第6話 第二章 魔法姫(2/7)
【約3500文字】
【異世界であるトロピ界に召喚された
「こら! 会って早々『あんた』とは、失礼っすね! 今時の異世界人は礼儀がなってないっす!」
女の子の声?
だが、この子じゃない。明らかに別人であり、意地悪っぽく聞こえる。
キョロキョロ
でも、他に誰もいない。ビキニの子と勇太だけだ。
「どこ見てるっすか? ここっすよっ!」
下から聞こえる?
見ると、ニョロッと、鎌首だ!
「へ、蛇!」
草の間から蛇の頭が飛び出していた。
勇太は慌てて距離をとる!
大蛇なんて大きさは全然ない。
水道のホースより少し太いくらいの蛇で、色は地味な灰色、尻尾が草の間にどうにか見えるので、長さは1メートルくらいのようだ。
見たところ、普通の蛇だ。
「そうっす! アタイは、蛇っすよ! 姫様に失礼なこと、悪いことをすると、容赦なく
勇太を睨みつけてる。
「しゃ、しゃべる蛇だ!」
しゃべるなんて普通じゃない。
「蛇はしゃべっちゃ悪いっすか?」
蛇はクッと鼻先を上げる。でも、その目は勇太を向いたまま、偉そうに擬似的な下目使いらしい。
「へ、蛇はしゃべらないよ!」
当たり前のことだ。
「ここはトロピ界っす! しゃべる蛇もいるっすよ!」
さっき魔法も見たし、自分も飛んでやって来たのだ。
「ま、まあ、異世界だから、そうか。それで毒蛇なの?」
「毒蛇っすよ~~っ! 咬まれると、ひどく痺れるっすよ~っ! それに、毒は1種類じゃないっすよ~~っ!
血を沸騰させて殺す毒、楽に死なせる毒、全身をミミズ
姫様に悪いことをしたら、一番怖い毒を注入してやるっす!」
カーッと
その
キンと尖って奥側へ反り返り、咬まれたら肉に食い込んで、簡単に放しそうにない。
そんな牙から毒液を注射器のように体内へ注入するのだ。
それに、毒は何種類もあるらしい。異世界の蛇は格上のようだ。
口を開けてニョロニョロと威嚇するように近づいてくるので、勇太は
「すごんでは、なりませんわ!」
ビキニの子が蛇の
蛇を引っ張るビキニの子なんて、ユーモラスで笑える。
けど、蛇は敵対心を鎮めない。
「男は危険っすよ!」
カーッ! また口を開ける。
「か、咬まないでよ!」
「あんさん次第っすね。姫様に手を出したら、容赦なく咬むっすよ!」
「えっ? 姫様? あんた、じゃない、君はお姫様なの?」
森でビキニなのに姫というギャップに、勇太の心はときめいていくる。
ビキニの姫様が蛇の尻尾を後ろに引いてどかすと、ニッコリとする。
「申し遅れましたわ。あたしの名前はミマ・サマルカンドといいます。ミーリーク国のサマルカンド魔法王家の一員ですわ」
美馬?
勇太は日本の苗字を連想したが、すぐに違うと思った。発音が違うし、サマルカンド魔法王家と言っているからだ。ミマが名前であろう。
もし、ミマに漢字をあてるなら、美少女で魔法を使うから、美魔だろうか? などと考えてみたりした。
そんなことより自己紹介である。
「俺の名前は、勘秘勇太、勇太が名前で、勘秘が苗字だよ」
姓名の順序が違うようなので、注釈を付けた。
「なら、勇太様と呼ばせていただきますわ」
ミマは異性を友人として受け入れて、恥ずかしそうに微笑んだ。
彼女は口の前で、左右の掌を合わせるようにして、チョンと指先だけを付けて見せた。
不完全な拝み仕草みたいで、そのはにかむ感じがなんともかわいい!
