第3話 第一章 異世界召喚(3/4)

【約2300文字】



【教室でいきなり聞こえてきた声に、女の子の大事な所に貼られたシールを剥がせるからとそそのかされ、勇太は異世界召喚を承諾してしまう。すると白い光に包まれたのだった】


「了解しました。それでは、勘秘かんぴ勇太さんをトロピ界に召喚いたします!」


 ピカッ!


 教室全体が白く光った!

 勇太は一瞬、その光に包まれてしまう。


 でもすぐに、真っ暗になった。


「うわっ!」

 ドスンッ!


 勇太は暗闇の中で尻餅をついた。

 座っていた教室のイスがなくなったみたいだ。


 金縛りも解けている。

 暗いので辺りを手探りしてみたが、床しかない。イスも机もなかった。


 立ち上がってキョロキョロするが、やみ一色である。


「異世界って、真っ暗なのか?」

 近くに人の気配もない。意気揚々と異世界に乗り込んで来たものの、暗闇にポツンと1人ぼっちだった。


 心細くなってくる。


 その心細い気持ちが、『後ろ』と言った気がした。

 振り向くと、小さいともしびが揺らめいて見える。


「やった! 明かりだ!」

 希望を見つけたように、灯に引き寄せられたのは言うまでもない。


 その灯は1本の太いロウソク、1人の女性が持っていた。

 たどり着いて、向かい合うように立つ。


 揺らめくロウソクの明かりなので、よくは見えないが、絹のような、しなやかな白い服を着ている。


 古代ギリシャの女神が着るようなゆったりとして、ヒダヒダがついたドレスのような服だ。


 そして、その女性本人はショートカットで、社会人になったばかりくらいのお姉さんに見えた。


 年上なので、勇太にとっては可愛いと言える枠には収まらないが、朴訥ぼくとつとした薄めの化粧に親しみを持てた。


「さっきまで説明してたのは、お姉さんなの?」

 心細かった勇太は、すかさず聞いた。


「いらっしゃいませ、私が勇太さんに召喚を説明いたしました。

 名前をイラシャ・イマセと申します。

 召喚仲介業のパイオニア、『ショウチャン株式会社』の案内役です」

 と、ニコリと笑った。


 株式会社と言うだけに、営業スマイルみたいだった。


 名前がイラシャ・イマセ? 始めに言った「いらっしゃいませ」と同じじゃん、本名か?

 勇太は笑いかけたが、名前を笑うのは失礼と思ったので押し殺した。なので、本名かどうかも聞けなかった。


 そして、召喚仲介業とも言っていた。

「仲介業って! 召喚したのは、会社なの? 神様とか女神とかじゃないの?」


 服の感じからギリシャ神話の女神と思っていた。

「はい、召喚仲介業のパイオニア『ショウチャン株式会社』は、民間企業です。神様などではありません」

 イラシャは少し怒った顔。


 社名が耳につくのは、いいにしても、どうやら召喚はビジネスのようだ。

 勇太は神様の大いなる力によって召喚されたと思っていたが、民間の企業とか、空想的な神と比べれば、はるかかに自然体であり現実的と思った。


 そして、勇太は召喚にとって忘れちゃいけない物を思い出す。

「なあ、召喚に付き物の、魔方陣はないの?」


 イラシャは営業スマイル。

「ありますよ。でも、企業秘密なのでお見せできません。だから、ここが真っ暗なんですよ」


 企業秘密!

 なんか会社っぽい。ここが暗い理由も分かった。


 それなら、普通は明るいはずである。異世界が年中真っ暗なわけではない。どこかへ移動するのだろうか?


「それで、これから俺はどうすればいいんだ? すぐに移動?」


「いいえ、これからのことを説明をいたします」

 マニュアル通りなのか、イラシャは事務的に進め始めた。


 説明内容は教室で聞いたのと同じかと思ったが、いささか複雑であった。

 まず脅しのように、シールがないまま帰った場合の死に方を言われた。


 人体発火現象である。


 人体発火現象とは、オカルト的な話ではあるが、人間から炎が突然噴き出して焼け死んでしまう現象を言う。


 現実世界では原因は不明とされているが、イラシャによればシールがないまま、異世界から帰ったことが原因らしい。詳しくは霊体と肉体がうんたらくんたらと、勇太にはチンプンカンプンだった。


 ただ、異世界へ行く時間と場所、そして異世界から帰る時間と場所が同じなので、いきなり発火するというのは理解できた。


「まず勇太さんは依頼者に会って、その指示に従ってクエストをこなしてもらいます」

 やっぱクエストと言うようだ。


 クエスト中にジャンケン能力を多く使えば、経験値が上がって、能力が向上する場合があるらしい。大いに能力を使うことを勧められた。


 そして、クエストが成功しようが失敗しようが、契約のクエストが終了するとシールゲットのラスト勝負に移行するようだ。


 ここでいう契約とは、依頼者と召喚仲介業のパイオニア『ショウチャン株式会社』との契約を指していて、クエストの終了条件が決めてあるという。

 終了条件の詳しい内容は守秘義務があるために教えてもらえなかった。


 そして、シールゲットはラスト勝負と名付けられていた。ラスト勝負は召喚者の能力に応じて決められている。

 勇太の場合は依頼者とのジャンケン勝負である。


 教室で聞いた内容は、そのジャンケン勝負に勝ってシールをゲットするのだ。


 ラスト勝負の説明に入ると、イラシャの表情が真剣になった。

「……そして、クエストが終了すると同時に、勇太さんの能力が停止します」


 ちょい待ちっ! メチャクチャヤバイことを言い出したぞ!


 ジャンケンに勝ってからシールを剥がすはずである。ジャンケン全勝の能力がなかったら、勇太は勝てないではないか!


 勇太は慌てる。

「シールをゲットするにはジャンケンに勝つんだろう? 能力が停止って、俺はジャンケンができないってことかよ!」

 人体発火現象が頭をよぎる。教室で焼死じゃん!


 客観的に見ても、学校で生徒が焼死すれば大事件である。


 イラシャは真剣に答える。

「ジャンケンができないのではなくて、勇太さんの場合、普通の人と同じになるということです」





【ラスト勝負の前に、ジャンケン全勝という勇太の能力が停止すると、イラシャが言い出しました。普通のジャンケンなら勝つ確率は3分の1です。『人体発火現象』の文字が勇太の脳裏にちらついて、生命の危険を感じるのでした】




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