第14話 南楼月 ~関白道隆を偲んで~
道隆様は、お父君兼家様のお住まいであった東三条の西の対で息を引き取られました。
経房君の兄君でいらっしゃり、後に四納言のお一人に数えられた
この日から中宮様を中心とする関白家は頼りとなる柱を失い、音を立てて崩れて行くことになるのを、私はまだ知りませんでした。
道隆様の死後、関白という座をめぐっての覇権争いが始まりました。私は、
九月の道隆様の追善供養に清範僧都がしみじみとしたことを説かれた後で、斉信様が高らかに吟誦なさいました。
「月秋として身いまいづくにか」
月は秋となってまた照るけれど、月を賞した人は今どこに去って行ったのか…。
「
「すばらしいこと。まったく今日のためにこそつくられたようね」
「それを申し上げるために何もかも途中で放り出して参上いたしましたのでございます」
私が申し上げると、中宮様は仰せになります。
「あなたの
その場にいた、他の女房の冷たい視線に私はまったく気がついておりませんでした。
確かにそのころは、伊周様と道長様の間で対立が激しくなっており、口論があっただの、弟君隆家様の従者と道長様の従者が斬り合いの喧嘩をしただのという微妙な時期ではございました。隆家様のご兄姉思いが昂じてのことなのでしょうか。世間では隆家様を、『やんちゃ殿』などと言うようです。私も関白の座を狙う道長様の存在に恐れを抱かないわけではございませんでした。道長様は道隆様の弟君で、道隆様に引けをとらない切れ者と前々から尊敬申し上げてはいたのですが、事情が変わればいわば敵方。
私は道長様と斉信様のつながりまでには、目を向けていなかったのでした。中宮様や私が見ようとしていたものは人の心の有様であり、政の有様ではなかったようです。
それから間もない年明けの長徳二年一月、取り返しのつかないような出来事が起きてしまいました。
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