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 古風な駅が見えてくる。森の中にあった駅と同じデザインの駅だ。列車は駅に止まっている。二両の古風な作りのもの。夏はこの列車が結構気に入っていた。遥がデザインしたものだと思われるこの列車はとても美しかった。乗り物を美しいと思ったのは初めてだ。シンプルで機能的。でもどこかおもちゃのようにも見える。まるでテーマパークのアトラクションのようだ。夏は駅のベンチに座る。静かな時間。これはこれで豊かさなのかもしれない。ここについてから変な体験の連続で疲れてしまった。見たことのない大きなガラスの壁に森の中の駅。地下を走る列車。宇宙船みたいな研究所。真っ白な少女。白いクジラ。一年かけて探し出した子供みたいな天才科学者。まるで違う惑星にきたみたいだ。私はいつのまに違う世界に迷い込んでじまったんだろう? 研究所にたどり着いたときだろうか? 森の中の駅を発見したとき? この場所を突き止めたときだろうか? 違う。そうじゃない。もっと過去だ。たぶん、遥と出会ったクリスマスパーティーの会場。あの会場で木戸遥を見つけたとき。遥を見つけて遥に話しかけたとき。遥の目を見て握手をして、それから、そう名前を聞いたんだ、わたしは遥の名前を聞いて遥がわたしの中に入ってきてそれからずっと遥はわたしの中にいて、わたしの中は遥でいっぱいになったんだ。とても強い重力に飲み込まれ、引きつけられて、もがいて、あがいて、否定して、それでもどうにもならなくて、瀬戸夏は木戸遥という名前の星に落下したんだ。その星から脱出することはもうできなくて、どうすることもできないから、ずっとこの星で暮らしていくことになったんだ。それ以外の選択肢はなかったんだ。木戸遥は自身の魅力でたくさんのものを引きつける。あらゆるものを収縮し、圧縮して彼女の中に閉じ込めてしまう。吸収してしまうんだ。遥の周りではすべてが遥に集まってしまう。集約してしまうんだ。すべてを奪われてしまう。木戸遥はそういうタイプの天才だ。遥と出会ったことで運命が変わった人は大勢いるだろう。天才の重力はそこに存在するだけで周囲に影響を与えてしまうんだ。遥の意思とは関係なく出会うだけで存在を知るだけで吸収されてしまう。遥と一つになってしまう。なんて危険な存在なんだろう。なんて悲しい存在なんだろう。夏は遥が孤独を好む理由がちょっとだけ理解できた気がした。夏の髪がかすかに揺れている。大気が動いていんだ。風が冷たい。体がとても寒い。帰ろう。夏はベンチから立ち上がる。わたしはこれからどこに帰るんだろう? 列車に乗って自分の家に帰るのか。それとも橋を渡ってあの変わり者の家に帰るのか。夏は両手をジャージのポケットの中に入れる。そんなことはもう決まっているんだ。私のすべては奪われているんだから。思い出すのは遥のことばかりだから。遥の体の中で一つになるのだから。

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