「いや、その子じゃなくて」夏は遥を見るがそこにさっきの子がいない。あれ? さっきのはなに? 夏は混乱する。その様子を遥は棒つきの飴をなめながら観察している。

 もしかして、からかわれてる? 遥のいたずらだろうか? ありえる。

「なんでもない。とにかく言いたいことが山ほどあるし聞きたいことがたくさんあるけど、まず私になにか言うことがあるでしょ? あんたは」

 遥は不思議そうに眉をひそめる。いっていることが理解できないという表情だ。

 夏は荷物を床に置くと腕を組んで遥を睨みつける。

「もしかして怒ってるの?」

「怒ってる! 当たり前でしょ!? なんであんたはなににも言わないで突然いなくなるかな? おかしいでしょ? 私たちはさ。……なんていうかさ、……その、友達でしょ?」

 恥ずかしかったけど怒っていたので言い切ってやった。

 遥は不思議そうな顔をしている。

「友達?」

「そうよ。違うの?」

 友達。そう私と遥は友達なんだ。

「夏。もしかして私に会いにここまできたの?」

「そうよ」

 夏は胸を張っていった。

 遥は飴をなめるのをやめて目を丸くした。そして大きな声で笑い出す。

「なに、笑ってんのよ!」

「ふふ。ごめん。ちょっとまって。止まんない」

 夏の顔はだんだん赤くなっていく。でも嘘じゃないしとても大事なことだ。

「夏。なんていうか、ちょっとかわってるよね」

 その瞬間、夏の顔は真っ赤になった。

「あんたにだけは、いわれたくないわよ!」

 遥はにやけている。 

「顔洗ってくる。洗えるところある?」

 遥が反対側を指差すとドアが開いた。夏はなにも言わずそちらに歩いていった。

 夏が見えなくなって遥は口に飴を含み膝を抱える。 

 そうだね。あなたはわたしの友達。世界でたった一人の私の友達。

 遥は目をつぶり、口の中の飴を噛み砕いく。

 その光景を雨森照子は髪の毛の奥からじっと見つめていた。

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