第7話 第二章 魔法姫(3/7)

【約2900文字】



【トロピ界に召喚された勇太は、森に囲まれた草地にてビキニ姿のミマと、蛇のナーガに出会う。ミマはこのパラダイ国の隣国であるミーリーク共和国にあった元王家の姫であり、この地に2週間ほど前に越して来たらしい。そして、そのミマが勇太を召喚させた依頼者なのであった】




「そうだ! ミマが俺を召喚した依頼者なんだよね」

 勇太はシールを話題にしようと思ったのだが……。


 ミマの目は、不安そうに下を向いた。

「はい……、今日、あたしが毒殺されると、占いに出たのですわ……」


「ど、毒殺!」

 穏やかじゃない! シールどころじゃないよ。


 ナーガがペロリと蛇舌を出して口をはさむ。

「毒殺じゃなくて、単純に盗賊だったら、何とかなるんすけどね」

「ナガイ! 静かにするのですわ!」

 ミマは怒ったが、ナーガはあまり深刻にならないように、茶化したようだった。


 でも、勇太にはかわいいミマが毒殺なんて考えられない。

「どうして、そんな……」


「あたしはここに来て間もないですけど、治癒魔法師として生計を立てているのですわ。その患者の中に占いババがいて、治癒魔法の代金代わりに、あたしの将来を占ってくれたのですわ」


