第11話 第二章 魔法姫(7/7)

【約4100文字】



【トロピ界に召喚された勇太は、帰る前に焼死しないためのシールをゲットしなくてはならない。そのシールは依頼者であるミマの大事な部分に貼ってあるのだが、そのシールがミマの胸とともにポロリとビキニの穴から、はみ出たのだった】



「ヤベッ!」

 ブォッ! パーッ!


 勇太の鮮血が、再び空中に舞った。


 あえて言おう。その空中散布は必然であったのだと。


「勇太がまた出血ですわ! って、キャーーーーーーーーーーーーッ! おっぱいが、はだけましたわ~!」

 ミマはてのひらでシールを隠す。指が肉に食い込んでいる!


 勇太には可愛くて、エロくてたまらない。鼻血が流れ続けてしまいそうだ。


 一方、シールは隠されたままではいられない。

「食い破ったのは、すまなかったケロ。それでも、押さえてはいけないケロよ! あっしが見えなくなるケロッ! 隠してはならないケロよ!」

 スイッチが入ったと言った高い声のぬしは、絵のカエル、いや、カエルシールだった。

 シールのくせにポロリ胸を隠すミマに怒っている。


 ナーガだって黙っていない。

「何を言うっすか! このエロガエル! ――姫様! 別の服を用意するっすよ!」

 恥ずかしそうに胸を隠すミマを見て心配そうだ。


「何を言うは、こっちの台詞せりふケロ! とっとと手を放すケロよ! 契約事項にも載っていたはずケロ!」


「いやーーーーーーっ! 無理ーーーーーーっ!」

 頂上にシールが貼ってあって見えないとはいえ、ビキニの穴からポロリと胸がはみ出てしまっては、女の子とすれば恥ずかしいの極みである。


「分かったケロ、こういう状況は想定済みケロ。

 ケロケロ催眠、ケロケロシールは、見せていいケロ、ずくないケロ、顔と同じに、見られていいケロ、ケーロケロ」

 カエルシールが呪文のように唱えた。


 ポヨン


 ミマの左胸が解放された。

 隠す手が自主的に離れたのだ。ビキニの穴から出た胸があらわになった。だが、シールがちゃんと貼ってあるから、頂上の素肌は見えない。


「このエロガエル、姫様に何をしたっすか!」

「恥ずかしくないように、肌から催眠液を浸透させたケロ。もうこれで、ちっとも恥ずかしいことなんてないケロよ。それに、どうせあっしが貼ってあるから、頂上は見えないケロ」


 ナーガは我慢ならない。

「ひどいっす! すぐに変な催眠を解くっすよ!」

「一度浸透すると、剥がすまで催眠は解けないケロ。副作用とかもなくて全くの無害ケロ、安心するケロよ。

 それに、貼ってある違和感を感じない催眠も含んでいるケロ。大きく揺れても痛くもかゆくも、何とも感じないケロ。

 とにかく、あっしが覆われていたら仕事にならないケロよ!」


 カエルシールが偉そうに蛇のナーガを見下ろした。 ナーガは地面、カエルはミマの胸、高低差は否めない。


「何を言うっすか! 姫様が、胸を露にしたままで居ろって、言うっすか?」

 高低差を跳ね返す勢いだ!


