第174話 閑話 VS竜騎士 2
巨人族の15m級を相手したことがあるランスたちであったが。
ドラゴンは巨人族を超える大きさでランスたちの前に降り立った。
だが、これまで勝ち続けて来たランス一行が怯むことはない。
ランスが聖剣を振り上げ、ドラゴンへ斬りかかれば、ミリューゼが槍を、ティアが爪を、シェリルが弓を構える。
それぞれがランスに導かれるように、武器が光り出し強力な攻撃を生み出していく。
「いつ見てもスゲーな」
ルッツは双剣を封印して、大きな盾と鎧でレイレを護るように後方待機している。
「真なる騎士が放つ聖なる光り。伝承の通りですね」
ルッツに護られるように立っているレイレは、目映い光を放つ五人を見ながら祈りを捧げる。彼女はメイドであり、アイテムボックス持ちであり、そして治癒師でもあるのだ。彼女はパーティーの重要な役目を担っている。
だからこそ、ルッツは彼女を守るために剣を置き、守りに徹するガードになったのだ。
「伝承ってか、すでに伝説を見てるとしか思えないけどな」
二人の目の前では、ランスが高々と飛び上がり聖剣を持ってドラゴンを真っ二つにしていた。そんな光景を今迄も見せられてきたのだ。
巨大なドラゴンが倒れると、空を埋め尽くすドラゴンの群れがランスたちを見下ろしていた。ただの人ならば、人生の終わりを悟っていただろう。
しかし、ランスは振り返ってサクラに合図を送る。
「火遁、水遁、風遁、乱れ蓮華」
サクラはランスに応えるように、魔法を応用した忍術で、空を飛ぶドラゴンたちに撃ち落としていく。
普通の魔法よりも遥かに威力のある忍術がドラゴンにダメージを与える。
「サクラ、私達の分も置いておきなさい」
シェリルの弓がドラゴンを追撃する。
ミリューゼとティアが落ちてくるドラゴンにトドメをさす。
「ドラゴンが、コボルトとかゴブリンにしか見えないな」
圧倒的な攻撃力でドラゴンの群れを倒していく勇者一行に、ルッツは遠い存在を見るように見つめることしかできなかった。
「それでもランス様が、あの力を手に入れるのに苦労が無かったとは言えません。
それはルッツ様が一番わかっているのではないですか?」
レイレの言葉に、ルッツはランスとの過去を思い出す。
千人将として共に戦い、王女やエルフの姫さんを助けた。
それは決して楽な道ではなく、むしろ過酷な道を選んで進んでいるように思えた。
聖剣を手に入れてからは更に自分を追い込み、聖剣に認められるようにランスは強くなった。
「ああ、あいつは確かに王国の英雄だ」
「はい。彼がいるからこそ、私達は勝利を信じていられる」
ランスは多くの王国の兵士に支持されている。
それはランスの人となりもあるが、その剣の実力と彼が選ぶ人生の苦難を、兵士や民が知り、彼に魅せられているからだ。
「そこまでにしてもらおう」
ランスの剣を受け止めた者がいた。
ドラゴンの群れではなく、巨大な豪槍を持った一人の男だ。
黒いドラゴンに乗り、ランスの前に降り立つ。
「貴様は?」
「我は帝国軍最高司令官ドラゴンマスターにして、竜騎士ディラン」
ランスの剣を受け止めたのは帝国最強の男。竜騎士ディランであった。
黄金に輝く鎧に身を包み。黒いドラゴンに跨る姿はまさに竜騎士であった。
「竜騎士ディラン、帝国最強の盾」
「如何にも、我は帝国の盾」
「俺は王国軍……いや、王国の英雄ランスだ。天帝の命を貰いにきた」
ランスは自分が王国の英雄であることを認めた。
その上で天帝を狙うことを宣言する。
「我の前でそれを口にするか」
ディランはランスの瞳を見つめていた。
「ああ、あんたも俺が倒す」
「やってみるがいい。我は帝国を守るため、強いては天帝様を守るため、貴様に引導を渡すこととにしよう」
ランスは聖剣を構え直し、ディランも豪槍を握り締める。
先手を取ったのはディランだった。
ドラゴンの背に乗り、高々と飛び上がったディランは急降下と共にランスめがけて一本の槍となる。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!!!!!」
黒いドラゴンは一筋の黒い閃光となって、ランスへ襲いかかる。
ランスもそれを受け止めるように、聖剣が青い光に包まれる。
「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!」
ランスも気合いを入れて、ディランを迎え撃つ。
黒金と青の光がぶつかり合う。
光は一度の交差では決着がつかず、二度、三度と何度もぶつかり合う。
他のドラゴンは二人から距離を取り。
ミリューゼ達ランス一行も二人の戦いを見守るように距離を取る。
「なかなかやるではないか」
「竜騎士殿もなかなかどうして、さすが帝国最強の盾といったところか」
二人の力は均衡していた。
実際にはランスの剣の威力が勝っているのだが、巧みなドラゴン捌きと戦闘経験の豊富差でディランはランスの攻撃を凌いでいる。
さらに、培った経験から攻撃にカウンターを合わせてくるのだ。
「貴様は英雄と言ったな。では、聞こう。英雄とはなんだ?」
「それは……自分の大切な人たちを護れる強さを持った者のことだ」
「ならば、私も英雄か?」
「そうだろうな。あんたは帝国の英雄だろ?」
「いや、私は英雄ではない。我らが英雄は天帝様だ」
「天帝が英雄?」
「そうだ。貴様はどうして天帝様に剣を向ける?」
「それは天帝が王国を滅ぼそうとしているから……」
竜騎士の言葉に、ランスは言い淀んでしまう。
「大局を見よ。世界は争いに包まれている。
だが、天帝様が国を一つにすれば争いの無い世界ができるではないか。
どうだ王国の英雄よ。我と共に天帝様の下へ来ぬか?」
「それは……」
「それは詭弁です。あなた達が世界を統一する際に、我々王族はどうなります?そこに住む民たちは?」
迷っているランスに変わり、ミリューゼは竜騎士の言葉に反論する。
「不要な者は処分するしかあるまい。争いを生み出す王族など不要そのものだ。
死んでもらうことになるだろうな。民は天帝様に従うのであれば生きればいい。
だが、不要な者についていくというのであれば、それもまた不要」
竜騎士の言葉に、それまで迷っていたランスが顔を上げる。
「やっぱり天帝に従うことはできない。たとえ天帝が世界を統一して争いが無くなっても、そこに大切な人がいないなら、俺は生きている意味がないから」
ランスは聖剣を構え直す。
「残念だ。貴殿ならば天帝様の後継者に成れた者を……」
ディランもランスへ向けて豪槍を構える。
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