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 このプログラムを一人で書いたのか? いくら遥でも無理なはずだ。照子の研究と施設の建設を同時にやっているのだ。ほかにも数えきれないほどの雑務や仕事をこなしているはずだ。論文も発表している。ではどうやって完成させたんだろう? いくつか可能性を考えたが夏にはどれが正解か答えがわからなかった。手前の区画のドアの前までたどり着く。しばらくするとドアが開いた。カメラはないようだけどどうやって人物を確認しているのだろうか? 中はとても明るかった。電気はずっとつきっぱなしのようだ。地上のガラスの壁からエネルギーを供給されているんだろう。四角い箱がたくさん置いてある。人が持ち運べるサイズのコンテナのようだ。どうやらここは物置のようだ。大きさは遥の部屋と同じくらい。箱の数と量から言って生活用物資だろう。食料なども保存されているはずだ。研究用、建設用などの大型資材はやはり地上に倉庫があってそこに保管しているのだろう。やっぱりここはただの生活空間でしかないのかもしれない。研究所の中はこれで全部かな? ちょっとだけ迷ったけど夏は入り口から研究所の外に出た。


 冬の寒さを感じる。そっか今は冬なんだっけ? 研究所の中は温度が調整されていたのですっかり忘れていた。それでも地下は地上ほど寒くはない。夏はここまでくるときの辛さを思い出す。隠れるにしてもこんな世界の果てに隠れる必要はないと思う。それも研究所のある場所は地下だ。遥はいったいなにから隠れているんだろう? 私からだったら嫌だな。夏は上を見上げる。空が見たかったがもちろん見えない。月も星も輝いていない。駅の方向を見るが真っ暗だった。街灯が設置されているのだが人が通ると明かりがつくシステムのようで明るいのは夏の周辺だけだ。初めて研究所まで歩いたときもそうだった。列車や地下の施設も含めると太陽エネルギーだけではまかなえないはずだ。ほかになにかエネルギーを生み出す施設があるんだろう。地下はとても大きな空洞になっているようだ。全体を把握することができない。手で暗闇を探ってもなにもない。永遠に空間が続いているような錯覚に陥ってしまう。駅に向かって歩き始める。歩いている途中で駅までの道が橋であることに気がついた。

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