「見えないと仕事にならないケロ! それにもう恥ずかしくないケロよ、とにかく、こんな所に貼った人間が悪いケロ!」

 カエルシールの目玉が、ギョロッと上を向きミマの顔を見た。


 ミマは催眠液で平常心になっている。

「大事な所に貼るように言われたので、心臓の上に貼ったのですわ」


 大事な所を心臓と考えていたようだが、結果的に男子高校生が考える大事な所になっていた。


 カエルシールはあきれた顔を見せる。

「ここは心臓の上ではないケロよ!」

 ミマが不思議な顔をする。

「心臓は胸の左側にある言いますわ。だから……」


「違うケロ! 心臓は胸の真ん中から、ほんの少しだけ左ケロよ! 真ん中と変わらないケロ。でも、ここは母乳の場所ケロ、まあ大事と言えば大事ケロね。

 うーん、真ん中の谷間よりも、ずっと眺めがよさそうケロ。さすが山の頂上ケロねぇ」

 カエルシールは左右を見渡している。


「カエルの分際で、偉そうっすね!」

 ナーガが小憎らしい子供を見上げる老人のようだ。


「カエルはカエルでもシールのカエルケロ! 重要な仕事のために作られたケロよ。偉いのは当たり前ケロ!」

 カエルだけに、ふんぞり返る。ミマの左胸が少々持ち上がった気がした。


「蛇にとってカエルは餌っす! 餌のくせに生意気っす!」

 ナーガは睨み付ける。


「ただのカエルではないケロ! カエルシールケロ! 仕事の邪魔は許さないケロよ!」

 睨み返す!


「ほんっとに、生意気っすね!」

 蛇とカエルの睨み合い、終わる気配がない。



「ナガイ! やめるのですわ! あたしがここに、貼ってしまったんですわ! それにもう恥ずかしいこともないのですわ」


「姫様ーっす。それは、変な薬のせいっすよ」

「そうかも知れませんが大丈夫ですわ。シールで見えませんし、自由度が増していい感じですわ」


 プルルル ルルルン

 自由を謳歌している左胸は、発声の振動だけでも揺れてしまう。


 ナーガは我慢ならない。

「胸が跳ねやすくなって、姫様がかわいそうっすよ!」


 カエルシールは自信たっぷり。

「人間の胸が跳ねるなんて、珍しくないケロ! 我慢できる範疇はんちゅうケロよ!」

 譲る気などない。


「ナガイ、例え薬のせいでも、あたしがいいと言っているのですから、いいのですわ。ここに貼ったあたしの責任なのですわ」

 ミマには使命感すら帯びている。


 責任と言われて、ナーガはこうべを垂れた。

「仕方ないっす」

 諦めたようだ。


 カエルシールは満足気。

「素直でいいケロ。少々揺れるけど、あっしはカエルケロ、跳ねるのは気にしないケロよ。しかし、眺めは抜群ケロねぇ!

 それより、召喚した異世界人は、血を流したままケロ、それでいいケロか?」

 勇太は鼻血を流したままだ。


 ミマが『ごめんなさい』と言って、例の細長い棒をどこからか出して、同じ呪文の治癒魔法を勇太にかけると、鼻血は全部消えてしまった。


 勇太は鼻血を出してすっきり、消えてすっきりである。

「やっぱ、治癒魔法ってスゴイね。……でも、俺の体は霊体なのに、どうして出血するのかな?」

 異世界人の肉体は霊体だと、ナーガが言っていた。


「こいつはバカケロね! 霊体でも肉体のように振舞うって、言われたはずケロ。出血もその中に入るケロよ。


 その体は息もするし、食べ物だって食うし、出すものも、ちゃんと出すケロ。霊体と言っても肉体となんら変わりがないケロよ」

 カエルのくせにしったかぶる。どうやら目覚める前から、ナーガと勇太の会話を聞いていたようだ。


 勇太はカエルシールと呼ぶのは面倒と思った。

「なあ、カエルシール、お前の名前を教えてよ。俺の名前は勘秘かんぴ勇太っていうんだ。勇太と呼んでいいからさ」


「あっしの名前は、特にないケロ。シール君と呼ぶがいいケロ」


 ミマが親のように口を出す。

「そんなのダメですわ! 名前は大事ですわ! 例えシールでも、きちんと考えて付けるのですわ!」

 名前については思い入れがあるようだ。


 カエルは額にシワを寄せる。

「それなら、ケロ……ここは眺めがいいケロ、それに、この場所の名前を合わせて、『ミエチク』って、どうケロ?」


 ヤ、ヤバイ名前である。


 言い出したミマも納得できない。

「そ、それは、よくない名前ですわ!」

 そりゃ、そうだ! ミエチクって、見えてるチク……ビになってしまう!


