガはそこまで計算していたようだ。


「ぬ、抜けんぞ!」

 グイッ グイッ


「チャンスッ!」

 勇太はガーゾイルの後頭部へ蛇剣を打ち込んだ!


 ダズンッ!


 蛇剣の光る輪郭でできたやいばが、なまくらになっていた。

 木刀のようにガーゾイルを打ち負かしたのである。


 バタンッ! ボフンッ

 うつ伏せに倒れるガーゾイル、床に積もった埃を舞い上げた。


 しかし、倒れたままピクリともしない。


 勇太はヤバイと思って、ガーゾイルの顔を覗き込む。鼻息で床の埃を吹き飛ばしている。

「大丈夫だ、息をしているよ。


 でも、呪われた物って言っても、持ち物は大剣と、そのさやくらいだよ。他に荷物なんて持ってないぞ」


「きっと、あれですわ!」

 ミマが大きな窓の壊れた場所から部屋へ入ってきて指を差す。


「何?」

「服ですわ! 上下の服ですわ。と言っても、アーマーではなくて、インナーですわ。灰色のインナーが見えていますわ」


 ガーゾイルは女剣士、ビキニアーマーを装着している。


 ミマの言うインナーとは、金属のビキニアーマーをじかに着けられないので、肌と金属の間に着ているビキニのような、下着のような物のことであった。


 アーマーは体のサイズより太めに作られているようで、肉体との隙間が広い、加えてインナーの面積サイズはアーマーより少し広いので、胸のトップでは横側から、下のボトムでは横の腰辺りから灰色の布が見えている。

 さらに、ミマは上下セットで呪われているらしいと言った。


「それで、下着みたいだけど、上も下も取っちゃっていいの? 間違ってない?」

 アーマーが太めだし、インナーは紐でめたビキニなので、その紐を解けば、アーマーが装着されたままインナーを脱がすことは可能そうだ。

 それでも、勇太はスケベっぽくなってしまい、ヤバイと思った。なので念を押したのだ。


「間違いないですわ。その色はアンチ魔法組合のイメージカラーですわ」

 そんな組合にも、『イメージカラー』なんていうものがあるようだ。


「100年前なのに知ってるの?」

「アンチ魔法組合は今でもありますわ」

 100年以上も続く由緒ある組合らしい。


「でも、灰色ってだけで決めていいの?」

「細く黒い縦線も見えますわ。灰色とその線の組み合わせが、イメージカラーなのですわ!


 とにかく、目覚める前に脱がすのですわ! 急ぐのですわ!」

 ミマが勇太を見つめた。


「えっ? 俺? 俺が脱がしていいの? ってか、俺が脱がすの?」








【100年前の呪い(?)であるガーゾイルに、女剣士は取り憑かれていたようです。その呪いを解くには、ビキニを脱がす必要がありそう。その役が勇太に回ってきたみたいです。

 次回、ムフフな展開はあるのでしょうか? 乞うご期待!

 でも、本作の紹介文をよく読んだ人には、バレているかも……

 次回の文字数は紹介文で決めていた文字数より少し多いです】






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