第4章 LYRIC
36. 取調室のX FILE, 檻に激しく持ってくスタイル
◇◇◇
36. 取調室のX FILE, 檻に激しく持ってくスタイル
試験管理委員会を護衛する任の国軍部隊の中でも、他国からのスパイあるいは潜伏工作員の話は既に上がっていた。
出場者として来国する流れ者の魔法師も多く、エントリーにあたっては厳正な事前審査で身元を検められる。
それによって試験が始まる前に国外追放される者も多く出るくらいだった。
ただし抜け道がある。
貴族・軍関係者による推薦枠での出場だ。
推薦枠の出場者は、一般参加に比べてほとんど出場資格審査を受けない。
ほとんどの場合がその推薦者の一族や協力関係にある者であり、その出自の責任を推薦者が保証することになっている。
とは言え勿論この国の王族貴族諸侯も、他の国同様に一枚岩ではない。
内部での政略戦争は常に起こっているし、そのために他国からの侵攻を利用したクーデター騒動も過去にあった。
要人暗殺のために、他国の腕の立つ者を推薦枠参加させるということが、絶対に起こらないとは言えない。
そんな中――
これまで全く無名ながら貴族推薦枠で突如現れ、この国で見たことのないような謎の魔法で有力選手を次々と倒していく少年。
つまり、K.Gは客観的に超怪しい人物だった。
「注目株を3タテ、それも
ケイジの試合を見張っていたのはフロウだけではない。
「実力だけじゃない…その勝ち方の理屈がまるで判らないときている。
一回戦の対戦者から、不正を疑うクレームも入っているが、外部からの力や細工用の器具、違反薬物などは何も見つかっていない。
…いや、委員会の魔法師や監督学者が見抜けないような術式だとすると――」
「まさか…そんなことあるわけが―」
その声は審判や警備員でもなく、一般人を装った国軍の特別捜査官2人のものだった。
「タナトス孔明やBENNY天狗は国外の戦歴もあり名前も知られている…ただの異国の魔法で一方的に仕留められるとは思えないんだ。
――もっと、全くこの世界の魔法大系と根本的にことなった力なんじゃ…」
「モルダウ、あなた疲れてるのよ…
出場者の事前審査からここまで出づっぱりじゃない、少し休んだら?」
事実、モルダウは疲れていた。
最後の休日は2ヶ月以上前、それも半休で、知人の命日に墓参りに行っただけだった。
「いいや、ブルタバ。国軍の記録に無い通信術式の魔素が会場内外から観測されているんだ、今休むなんてわけにはいかないさ」
「日中あれだけの魔素が各コートで入り乱れるんだから、通信の魔素なんて誤差みたいなレベルでしょう?」
「だとしてもだ。K.Gから目を離すなよ」
「ハァ…溜まった有給で試験後にバカンスができそうだわ」
K.Gの勝利によってただのゴミとなったハズレ賭け札が宙を舞う中、二人の捜査官はコートを後にした。
◇
ケイジは医務室にさほど用事が無かった。
2回戦、3回戦で全く怪我をするまもなく完勝したからだ。
そのまま続けて他の対戦相手候補を見ておこうと思ったくらいだ。
しかし、試合後のヘルスチェックは義務付けられていた。
体力・身体的な負傷だけでなく、魔力や精神力の消耗が激しく、翌日以降にダメージを引きずる場合もあるからだ。
ケイジ自身は、気疲れはしていたものの体力・魔力ともに良好であり、1回戦の時のようにほんの数分で終わるだろうと思っていた。
服を脱いだりもするので、終わったら会場入り口で合流することにし、ライムには先に出てもらった。
ところが、今日は診療台に寝かされたきり、もう15分は放置されている。
(――眠い…帰っちゃダメかな…)
ケイジはウトウトし始める。
いや、正確にはほんの1~2分、意識が途絶えていた。
「…った後、…の数値を… …」
「全て正常で… … …っておいたのが… …」
「もう一度会場の… … ってくれ …」
夢うつつの意識の中、ボソボソと話し声がするようだが、内容まではわからない。
「うう~ん…ムニャ…」
目を覚ますと、ケイジは縛られていた。
「目が覚めたか…早くはあるが、常人の範囲だな」
「気をつけてよ、モルダウ、あなた疲れてるんだから」
場所が移されているわけではない。
目の前には、部屋に入った時の医師の姿は無く、国軍の腕章をつけた2名の黒い姿があった。
衛兵や警備員の装備ではない。
この国に慣れていないケイジには、一見して軍の者とはわからなかった。
「えっ…? 何…!? どちら様…?
(なんで縛られてんの…逮捕!? 逮捕か…!?)」
「意識回復…変化は検知されないわ。なんの術式も発動していない、完全な生身よ」
何かの器具を手にしながら、一方がもう一方に告げる。
荷物はライムに預けたままで、診療台に乗る前に半裸にさせられていた。
手かせ足かせがはめられているわけでもなく、台に紐で固定され、タテに起こされている状態だ。
この体勢でケイジできる物理的な反撃は何一つ無い。
拷問でも始められるような無力さだ。
が、二人は全く警戒を解かない。
未知の魔法を使う相手だと想定しているからだ。
しかし、身体の力が抜ける薬を、ガスのように部屋に入ったときから充満させてあり(ケイジが眠ったのはそのためだ)、会話ができる距離まで近づいても大丈夫と判断していた。
ケイジからすれば、絶体絶命だった。
「さて、聞かせてもらおうか、K.G」
全く事情がわからないままのケイジの脳裏に、前世で見た映画の拷問シーンだけがありありと浮かんだ。
◇◇◇
(第37話に続く)
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