第110話 ガルガンディア式戦闘訓練

ガルガンディア式軍隊訓練とは。

ヨハン・ガルガンディアが編み出した訓練方法である。


この方法はのちに王国軍特殊部隊式訓練法として正式採用されることとなる。

あまりにも過酷な訓練なため、上級士官を希望する者にだけ受ける資格を得ることができる特殊訓練として認定されたのだ。


「クソ野郎ども!もっと腰を上げろ!そんなへっぴり腰で敵を倒せると思っているのか!」


激を飛ばしているのはドワーフ族大将ゴルドナである。

現在はガルガンディア領に用意された特別訓練場にて、ヨハンから特別階級である軍曹授かり、第三軍の訓練にあたっている。


「こんなこともできないのか!だから貴様らは帝国に負けたんだ」


ゴルドナからは常に罵声を浴びせられる。

それは訓練に必要な処置だとヨハンがゴルドナに教えたことだ。

ゴルドナには、その見た目と強者特有の威圧をを放ち続けてもらっている。

そうすることで極限の緊張状態が保たれ、訓練を受ける者たちは常にストレスに警戒を持ちながら訓練にあたれるのだ。


ガルガンディア式軍隊訓練 その一


体力をつけろ。


騎士、剣士、戦士、魔導士、僧侶、職業など関係ない。

体力がないものは死ね。死ぬほど走れば体力は後からついてくる。

毎日、日が明けて暮れるまで走れ。それでも立っていた者は次にいく資格がある。


五万人いた第三軍兵士のうち、一日目の課題をクリアした者は皆無だった。


魔導士は普段、研究に明け暮れて外に出ることすらない者がいる。

そんな者たちが戦場で走りまわって戦う姿など皆無に等しい。

だが、もしも彼らに体力があれば、長期戦になった際に魔法切れを起こしてもロットや杖で殴り掛かることができる。

貴重な魔導士が自分で走って逃げることができる。

それだけで貴重な戦力を減らさなくて済むのだ。


帝国よりも元々数の少ない王国には補充する余裕はない。

それをヨハンは許されない。

ならば魔導士であろうとも体力をつければ問題ないじゃない。

それは実に理にかなった言い分だった。

説明を受けたゴルドナは落雷に打たれたのではないかと思うほど感銘を受けた。


その一をクリアーした者が出たのは、三日目にして一人だった。

休むことも食事をすることも許されない過酷な状況で、朝から晩までガルガンディア砦の外周を走り続けた。

兵士たち全員がクリア出来たのは一か月後だったという。


クリアした者から、次の課題に進める。


ガルガンディア式軍隊訓練 その二


魔力を纏え。


魔力とは本来誰もが持っているものである。

しかし、魔導士はそれを使いこなすことができるが、戦士や剣士などは魔力を使うことを不得手にしているものが多い。

では、そんな魔力を普段使わない者たちがどうやって魔力を纏うのか?