 毒殺は気の毒だし、何とか力になりたいけど……。

「俺はジャンケンが得意なんだよ! 毒殺なんて、俺じゃあ、何もできないよ……」


「毒見をして欲しいのですわ」

 すまなそうな顔を見せた。


「ど、毒見っ!」


 日本にいた昔の殿様は、毒殺を恐れて、まず毒見役に自分の食事を食べさせて、安全かどうか確かめてから、自分が食べたのである。

 もし毒が入っていると、殿様の代わりに毒見役が死んでしまうのだ。


「ミマの代わりに俺が毒を食べて死ぬの?」

 そうなら、どっち道、勇太は現実世界に帰れないと思った。


「勇太は異世界人なので、例え、毒を食べても死なないのですわ。痺れたり、お腹が痛いだけですわ」


 不死身と思い出した。

「そうだった。俺は死なないんだ」


 ミマは続ける。

「死なないから毒見ができると言う意味ではなくて、勇太は食べなくても毒が分かるはずなのですわ」

 勇太を軽く指差した。


「し、知らないよ。俺は毒なんて詳しくないよ」

 毒に関わったことなんて、これまで一度もない。


「勇太はジャンケンが強いから召喚されたはずですわ。なぜ、勇太はジャンケンが強いのか知らないのですか?」


 なぜ強いかなんて掘り下げたことはなかった。

「理由なんて考えたこともないよ」

 勇太にとってジャンケンは、ただ感じた通りに出すだけだった。


「勇太は勘が強いんですわ。勘を使って、ジャンケンに勝っているのですわ!」


 また指を差す。

 ジャンケン勝負を勘と言ってしまえばそれまでだが、思い出してみると、ジャンケンの時は何も考えてない。

 空っぽの頭に何が勝つのか湧いてくるのだ。

 それが、百発百中なのである。


 なので、友人たちが勇太を頼るようになり、勇太も頼られて嬉しく思っていた。




 ――勇太が小学生だった頃。

 すでにジャンケンに強いと言われていた。


「おーい、カンピューター! 俺っちの代わりにジャンケンしてくれよ」

 カンピューターは勇太のあだ名である。


 勘秘勇太かんぴゆうたでカンピューター、勘に頼ったコンピューターって意味らしい。

 古くからある言葉で、おじいさん先生も知っていた。


 勇太は同級生から代理ジャンケンをよく頼まれた。人に頼まれるのが好きだったので、快く引き受けた。


「いいよ。何回勝負?」

「3回勝負でいいかい?」

 ジャンケンの相手は、別クラスの男子だった。


「いいよ」

「よし!」

「「最初はグー! ジャンケン ポン!」」


 ……


 2連勝した。


 相手の顔が悔しさに歪む。なんと言う優越感だろう。

 始めは優越感のために、代理ジャンケンをしたものだった。


 そして、代理を頼んだやつは、『ヤッター』とこぶしげて嬉しそうにジャンプする。

 そんな姿を何度か見ていると、勇太も嬉しくなったのだ。


 それは優越感とは違う。

 なんて言うか、自分が役に立って、その存在が認められたような、ここに居て安心という特別な証明書をもらったような、そんな嬉しさがあった。


 でも、何度も頼まれると、勇太の顔は知れてくるから、顔を見るだけで誰もジャンケン勝負を避けるようになった。

 代理ジャンケンはなくなっていき、勇太はジャンケン勝利を喜んでもらえなくなった。



 そんな折、クラスの中で、勇太がどのくらいジャンケンが強いのかと言う話題になって、強さを試されることになった。


 紙ジャンケン。


 それは、その時、みんなで決めた方法で、相手を見ないで事前に決めた順で勝負するジャンケンだった。


 やり方は簡単。

 何も印刷されていない白いコピー用紙を、同じ大きさになるように32枚用意する。

 その1枚1枚に1から16までの数字を書く。32枚なので2組できる。

 対戦する2人が各々1組を持ち、お互いに見えない所で、数字のない裏面にグー・チョキ・パーのいずれか1つの文字を書いていく。


 数字は出す順番である。その順で、文字による連続16回のジャンケン勝負をするのだ。


 裏面に書き終えると、1が上になるようにして16枚を番号順に重ね、それぞれを回収して同じ机の上に置く。みんなが見ている前で1から順に双方の紙を裏返して、グー・チョキ・パーの勝敗を見るのである。


 牽制けんせいもできなければ、顔色も見れない、読みも駆け引きも存在しない、純粋なる勘だけのジャンケン勝負だ。


 勇太は友人たちに、もっと頼ってもらおうと全勝を思って書いた。


 1枚、2枚と番号順に紙を同時に裏返していく。

 ……そして、16枚目。

「「おおーーーーっ!」」

 驚きの声が教室中に渦巻いた。


 負けも、あいこもなく、勇太の16連勝、全勝だった。

 クラス中が喝采した。



 別のクラスメイトが続けて、同じルールで勝負を挑んだ。


 同じく勇太の全勝だった。


 驚きの声はあったものの、喝采とはいかなかった。

 誰も得体えたいの知れない食べ物を見た時のような顔をしていた。


 それでも、もう一度勝負したいと言う奴がいて、同じルールで、3度目の勝負をした。


 全勝……。

 今度は驚きの声さえ起こることもなく、クラス中に冷えた空気が漂った。


 みんな、踏み入れてはならない禁断の奥地に、入り込んでしまったような不安でいっぱいの顔である。


 勘によるジャンケンが強いと証明された。


 そうなのであるが、勇太の思惑ははずれてしまう。

 もうそれからは、頼られるどことか、ジャンケンでは、仲間外れにされたのだ。


 どうしてもジャンケンが必要な時は、誰かが勇太の代わりを務めた。

「オレの左手が勘秘の代わりな!」

 これは必ず右手が勝った。


 大勢でジャンケンする時は、一抜けした奴が勇太の代わりである。

 2回戦からの参加となった。


 代理が全くの逆になったのである。


 勇太がジャンケンに参加すると、勝敗を操作されると思われていた。

 いや、現実にそうだった。

 なので小学校では、勇太のジャンケン能力は使われなくなった。


 中学の時は、同小おなしょうの生徒も多くて、同様にジャンケンの時は仲間外れだった。


 そして、高校には同中おなちゅうはいなかった。というより、遠くて知り合いがいない弓ヶ池高校に入ったのである。

 でも、ジャンケンの能力を見せ付けるようなことは避けた。


 そして、普段はワザと負けて、ここぞの時にしか勝たなかった。


 勇太のジャンケン能力は、ゲームで言えばチートみたいなものだ。

 だけど、大切な力だ。


 誰かが頼ってくれたいとしい力だった。




【勇太はジャンケンではリアルチートなのです。そのチート能力のためにトロピ界へ召喚されてしまいました。なぜか、それが毒見と関係しているみたいです。次回は毒見役の腕試しをやります】




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