「ずっとここに籠ってるの? 変わり者なのは知ってるけどさ」

 照子のいる部屋の反対側。遥の部屋に二人で移動した。遥は聞いてはいるけど返事は殆どしない。夏は一人でしゃべり続けている。遥はテーブルにコーヒーを用意してくれる。それを見て夏は椅子に座る。とてもリラックスしていた。緊張が解け好奇心が強くなる。

 遥はそんな夏を見てかわいいと思った。

「さっきの子があなたの研究対象なの?」

「そうよ。もうずっと照子と一緒に暮らしているの」

 遥はコーヒーを一口飲んでから答える。

「おしゃべりしたり、一緒にご飯食べたりしないの?」

 夏は部屋に置いているディスプレイを見た。白いクジラが画面の中を泳いでいる。

「照子とコミュニケーションはとれないの。普通の食事は食べられない。薬を飲ませるの」

「飲ませる?」

「補助が必要なの。でも手元に道具を置いておけば仕事もしてくれるんだよ」

 照子と呼ばれる少女。さっき見た子は照子とそっくりだった。


 あのときの少女は笑っていた。それがとても不気味だった。

「笑ったりしないの? 泣いたりとか、怒ったりとかさ」

「しない」遥かは言い切る。

 夏は彼女の目を見つめる。

「どうして学園をやめたの?」遥の長いまつげを見る。とても奇麗で美しい。

「あなたはここでなにをしているの?」とても素直な言葉だ。

 遥はいったいなにを目指しているのか? 目的を知りたかった。

 遥はうつむく。上目遣いで夏を見つめる。

「奇跡って信じる?」そういって彼女は目を細める。

 奇跡。遥らしくない言葉だ。遥は天才だ。それもとびっきりの天才。

 その彼女も奇跡を信じるのだろうか? 

「あったらいいなとは思うかな?」

「私は信じてる。照子の存在は奇跡そのものだから」

「奇跡? あの子が」

「そう。あの子が生まれたことが奇跡」

 やっぱり自分はからかわれているのだろうか? さっきの出来事も遥のいたずらだったのかな?

 夏はカップに口をつける。コーヒーはとても美味しかった。

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