まあ乗ってしまったからにはしょうがない。後戻りもできない。列車が止まるまで待つしかないだろう。飲み物を出しのどを潤す。緑色が窓の外を流れている。どうせだったら壁の入り口まで線路を延ばせばいいのに。これではなんのための列車なのかわからない。列車は目的地まで人や物を運ぶ物であって目的地についてから乗る物ではない。そこまで考えたときあたりが急に暗くなる。夏はもう一度席を立ち前方を確認する。ところどころ明かりがともっている。螺旋を描くように走っているようだ。緩やかにカーブしている。地下を走っている? ……そうか。こんなところに隠れていたんだ。道理で見つからないわけだ。夏は席に戻り目と閉じる。遥に初めて出会ったときのことを思い出していた。パーティー会場でいつも通りに振る舞っている夏。そこに子供が一人いた。とても珍しい。私も子供だったけど学園以外で同い年くらいの子と会うことはほとんどなかった。すごく気分が高揚した。すぐに声をかけにいった。とても懐かしいもう随分前の思い出だ。遥は一人でじっとしていた。考えごとをしているのかずっと下を向いている。奇麗な子。それが遥の第一印象だ。夏は一目で彼女に惹かれた。憧れたといってもいい。それぐらい彼女は美しかった。外見もそうだけど内面からわき上がる魅力のようなもの。神秘的な触れてはいけないもののような雰囲気をまとっていた。とても禁忌的で危険な存在。

「ごきげんよう」夏は彼女に近づいて声をかける。彼女はちらりと夏を見るとすぐに視線を下に戻してしまう。 

「なにかごようですか?」夏は彼女を観察する。どうやら照れているようだ。とてもかわいい反応。なんて恥ずかしがりやなんだろう。ぜひとも友達になりたいと夏は思う。

「初めまして、私は瀬戸夏といいます」笑顔で挨拶して片手を差し出す。

「なつ?」

「そう夏。よろしく」

「よろしく」ちらっと手を見たあと、遠慮がちに手を握り彼女が答えてくれる。

「なんて名前なの? 教えてもらえる?」彼女は夏の顔を見つめた。夏も彼女の顔を見つめる。

「遥」はるか、可愛い名前だ。

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