第232話 リンの戦い 終
聖女の体が光を放ち、リンやラース軍を飲み込んでいく。
それは全てを浄化させる光。
聖女アクアが聖典を手に入れたときに得た力なのだ。
浄化とはなんなのか?本来浄化とは、きれいにすること。清浄にすること。
心身の罪やけがれを取り除くこと。
社会の悪弊などを除いて、あるべき状態にすること。などと言われている。
では、聖女の浄化とは何を浄化するものなのか。
「ねぇ、リン・ガルガンディアさん。
あなたはなぜ、リン・ガルガンディアさんなのかしら?」
光の中で、聖女アクアはリンの前に立った。
リンは目を閉じたまま、光から視界を守るために顔を手で隠している。
それに対して聖女は堂々とリンの前に立ち、腰に手を当てていた。
「何を言っているの?」
「あなたをリン・ガルガンディアたらしめるものは、なにかしらね?」
聖女が何の質問をしているのか、リンにはわからない。
聖女はそんな姿を嘲笑うように、リンの頭を掴んだ。
リンはその手を払いのけようと顔を隠していた手を出そうとして違和感に気付いた。
「どう?力が入らないでしょ」
「何をしたの?」
「これは浄化の光よ。あなたを、本来のあなたに戻すために、浄化の光はあなたを包み込む」
「本来の私?」
「そう、この聖典の名は説明書というの。なんの説明書だと思う?
この世界そのものよ」
聖女が説明している間も、リンは何か反撃の糸口はないかと魔法を発動したり、斧を握ろうとする。
しかし、魔法は発動する前に霧散して消え、斧は重くて片手では支えられない。
「無駄よ。聖典は二冊目があるの。その二冊目にあなたのこともかかれていたわ。
魔法が使えないドジっ子キャラで、冒険者をしているけどランス様と冒険に出ては、魔法を発動する際。二回に一度は魔法を失敗するダメな魔法使いなんだから。
しかも使えるのは火属性だけ。これが本来のあなたの姿よ」
聖女が何を言っているのかわからない。
ヨハンと出会う前の自分は確かに魔法もろくに使えなくてオドオドしていた。
聖女の言葉で昔の自分を思い出す。
「どうして?」
「言ったでしょ。これは浄化の光、あなたを本来の登場人物に戻すのよ」
聖女の光は、聖女が聖典から得た知識の人物へ浄化することができるのだ。
「今はただ眠りなさい。あなたが目覚めた頃には、あなたは全ての記憶をなくしている。もちろんあなたの家族は生かしているわよ。あなたは家族のために冒険者をしているのですものね」
リンはどんどん失われていく力と魔力を感じながらヨハンを思った。
「ごめんなさい」
ずっと傍にいると言ったのに、ヨハンの前からいなくならなければならない自分に対してリンは涙を流した。
そして、これまでの全ての記憶を失うため眠りへと落ちていった。
「終わったわね。ふふふ、ヨハン、あなたの一番大切な人を奪ってあげたわよ」
聖女アクアは楽しそうに浄化の光をツリーハウスに向けた。
「これほどの規模を元に戻すのには時間がかかるわね。ガンツ、いるのでしょ?」
「はい。聖女様」
「ここももうすぐ浄化されます。あとのことは頼みましたよ」
「はい。いつも通り始末しておきます」
ガンツは聖女には見えないところで厭らしく笑った。
それはガンツの楽しみであり、これから起こる最低な行為を聖女に伝えていない笑みだった。
「では、私は国に帰ります」
「はっ、ご無事な帰還を」
「私に対抗できるものはいませんよ」
聖女はあとのことをガンツに任せ、ツリーハウスを後にした。
暗い闇の中、話を聞き終えたフリードは一つの疑問が浮かんでいた。
「リン様は生きているっすか?」
それはリンの安否だ。今の話ではリンは殺されていない。
浄化という意味がフリードにはわからなかったが、わかるのはリンが生きているということだ。
「生きているわよ。私は聖女、人の命を奪うなんてとんでもないわ。
いくら私の綺麗な顔に傷つけた忌まわしい相手でも、私は浄化することで許してあげるのよ」
聖女は狂っている。しかし、フリードは必要な情報は十分得られた。
あとの判断はヨハンがするだろう。
「ほしい情報はもう十分頂いたッす」
「あら、ここから逃げられると思っているのかしら?
脱出ようのアイテムも、魔術もないあなたがどうやって逃げるつもり?」
聖女はバカにしたようにフリードを見下ろしていることだろう。
だが、フリードには切り札を持っていた。
ヨハンがフリードに持たせてくれた切り札。
「あんたは聖典でいろいろなことを知った気になっているみたいっすけど。
あんたにも知らないことあったみたいっすね」
それはヨハンだけがスキルポイントの能力で手に入れることができた力なのだ。
「何を?何を言っているの?」
フリードの体が瞬時にして消えてなくなり、それは聖女が予期しなかった出来事だ。
「何をしたというの!」
聖女の絶叫も空しく牢屋の中に声だが響いた。
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