第三章 王家への呪い

第12話 第三章 王家への呪い(1/4)

【約3000文字】



【トロピ界に召喚された勘秘勇太かんぴゆうたは、ミマの毒見役となった。帰る時に必要なシールは、ミマの左胸に貼られており、ビキニの布を破ってポロリと出てきたのだった。そして、シールにはしゃべるカエルが描かれており、チクミと命名される。と、そこへ……】



   第三章 王家への呪い


 森の中にポッカリと開いた野球場くらいの草地に、トロピ界へ召喚された勘秘勇太と、召喚を依頼したミマ・サマルカンドが立っていた。


 と、そこへ、森のやぶからビキニアーマーをまとった女剣士が現れた。


「サマルカンドの姫っ! お命頂戴っ!」


 姫とはミマに他ならない。


 そう叫ぶや否や剣を構えて突進してくる女剣士! 親のかたきと言わんばかりの形相だ。


 これほどの怒りを勇太は見たことがない。


 まるで、焼けている炭が熱で限界まで膨らんで、破裂する寸前であるかのように、その顔はカッカカッカと赤く燃えたぎっていた。


 勇太はミマが原因と思った。

「ミマ! 何をやらかしたんだ! あの人、スンゲー怒ってるぞ!」

「し、知らないですわ! あんな女、初めて見ますわ!」


 見るとどんどんと迫ってくる! 話が通じる速度じゃない。

「剣を持っているし、とにかく逃げよう!」

 勇太が言うよりも早く、ミマは脱兎のスタートを切っていた。


 ザザザッ!

 勇太は後を追いかける。


にっくきサマルカンドめーーーーっ!」

 剣を構えて追う女剣士。


 草地は荒地。

 草のたけひざほどもあり、足にまとわりついて走りずらい。


 だが、勇太はすぐにミマに追いつき並ぶ。ミマの足はそのくらいに遅かった。このままでは、いずれ女剣士に追いつかる。


 後方確認、もう10メートルくらいに迫っている。

 勇太は怒れるその気をらしたかった。

「今日は、いい天気ですね~」

 振り向きざまにバカなことを言ってみた。


 女剣士はちょこっとコケる。

「うるさい! 天気など、どうでもいい! そのサマルカンドを殺すのだ!」

 怒りを逸らせないどころか、殺すなんて物騒でたまらない!


「なぜ、殺すんだ! 『お前なんて知らない』って、この子は言ってるぞ!」

「その服の色こそが、王家の印! 王家だから殺すのだ! 殺す! 殺す! サマルカンドを殺す!」

 無茶苦茶だ! 


 でも、服を見て王家と分かったようだ。

「服が印?」

 服とはビキニのことである。


 ミマのビキニには、白地に青赤緑の隣接した3本の横線がある。


「はあはあ、この服はサマルカンド王家だけが使える配色なのですわ。はあはあ」

 横を走るミマが教えてくれた。


 女剣士はビキニを見てミマを殺そうとしているのだが、情報が少な過ぎる。対処法を思いつかない。振り返り聞く。

「この子が王家なら、あんたは誰だよ!」

 まずは名前だ。


「我が名はガーゾイル! サマルカンドの姫なら知っている名だ!」

 女の子なのに、ガーゾイル。

 ガーゴイルみたいで、不気味なイメージだ。(そう、同名の悪役が古いアニメにいた)


 走るミマは一瞬空を見た。

「し、知らないですわ! はあはあ ガーゾイルなんて名前、なんの覚えもございませんわ! はあはあ」


「我が名を忘れたかっ、サマルカンドッ! 死んで思い出すがいいっ!」

 ガーゾイルが加速!


 構えた剣をミマに向かって振り下ろす!

 ビュンッ!


 剣はミマから逸れた!

 走りながらの攻撃は難しいらしい。


 でも、マジで殺す気だ!


 占いは毒殺だけど斬殺じゃん! と、勇太は言おうとしたが、寸前で止める。

 斬殺なんて女の子に言う台詞せりふではない。


「逃げるケロ! 勇太も焼死するケロよ!」

 突然、チクミ!


 勇太が帰る時に必要なシールに描かれたしゃべるカエルである。


 ポンッ ポヨッ! ポンッ ポヨッ!


 見ると、チクミが跳ねている。カエルだからではない。チクミが貼られているのは、ミマの左胸。そして今の左胸は、ビキニの穴からポロリ中、なのでゴムマリのように弾んでいた。


 いや、跳ねるとか弾むとかは、どうでもいい。焼死なんて、タイミング的に脈絡がない。

「どうして、こんな時に俺が焼死なんて言い出すんだよ!」


 ポンッ ポヨンッ ポンッ ポヨンッ


「勇太はラスト勝負に勝たないとならないケロ! でも、勝負の相手が斬殺されたら勝てないケロよっ!