それは簡単なことで、魔力を理解し、魔力に触れればいい。


「では、行きます」


それは魔法で作られたウォーターボール。

殺傷能力を極限まで減らした水の玉である。

それを日に何度もその身に受ければ嫌でも魔法を理解できるだろう。

魔法を放つのはリンとウィッチたちだ。

彼女たちの訓練も兼ねているので、手加減などする必要はない。


体力試験を速く乗り越えた者たちは、魔法に不慣れな者が多く。

直接魔法を食らうこで、強制的に身体に刻み込むのだ。

魔法を理解した者が出たのは水浸しになってから一週間ぐらい経った後だった。


ガルガンディア式軍隊訓練 その三


森で生き抜け。


この世界にはモンスターがいる。魔物がいる。

そいつらを殺せば経験値が得られる。

経験値が得られればレベルが上がり、スキルを閃きやすくなり、全体的に強くなる。

しかし、それだけでは森を生き抜くことはできない。

生き抜くためには食べる物、飲み水、安心して寝る場所の確保が必要となる。

そのために生き抜く知恵が必要となる。


魔物を倒して強くなるのは誰もが経験することだ。効率もよく強くなれる。

じゃあなぜしないのか、モンスターがいて強くなれる場所がない。

ならこの場所を使えばいい。 

ガルガンディアには未だに未開の土地が多くある。

強力なモンスターも生息している。そいつらを倒してレベルを上げろ。


ガルガンディア式軍隊訓練 その四


ゴルドナを倒せ。


その四とは最終試験である。

それは訓練で身に着けた実力を教官に示すということだ。


教官とはゴルドナのことであり、ゴルドナとのタイマンを行うのだ。

ここまで来たものは、体力があり、魔力を纏うことができ、生き抜くための知恵を兼ね備えた者だけだ。

資格を得てゴルドナの前に立つことが許された場所なのだ。


ただし、ゴルドナとてタイマンで負けるつもりはない。

精霊族とは元々魔力量が多く。自然と魔法にかかわることも多くある。

ヨハンが魔法を纏うコツを教えれば、ゴルドナはすぐに魔法による肉体強化の術を習得した。


元々、肉体強化がなくても巨人族のジャイアントとタイマン張るゴルドナだ。

肉体を強化すればどうなるか、まぁ化け物の誕生である。

エルフの長、シーラ・シエラルクがその姿を見ていった言葉はヨハンの耳によく残っている。


「私でも勝てないかも……」


エルフ族最強と言われた彼女が、肉体強化したゴルドナに対して勝てないと言わせたのだ。

そんなゴルドナを倒す最終試験に合格した者が…………二名いた。


「三か月間、よくぞ訓練に励んでくれた。予想よりも時間はかかったが君たちはガルガンディア訓練式を全て修めた」


それは三か月ぶりに見る。第三軍の面々であった。

兵士たちはヨハンが現れると、綺麗に整えられた敬礼で出迎えられる。


「「「ガルガンディア将軍!バンザイ!!!」」」


誰がバンザイなど教えたのだろうかと疑問に思いつつ、鎮まるように指示を出す。


「過酷な訓練であったことは、皆の顔を見ればわかっている。

しかし、帝国と戦う前にどうしても君たちのレベルを上げておく必要があった。

帝国が攻めてくるのは雪が解ける春の初めだろう。それまであと一か月しかない。

どうか、誰一人倒れることなくついてきてほしい」


初日のように反論してくるものはいなかった。

その代わり二人の人間が前に出る。


「何か?」

「ヨハン殿、こやつらはワシとの戦闘で合格を出した者たちです」


ヨハンの質問に答えたのは、二人ではなくゴルドナだった。


「合格した者がいるのか!」


合格したことに驚いた。最終試験まで行けること自体が奇跡だと思っていたのだ。

その二までは、自己を鍛えれば何とかなる。

その三に関しては、単独で乗り越えられる者は皆無だと思っていた。

騎士や兵士は魔物と戦うことはできても、食事をするための火すら起こすことがでできない。魔導師は火を起こすことは出来ても、魔物と戦いながら魔法を使うことができない。両者は協力しなければ生き残ることができない。


両方が出来る者だけが最終試験に到達できるのだ。


「はい。名を聞いてやってほしい」

「わかった。二人とも、名はなんという?」


気づかなかったが、一人は初日に反論していたイケメンだった。

根性も才覚も半端なく持っていたようだ。


「私の名前はライスと申します」


名前だけいうとイケメンは一歩後ろに下がる。

そしてもう人を見れば随分と小柄だと思っていたら、女性だった。


「私の名前はアイスと申します」


二人はボロボロの姿ではあったが、その瞳には確かな決意が見て取れた。


「よく合格してくれた。君たち二人には俺の手足となって働いてもらいたい。

二人を部隊長とする。皆もいいな」


兵士たちは沈黙していた。


「喜んで良い」


ゴルドナの言葉を聞くと、一斉に歓声が上がった。


「「「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!よくやったぞ!ライス。アイスもスゲー」」」


二人を称える声が上がり、心から喜んでいるのが分かった。

ゴルドナは通常訓練とは別に軍人としての心構えも兵士たちに説いていた。

だからこそ、大将もしくは軍曹の許可なく感情を表に出さないまでになったのだ。


「よくぞここまで彼らを導いてくれた。ありがとう」


改めてゴルドナに礼を述べ、次の段階に入ることを決心した。

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