第175話 閑話 VS竜騎士 終
竜騎士に呼応するように空を飛ぶドラゴンたちが叫び声をあげ始める。
総力戦を仕掛ける竜騎士にランス一行も迎え撃つため光り輝く。
「眩いな」
蒼い光を放つランス以外の五人が、ドラゴンに向けて飛び立つ。
ドラゴンも先程までのようにやられるばかりではなく。
徒党を組んで乙女たちを迎え撃つ。
激しくぶつかり合う乱戦と化した戦場とは別に、黒龍と黄金騎士は、一対の獣と化して蒼き閃光を放つ一人の勇者を見据える。
「あなたを倒せば残るは天帝だけだ」
「笑わせるな。我が帝国には我を倒そうと、まだ多くの将と戦上手が残っておる。王国のような層の薄さと同じに考えるなよ」
「いくら多くの将がいようと、俺の剣で全て打倒する。
そして、いくら戦上手がいようと、俺の友がその全てを倒してくれるはずだ」
「お前の友?」
「そうだ。王国軍総司令官ヨハン・ガルガンディアがいる限り。帝国に勝ち目はない」
ランスはヨハンの名前を語るとき、誇らしげに話をする。
「なるほど、その名には覚えがある。デッドラーが気にしていたな」
「デッドラー?」
「貴様たちにはこう言った方が分かりやすかろう。死霊王と」
「死霊王……」
「貴殿は我の手で、そして貴殿の友は死霊王デッドラー・ウルボロスが帝国の敵として討ってくれるであろう」
改めて豪槍を構えるディアスの瞳に迷いはない。
自身の武に絶対の自信を持っている証拠である。
全力でランスを倒すために武に命を捧げる覚悟を決めていた。
「ならあんたは俺が、死霊王はヨハンが倒す。
そして俺はあんたを倒して天帝の命も貰い受ける」
「やれるものならばやってみろ」
ブラックドラゴンが再び高々と飛び上がる。
しかし、今度はランスも魔法で肉体を強化させ、風の魔法を使って空へと跳ぶ。
「バカめが、ドラゴンに空中戦で勝てると思っているのか?」
「やってみなくちゃわからないだろ」
ランスは聖剣を使い、風の魔法を下後方に向けて全力で放つ。
光輝く鎧を身に纏いドラゴンへ突撃をかける。
「遅い」
「どうかな」
ドラゴンが上空へ飛びあがると同時にランスは剣を下に向けて細い炎を噴射する。
それは風よりも早くランスの身体を空高くへ吹き上げる。
その速度はディアスの想像を超える。
「なっ!」
ランスは空いている拳で思いっきりドラゴンの腹を殴りつける。
凄まじい衝撃にドラゴンの巨体がよろめく。
「もういっちょ」
ランスが追撃しようと聖剣を振りかぶる。
しかし、ディアスが手綱を引いて聖剣を躱し、豪槍をランスへ向けて突き刺した。
「ちょっ」
ランスは身を捩り豪槍を避けるが、ディアスは続けざまに槍を突く。
体勢を崩したドラゴンの上であろうとディアスの槍は寸分狂わぬ正確性でランスに襲いかかる。
ランスも身体を落下させながら、聖剣と魔法を駆使してディアスの猛攻を何とか凌いだ。
「ここで終わらせる」
ディアスはランスよりも速くドラゴンと共に地上に向かって急加速する。
地上ギリギリで再び浮上したディアスはドラゴンを急加速させてランスに襲いかかる。
先ほど殴られた恨みを晴らすように、ドラゴンが口からブレスを吐いてランスの身体を焼く。
「ライトニングボルト」
光魔法の最強魔法がドラゴンのブレスを打ち消す。
だが、ブレスとライトニングボルトのぶつかり合った後に、銀色の豪槍がランスの心臓めがけて突きつけられる。
「制空権は我のものだ」
ランスは突きつけられる槍に交差させるように、聖剣を竜騎士に向けて突きだす。
二人の刃が交差するとき、鮮血が飛び散る。
ランスは地上へ着地し、ディアスはドラゴンと共に空高く舞い上がる。
しかし、その速度は段々と遅くゆっくりと落下の一途を辿る。
ランスは弾け飛んだ鎧のせいで肩が露出していた。
左肩には豪槍の跡が残され夥しいほどの出血が溢れ出す。
それでもランスは右手を高々と掲げて、聖剣を突き上げる。
「俺の勝ちだ」
ランスが勝利を宣言するのと、ディアスがドラゴンと共に落下するのは、ほぼ同時だった。ディアスの敗北はドラゴンたちの戦闘を停止させる。
「あれ?終わり?」
ドラゴンから戦意が消えたことを察知して、それぞれの乙女たちも武器を止める。
一番最初に現れたドラゴンが縮んでいき、女性へと姿を変えた。
ランスに斬られていたのはドラゴンの表皮だけで、女性はほとんど傷付いていなかった。
「私は竜人族の巫女トキネと申します。
私たちを呪縛から解放していただきありがとうございます」
トキネは裸のままで膝を突き、ランスに頭をさげる。
トキネに続くようにドラゴンたちも地上に降り立ち、次々とランスの前に膝を突く。
「どうなっているの?」
シェリルはランスの後ろにやってきて、ドラゴンたちの行動に驚いていた。
「我々は古の契約により、ドラゴンマスターであるアラン・ディアスに従うしかなかったのです。ですが、貴方様のお蔭で契約から解放されました。
これで我々は自分の意思で動くことができます」
「そうだったのか、あなた達も大変だったんだな」
ランスはトキネの言うことに何度も頷き、竜達が自由になったことを喜んだ。
「はい。これで自由となり私達が認める方の下へ行くことができます」
「君達が認める人?」
「はい。私達はヨハン・ガルガンディア様の下へ行きたいと思っています」
「ヨハンのところか!それはいい。王国のために力を貸してくれ」
トキネの言葉にミリューゼは眉を動かした。
しかし、ランスは手を叩き、ヨハンの下へ行くと言うトキネを歓迎した。
「私達はヨハン様に従います」
「ああ、それでいい。ヨハンが裏切ることはないからな」
ランスは何度も頷き、ドラゴンたちが去っていくのを見送った。
「本当によかったのですか?」
「何がだ?」
ミリューゼの問いかけに、ランスは何を言われているのかわからなかった。
「いえ、持ち過ぎた力は人を狂わせるといいますから」
自分達にも当てはまることを、ミリューゼは考えてなどいないだろう。
「大丈夫。俺達は天帝を打つことに集中すればいいさ」
ヨハンが、三死騎の二人を倒した頃。ランスもこうして竜騎士を討っていた。
死霊王が帝国内から次の手を打てずにいたのは、このランスとヨハンの働きが大きく作用していた。
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