第1話 日常

俺こと瀬良 彰人はあと1年後に受験を控えた

高校2年生だ。朝の5時半を知らせるタイマーが鳴る。起きると勉強机に座り、今日の授業の予習を

始める。あの天才と違って俺は要領が悪いから

努力で補うしかないのだ。一息ついた所で

自分の部屋から下に降りる。すると母の他に

もう1人。父さんじゃない。霞だ。

白瀬家はウチの2つ隣でありすぐ近くなのだ。

霞がこうして朝家にいる事は決して珍しい話では

ない。小学校からずっと続いてきたことだ。

因みに父さんは出張で海外に行っておりこの所ずっといない。


「彰人、おはよう!今日も迎えに来たよ。

 どうせ朝早くから勉強してたんでしょ。

 せっかく起こしに行こうと思ったのに。」


「悪りぃな。俺は霞と違って努力しないと

 ダメなんだ、要領悪りぃから。」


そう答えると霞は頬を膨らませて答える。


「えぇ〜勉強ぐらいだったらいつでも教えて

 あげるのに。しかも今なら私とその間ずっと

 密着出来るという特典付き!だぞ!ぞ!!」


そう言いながら顔に迫ってくる。近い、近い

近すぎる。もう良い匂いというか香りというか

いうものが押し寄せて来てこちらとしては

もう色々とキャパオーバー、


「いいから取り敢えず落ち着けって、また暴走

 してるぞ、」


はっ、とした顔で俺の顔元を離れる。顔を赤くし

ているのもいつものことだが、その暴走癖で

羞恥心と罪悪感に苛まれているものだと俺は

思っている。霞の両親は共に美形なのでそれを引き継いで霞もかなり容姿が整っている。なので

思春期真っ盛りのお年頃な俺からすると精神を

ゴリゴリと削られるのだ。


「朝から見せつけるわねぇ〜。お母さんから

 したら、霞ちゃんには是非うちにお嫁さんに

 きて欲しいわ(^^)」


「私以前に彰人にその気があるかどうかですよね

 〜、お義母様?」


おかあさんの発音違くない?と思ったのは

胸の内に留めておく。


「はいはい、いいからとりあえず朝ご飯は

 母さん?」


「今出すわ、霞ちゃん待たせてるんだから早く

 支度しちゃいなさいよ、」


「ほい。」

と適当に返事をすると最速で朝ご飯は済ませて

制服に着替える。そして鞄を背負い下に降りると

お母さんと霞がなにやら小声で話していた。

既成事実がどうのこうのと聞こえたのは幻覚で

あったと信じたい。


「待たせてすまん、じゃあ行くか、

 お母さん、行ってきます。」


「はい、いってらっしゃい。」

軽く挨拶を済ませ、家の扉を閉める。

外に出ると冬の寒い空気が肌に押し寄せる。

あったかくしてやらないとやってられない。

隣の霞を見るとチェックのマフラーにブラウンの

コートに身を包んでいる。素材が良いので何を着ても映えるのだが、それはより一層彼女を際立たせていた。


「ん、昨日も完徹したから眠気maxだよ〜。

 学校いったらとっとと寝よ、」


「またかよ、もう昼夜逆転してるじゃんか

 霞、成績良いんだからわざわざ学校で寝ること

 ないんじゃないか、」


「テスト1日前に教科書見れば全部分かる

 から必要なし!」


「それを煽りじゃ無くて素で言うから恨めない

この天才め、」


「そのおかげで今まで勉強教えてこれたんだから

 良いじゃん!」


事実すぎてぐうの音もでない。俺たちの通う高校は一般的に偏差値が高い。中3の初めの時には偏差値が足りず諦めかけていたところ霞がつきっきりで教えてくれたのだ。俺が奇跡的にこの学校に入れたのは霞のお陰だ。


「あ、そうだ。今日彰人のお母さん、所用で

 出かけるから夕飯うちで食べてってって

 言ってたよ。」


「マジか。そういう大事なことはちゃんと

 言えよ……すまん、じゃ今日は頼むわ。」


学校が近くなると俺たちは別れる。学校では

赤の他人として接すると決めているのだ。

その理由は追々。

てかおい……今日美術の提出期限じゃん。やば!

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