いろんなシチュエーションを想像していたが夏はしばらくその場から動くことはできなかった。目的地にはなにもなかった。慌てて地図を再確認するが場所はあっている。なにもない。小高い丘があるだけ。自然のままだ。何時間歩いたと思ってるんだ。夏はその場に座り込んでしまった。参ったな。どうしよう? 空を見上げる。空は相変わらず曇っている。この地区は極秘区画となっているはずだ。あらゆる通信が遮断されている。頼れるのは自分の肉体のみだ。しばらくじっとしていると気持ちに力がよみがえってくる。落ち込んでる場合じゃない。とりあえず周辺を探索してみることにしよう。丘の周りを探してみたがなにもない。範囲を少し広げてみる。夏は近くの森の中に道のようなものがあることに気づいた。あやしい。道にそって森の中に入っていく。木々はとても瑞々しい。森ってこんなに奇麗なところだっけ? 夏は違和感を感じる。自然の中にいる気がしない。人工物の中。作り物の世界に迷い込んだような気分になる。間違いなく本物の草木だけど本物っぽくない。奇麗すぎる。命ってこんなに奇麗で清潔な存在だっただろうか? もっと泥臭くて汚いもの。有機体とはそういったものではないのか?

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