第9話 遠征、そしてはじめての住人
遠征をすることに決めたが無闇やたらと探索するのはあまり効率が良くないだろう。そうなるとある程度は予測をつけて行動するべきだろう。
生き物が生活していく上で水というのは無くてはならないものだ。これがないと生きてはいけない。それは人間も同じだ。なので人に会う可能性が高いのは川沿いだと思う。人の生活範囲に川や湖があるとそれだけで生きる上で有利である。わざわざ井戸などを掘らなくてもよいのだから。
なので探索範囲を川沿いを中心に行うことにした。
下流に向かって探索を行い生活の痕跡を見つけたらそこを中心に探索を広げていこうと思っている。
翌日、朝のトレーニングを短めに終え早速行動を起こす。
拠点としている洞窟近くの川から下流に向かって歩いていく。
ちなみに上流は少し行った所から崖となっているため進むことが出来なかった。
川沿いは比較的開けているので太陽が辺りを照らしており心地よい天気でなんだかハイキングをしているような気分になってくる。実際ここが異世界でなければ立派な渓谷ハイキングであろう。
天気にも恵まれトラブルにも遭遇することなく下流へ足を向けて数時間歩いていると、ある程度開けた場所に行き着いた。時刻を確認すると時刻は18時を回ったところだ。そろそろ日が沈み夜にさしかかるころだろう。
今日の探索は此処までにし、ここで一晩過ごすことに決める。夜の探索はやはり危険なので安全を優先しての探索を心がけていた。
暗くなる前に焚き木を作る。薪は事前に集めていたものをアイテムとしてストックしていた。この一ヶ月で色々と検証して様々なことを発見していったのだが、このアイテムストックもそうした発見できたものの一つである。
なんとゲーム内のアイテム以外にもこうしてメニュー画面を開いて操作することで、手に入れた道具などを所持品としてアイテムストックに収納することが出来たのだ。おかげで随分とサバイバルの助けになっていた。
焚き木の近くに寝床を作り休めるスペースを確保する。これで何時でも休憩することが出来る。
休憩スペースを確保出来たら次に近場に打ち込が出来そうな手頃な木を探す。探索の為に朝のトレーニングの時間を確保することができないので、こうして夜にトレーニングをすることにしたのだ。夜は他に何もすることがないので丁度いい。ただあまり夜遅くまで練習していると次の日の探索に支障がでるのであまり長いことすることは出来ないだろう。
翌朝、辺りがまだ薄暗いなか探索を開始することにする。なるべく日が出ている日中に探索時間を多く割きたいからだ。
流石に昨日今日とすぐに何かしら発見できるとは思ってはいないが、それでも期待というのはしてしまう。やはり一ヶ月以上誰とも話していないというのは結構寂しいものだ。そんな心境もあり足早に探索を続けていく。
拠点としている洞窟を出てから今日で4日目となる。
メニューを開き全体MAPを確認する。
川沿いにかなりの距離を歩いて来たと思う。距離にして数十キロは優に超えているだろう。ここまで未だ人の痕跡を発見出来ていなかった。
流石にこうも何も見つけられないと少しばかり気持ちが沈んでくる。しかし孤独は今に始まったことではないので、気持ちを強くもちながら歩みを進めていく。
時刻は昼を少し回ったところで太陽が真上から辺りを照らしている。
これまで川沿いを延々と歩いてきたが、ある地点に差し掛かったところでふと違和感を覚えた。これまではまさに自然そのものという景色が続いていたが、今いる場場所は少し違っていた。川沿いに踏み固められたようになだらかになっている地面に、邪魔になりそうな石や岩などが退かされている。そして何よりも決定的だったのが、何かが燃えた後だった。
拳ほどの石が円を描くように配置されており、その中に燃え残った炭や煤が地面を黒く塗りつぶしていた。
「焚き火の…後、だよな…」
