第7話【恋蛍】
「ねえ、春香。何で和樹くんと付き合うのに反対なん」
春香の親友である美雨が疑問をぶつける。
「ああ、いやほら・・・。和樹くんてモテるやろ。だからやめといた方がいいって思っただけ。競争率激しそうだし」
「でも今彼女いないからイケるってみんな言ってるよ」
美雨は不満げに答える。
「でもさ。彼他に好きな人いるみたいだからさ」
「ええ、誰」
「いやそこまではわからないけど」
春香は焦ったようにそう答える。
春香は嘘をついた。彼女には和樹がクラスメイトの永山さんに
恋していることを知っていた。
もちろん和樹からそういう話を聞いたわけではない。
春香にはある特殊な能力が備わっていたからである。
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春香が右目の視力を失ったのは中学の頃である。
部活の帰りに暗い夜道を急いで帰宅中に何かが右目に飛び込んできて
痛みを生じ、翌日病院に行ったものの、視力が回復することはなかった。
別に完全に失明したわけではない。しかし左右の視力に大きな差があるというのは何とも居心地のいいものではなく、眩暈に似た浮遊感に襲われた。
しかしある時春香は、視力が低下したはずの右目にだけ映り込む怪しい光を感じ取った。それは人の心が放つ光である。しかもその光とは恋心を抱いている者が発する光であった。
それに気づいた春香はしばらくクラスの全員を観察するようになっていた。
どうやら、光は好きな相手と会話したり、触れ合うことでさらに強い光を放つらしい。和樹が永山さんと何気ない話をしている時、それは強く光り輝く。
「そうか・・・。和樹くんは永山さんが好きなのか」
春香は春香はこの光を「恋蛍」と名付け、いつしかこの能力による密かな楽しみを見いたしていた。
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春香の予想に反し、和樹と美雨は付き合い始めた。
混乱した春香は美雨に再三にわたり
「和樹はやめときなって。あの人多分浮気するタイプだよ」
と警告を重ねたが、美雨は「焼くな焼くなw」と意に介さなかった。
春香はその後も注意深く和樹を見ていたが、その後永山さんを見る和樹からはあの光は見えず、また三人で遊ぶようになってからは春香も徐々に二人の交際を容認するようになっていた。
ある連休の日、美雨の家に和樹と春香が集まって遅くまで話していると、話疲れた美雨がウトウト眠り始めた。すると和樹が春香を見つめてこう言った。
「本当は春香の事ずっと好きだったんだ」
「え・・・。ちょっと何言ってるの。アンタ美雨と付き合ってるんだよね」
「美雨には悪いけど、美雨と付き合えば春香と仲良くなれるって思って」
すでに和樹の身体から妖しい光が漏れている。
「アンタほんと最低だね」
嫌悪感を露わにしながら春香は吐き捨てた。だがさらに春香を驚かせたのは、自分の身体からも妖しい光が溢れている事だった。
(そんな・・・)
春香は己が発する恋蛍を見つめて忌まわしく眉を顰めた。彼女の脳裏には、やがて起こる二つの光が激しく衝突する光景がありありと浮かんでいた。それも、寝ている親友のすぐ横で・・・・
-終-
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