 気絶や服毒死なら焼死回避措置があるケロ、でも斬殺されたら、ラスト勝負が不可能になって、焼死が決定ケロっ!」


 ミマが斬り殺されたら俺も死ぬ。命がリンクしているんだ。

「ミマは、絶対に俺が守る!」


 想いを新たにしたら、勇太は思い出した。


 俺って、不死身じゃん! 武器なんて跳ね返せるじゃん!

 恐ろしい形相にビビッて忘れていた。


 ザッ!

 勇太は草の地面を蹴って逆向きターン!


「止まれっ!」

 姿勢は低め、左肩からガーゾイルへ突っ込んでいく!


 ドンッ!

 ガーゾイルの腹にタックル! 勇太には武器がない、とにかく足を止めたかった。


 ザダンッ!

 腹に抱き着いたまま倒した!


 筋肉質と思ったガーゾイルの腹は思いのほか柔らかい。勇太にとっては初めての感触、ひ弱に思えて守ってあげたくなる。


 ダメだ!

 こいつは、ミマを殺すと言ってた敵だ!


 でも、柔らかいお腹が勇太の顔の近くで動いている。女の子なんだよ。そう思うと勇太は強く言えなくなる。

「殺すなんて、やめてよ! 話し合おうよ!」


「放せっ! こいつっ!」

 暴れるガーゾイル、倒れても大剣を握っていた!


 その剣は長い。タックルされ密着したままでいる勇太の胴体には、その切っ先は届かない。ガーゾイルは勇太のふくらはぎに狙いをつける。


 ザグッ!

「ヴォーーーーーーーーーーーーッ! いってーーーーーーーーーーーーっ!」


 狙い通りに突き刺した!


 痛いなんてもんじゃない!

 これまでの人生で味わった痛みの全てが、押し寄せてきたみたいだ。


 ケガの痛みも、骨折も、頭痛も、盲腸も、虫歯も、中耳炎も、深爪も、タンスの角を蹴った時の足の小指も、そして、小学生の頃に裕香ゆかちゃんから言われた『嫌い』が、矢のように胸に刺さった痛みさえも、全部まとめて、この1点に集中したくらいに痛い!


 超人のように武器を跳ね返すなんて、全然無理っ!

 痛い! 痛過ぎる!


 勇太はガーゾイルの腹を抱えたまま、のた打ち回る! 放したら、ミマの方へ行ってしまう。痛みをこらえて抱き着いていた。


「放せっ! このっ!」

 ザグンッ!

「ギェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」


 同じ足! 同じ場所! これこそ、痛いなんてもんじゃない! 知らないうちに勇太の全身は暴れていた!


 ガーゾイルは勇太の腕から解放される。


 勇太は、のた打ちながらも、立ち上がろうするガーゾイルが見えた。


「ミ、ミマが危ない!」


 痛みを堪えに堪える。

 脂汗をかきながら、涙を流しながら、鼻水をらしながら、やっとの思いで、勇太は片足で立った。


 そんな勇太をガーゾイルが見てる? 女の子の瞳で見つめてる?

 足が痛いけど、なんか、ハズイ……。鼻水も垂れてるし……。


 いや、違うっ! 俺を見てない。

 目の焦点が遠い! 見てるのは、遥か後方だ。


 振り返ると遠くでミマが走っている。

 勇太は咄嗟に両腕を広げて、立ちはだかった。考えも何もなかった。

 ただ止めたかった。


つっ、こ、殺すなんて、やめろ!」


「どけっ!」


 ビュンッ!

 飛び込んでくるガーゾイルの大剣!


 ズガッ!

「グハッ!」


 む、胸を斬られた!


 ザッ ドタッ!

 勇太は草の地面に落ちた。


 仰向あおむけになったその目には、太陽と空と、地面から伸びる草が映っている。

 それらの草は、ひどく赤を浴びていた。勇太の血だ。


 残念ながら鼻血ではない。


 痛いなんてもんじゃない、と言いたいところだが、そういう感覚はすでに通り過ぎていた。痛みなんて微塵みじんも感じない。


 代わりに、意識が、気力が、地平線に太陽が沈むように遠のいていく。


 ヤベー! 俺、死ぬのか?


 超人なんて、不死身なんて、全然、ウソじゃん!

 勇太の意識は、どこか分からない、大きな暗い穴へとスーッと落ちていった。






【ガーゾイルと名乗る女剣士に勇太は斬られてしまいました。不死身のはずなのに死の淵へと落ちてしまったのでしょうか?

 次回、ナーガの正体が明かされます】

【本編に以下のようなくだりがあります。


『ガーゴイルみたいで、不気味なイメージだ。(そう、同名の悪役が古いアニメにいた)

 走るミマは一瞬空を見た。

「し、知らないですわ!』


 ミマが言ったこの『知らないですわ』が( )内のアニメを知らないと言っているように見えてしまったのは、私だけでしょうか?

 そのアニメにつては■あとがき■に書きます。お楽しみ? に】





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