自然において何かが燃えるということはありえなくはない。落雷によって森林火災などが起きる場合もある。しかし、これはどう見ても人の手によってもたらされたものだ。
目の前の状況に心臓が高鳴るのが自分でも分かった。
自分は今同どうしようもなく興奮している。
人がいる。
逸る気持ちを抑え、気持ちを落ち着けようと深呼吸をする。
気持ちを整えたところで、辺りを見渡す。
するの川岸から森の方に向かって獣道のように草木が掻き分けられている道を見つけることができた。おそらく人が通ったことにより踏み固められているのだろう。この道を辿ればもしかしたら人が住んでいる場所にたどり着くのかもしれない。そこが村なのな集落なのかはわからないが、それでも人がいる可能性がある。
川岸の探索から森のへの探索に狙いを定め森の中へ入っていく。
森の中だというのにこれまでの森探索より明らかに進行速度が早い。
はやり道があるというのが大きいのだろう。やはりこれは自然に出来たものではない。人が行き来することによって出来た山道である。
間違いない。
この先に人がいる。
年甲斐もなく浮かれているがそんなの関係ない。
やっと見つけた手がかりだ。
期待を胸にさらに森の中へ入っていく。
森の中を歩き始めて2時間ぐらい経過したころだろうか。
これまで周りから聞こえてくる音といえば自然が発する木々の揺れや虫や鳥の音ぐらいだった。しかしそれらとは違う音が微かに聞こえてきた。
初めは聞き間違いかと思い足を止め耳を澄まして音に集中すると、確かにこれまでとは違う音が聞こえてくる。その中に微かに聞こえる音…
「…人の声だ!」
聞こえてくるのは確かに人の声であった。
かなり遠くから聞こえてくるので何を喋っているのかはわからない。しかし動物とは違うその声は確かに人が喋っているものであろうと認識できる。そして動物ではない人が出すであろう物音も同じく聞こえてくる。
「やった!やっと人に会える!」
興奮を隠そうともせず音のする方へ早足で駆け寄っていく。
肩で息をしながらもそれでも足を止めること無く走る。
段々と音が大きく聞こえてくる。
もうすぐ近くまで来ている。
視界に森の終わりが見えてきた。
その向こうが開けた場所だとわかるように太陽が明るく照らされている。森の木々で光が遮られていないからだ。
森の境目まで辿り着く。
深く息を吸い込みながら一帯を見渡す。50Mぐらい先に、そこに人が建てたでろう建物が幾つも建ち並んでいた。おそらく木造であろうそれらの建物は確実に人の手で作られたものだ。
「やった…。」
この一ヶ月人と会うこともなくただ一人森の中でサバイバルをしていたのだ。この瞬間をどれだけ待ち望んだことか。
おそらく村であろうこの一帯を注意深く見つめていると近く複数の人影を発見した。
それらは声を大きく上げながら辺りを走り回っている。お祭りでもしているかのような喧騒な感じだ。
とにかく会って話がしたい。
人影の方に近づこうと歩み寄ろうした時、その光景に思わず息を呑み立ち止まってしまう。
その光景は日本から転移した者からしたら異様という他なかった。
農作業をしていたのか身につけている衣服は土や泥で汚れていた。そしてその者は太く短い手足に薄汚れた肌をし、その顔は悲壮感が滲み出るような表情をしている為かヒドく歪んでいた。その形相は人のそれではないとさえ思えるほどである。いや実際そうなのかもしれない。
大きな頭は人のそれより一回りも大きく、その頭部からは頭に見合うだけの大きな耳が生えていた。そしてその頭を持ってしても更に大きな鼻は前に突き出している。
その頭はまるで豚のような…。
もしこれがファンタジーならばオークという言葉がビッタリとあてはまるであろう。
その風貌の者はそこに居た。
現実とは思えないその光景。
そしてこの状況
まさに異様であった。
その者は斬り伏せられていた。
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