だけど、『様』呼ばわりされては、勇太だってむず
「お、俺に『様』は
「そうですの? 分かりましたわ。それなら、ゆ、『勇太』と呼ばせていただきますわ」
呼び方が気に入ったのか、またニコッとする。
やっぱ、かわいい。
だが、勇太には初めてだった。女の子から苗字ではなく名前で呼ばれるのも、しかも呼び捨てなのも。
胸の奥が、くすぐったくなる思いだった。
しかし、彼女には特に抵抗がないようだ。
文化なのか個性なのかは分からないが、勇太一人がその変な思いを我慢すればいいだけだ。
呼び捨てを受け入れることにした。
「うん、そう呼んで」
「そこの蛇は、あたしのそば
ニョロニョロとナーガが前に出る。
「アタイがナーガっす! 『ナガイ』と呼んでいいのは姫様だけっすからね。あんさんは、『ナーガ様』と呼ぶっすよ!」
生意気にも命令してくる。
「何言ってんだよ! 蛇に『様』はいらないだろう」
「そうですわ、ナガイ。『様』は言い過ぎですわ!」
蛇はビクッとして首をすくめる。
「分かったっす。『ナーガ』でいいっすよっ! でも、姫様にはちゃんと『様』を付けるっすよ」
「いいえ、あたしも『ミマ』と呼んでくださいませ。本当は姫ではありませんので、『様』は
ナーガはニョロニョロと体をくねらせる。
「姫様! せめて『ミマ様』と呼ばせるっすよ!」
「いいえ、あたしが『勇太』と呼ぶ以上、『ミマ』と呼んでもらいます!」
勇太は女の子を呼び捨てにするのも初めてである。
「本当に名前だけで呼んでいいの?」
「そうしてくださいませ」
その高貴な笑顔が勇太には悩ましい。ウンと恥ずかしそうにうなづいた。
だが、違和感が残っていた。
「姫ではないって言ってたけど、どういうこと? 魔法王家とも言っていたみたいだけど」
ミマは少々目を伏せた。
「ミーリーク国は、正確にはミーリーク共和国なのです。なので、サマルカンド魔法王家は、サマルカンド元魔法王家なのですわ」
聞くと、80年くらい前に革命のようなものが起きて、その時の混乱で王様が殺されて共和国になったらしい。
その混乱でも生き残った魔法王家の人たちは、魔法技術を制限することを条件に命が助かったようだ。
トロピ界における魔法とは、魔法力と魔法技術の両方が必要らしい。
魔法力は先天的要素、魔法技術は後天的要素に基づいている。
魔法王家は魔法力が強い血統なのだ。
魔法技術を持っていた王族は魔法の使用を制限され、革命後に生まれた王族は魔法技術の習得はもちろん、その知識さえも制限の対象となったのである。
例え、革命後に生まれた王族でも、もし、攻撃に応用できる魔法技術を習得したのなら、1人であっても容易に権力を奪い返せる程の魔法力を持っているらしい。
なので、今でも魔法技術の制限は続いている。
しかし、治癒魔法の技術だけが5年くらい前に解禁となったので、ミマは独学で治癒魔法師の資格を得たのである。
治癒魔法師とは医者と同格と考えていいようだ。
医者にしては、住む家がボロボロである。草地の奥に見える別荘のことだ。
「ねえ、気になってたんだけど、後ろの家はミマの家なの? 80年前の王家の家だからボロボロなの?」
2人そろって、その家を見る。野球場の端と端くらいの距離があるのだが、そのひどさは容易に分かった。
「今はあたしの家ですけど、ここはミーリーク共和国ではございませんの。パラダイ国なのですわ。実は2週間前に引っ越してきたばかりですのよ」
「ボロボロの家に引っ越してきたの?」
「ここがあてがわれたのですわ」
あてがわれた?
「誰に?」
ミマは一息おいて、かしこまる。
「領主様ですわ。パラダイ国にあるカント地方の領主様ですわ。その方に、あの家をあてがわれたのですわ」
「領主が、いちいち引っ越してきた人の家を決めるの?」
「あたしは隣国の元王家ですわ。
元王家と言うだけで、いざこざが起きるようだ。勇太には想像もつかない。
「一般人には分からない事情があるのか。それにしても、ここはパラダイ国の関東地方か、異世界にも関東があるんだな」
「違いますわ! カント地方ですわ!」
「関東じゃないのか」
似てるから間違えた。
地名よりも大事なことがある。勇太は思い出した。
「そうだ! ミマが俺を召喚した依頼者なんだよね」
シールを話題に移ろうと思ったのだが……。
ミマの目は、不安そうに下を向いた。
「はい……、今日、あたしが毒殺されると、占いに出たのですわ……」
【勇太の召喚にはミマの毒殺が
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