 ミマは少々頭をひねる。

「そうですわね。それでは、逆にして『チクミエ』……うーーーーん、『エ』を取って『チクミ』がいいですわ!」


 逆におんがチク……ビに近くなっている!


「姫様が決めた名前なら、アタイはカエルをチクミと呼ぶっす」

 ナーガはミマに従順だ。


 勇太はヤバイと思ったが考え直す。

 その名前の方が面白そうだ。

 女の子がその名前でいいと言うのならと、男の俺が反対する理由はないじゃないか。賛成することにした。

「お、俺も、そ、それでいいよ。ミマがいいんなら、チ、チクミでいいよ」


 当のチクミも満足顔。

「あっしも、チクミがいいケロよ。


 やいっ! 蛇! これから、あっしをチクミと呼ぶケロ!」


「蛇、蛇、うるさいっすね! アタイの名前はナーガっす。ナーガと呼ぶっすよ!」

 ナーガも負けていない。


「ふん! 蛇に様なんて、いらないケロ! ナーガと、呼び捨てで呼んでやるケロ!」

「生意気っすね!」

 また睨み合い!


「2人ともやめるのですわ! チクミ、あたしの名前はミマ・サマルカンドといいますわ」

 ミマは睨み合いをやめさせて、優しく自らの胸を見る。

「知ってるケロ、依頼者ケロね。貼られる前から知ってたケロよ」



 バキッ バキバキ ガサ ガサッ!

 どこかで、小枝を折ったような、やぶを分けるような音がした。


 勇太が音の方を向くと、人がいる!


 草地の一番遠い端、勇太の場所から100メートルくらい離れた所に、1人の人間が森の藪から草地に出てきたところだった。

 遠くだけど、体つきから女性と分かり、顔を見ると勇太とそう変わらない年齢の女の子と分かった。


 うっ! ヤバイッ!


 また、ビキニだ!


 いや、少し違う、その子のは、ビキニアーマーのようだ。




 ――ビキニアーマーとは、主に金属や皮でできたビキニ型をした、西洋風のよろいのことである。


 ゲームなどではおなじみで、体を動かすには優れているが、腹や背中や手足がむき出しであり、守りの用を果たしているとは、とても思えない。

 実用向きではない鎧/アーマーなのだ。


 お色気専用に開発された、と言っても過言では無い代物しろものである。





 この草地に現れたのは、金属製のアーマーだった。

 しかし、ゲームで見る一般的なものより、隠す面積が小さい。エロゲ用のアーマーだろうか? しかし、かぶとはかぶっていない。長い黒髪がよく見えた。


 そんなお色気ビキニアーマーを見ても、勇太の出血は抑えられている。

 まだ遠いということもあるが、その理由はミマの治癒魔法にあった。『同じ位の刺激では、出血しない』とミマが言っていたとおり、ビキニアーマーは2回目の出血、ミマのポロリよりも刺激が小さかったのだ。



 そして、現れた女の子は、アーマーなだけに、武器を持っていた。腰に剣をさげている。


 藪ぎで自身についた葉っぱや小枝を払い落とすと、彼女は勇太たちに気付いた。

 シャンッ!

 まだ遠いのに、剣を抜いて構えた!


「なんで? どうして武器を構えるの?」

 勇太が困惑していると。


「サマルカンドの姫っ! お命頂戴っ!」


 ダダダッ!

 剣を構えながら、こちらへと草地を走り始めた!


「あわわわっ!」

 『お命頂戴』なんて、ミマのてきか?






【危ない場所に貼られたシールに危ない名前がついたのですが、そんなことよりも、ビキニアーマーの女剣士が剣を構えて走ってきます! さあ、勇太はどうするのでしょう?

 次回は、第三章『王家への呪い』です】







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