第103話 第四章 エピローグ
ジャイガントを退けた代償は思った以上に大きく。
二人を出迎えるのもベッドから起き上がることができないほど憔悴しきっていた。
「お体は大丈夫ですか?」
「こんな姿で出迎えること申し訳ない」
ベッドの脇に置かれた椅子に座るように促すとシエラルクだけが席について、心配そうに問いかけてきた。鎖はすでに外されており、魔力が解放されている。
抵抗をしていないことで、シエラルクが協力者になってくれたことは一目でわかった。
「何を謝ることがある。主は勇者だ。誇りこそすれ、恥じることなど何もない」
立ったままであったゴルドナが、真剣な瞳でアクを讃えた。
どうやらジャイガントとの戦闘はすでに知れ渡っているようだ。
「そう言って頂ければ嬉しく思います」
「うむ。勇者には敬意を払うぞ」
ゴルドナの言葉に気恥ずかしくなる。
「改めて、我が精霊領を奪還していただいたこと感謝いたします」
シエラルクは深々と頭を下げた。
敵としてあったときの彼女は自信に満ち溢れ、傲慢な印象すら受けた。
だが、仲間となった彼女は礼儀正しく美しい女性だった。
これが彼女本来の姿なのだろう。
「いえ、俺たちにとっても死活問題でしたからね。
帝国と戦う上で、あなたたちの協力が得られるのは何よりも力強い。
エルフの知識、ドワーフの技術、シルフィーの機動力、ノームの採掘。
どれも必要なものです。協力できるなら、力を尽くすことなど惜しみません」
ランスがエルフを味方にして、ガルガンディアに住んでいる者もいる。
なら、全ての精霊族を助けて戦力にした方が王国のためになる。
「そこまで言って頂きありがとうございます。
サク殿からヨハン殿の考えを聞かせていただきました」
「俺の考え?」
「はい。精霊も、獣人も、人も、モンスターも分け隔てなく暮らせる世界。
素晴らしい理想だと思いました。殻にこもり他人との接触をさせてきた我々では到底思いつかない素晴らしいお考えです」
シエラルクの言葉にゴルドナもうなずいている。
どうやらサクが二人を落とすためにとんでもないことを言ったらしい。
「ははは、お恥ずかしい、未だ夢半ばです」
「それでも、私たちは感銘を受けた。ぜひ我々も協力させてほしい」
ゴルドナがシエラルクが天帝に合って変わってしまったと言っていたが、彼女からはそんな印象は受けない。
「それは俺と同盟を結んでくれるということですか?」
「同盟など。我々はあくまでヨハン様の部下でかまいません」
「それはいけない。俺は部下がほしいんじゃない。仲間がほしいんだ。
意見を言い合い、手を取り合って協力しあえる相手がほしいんです」
「ふふふ。サク殿の言われた通り変わったお方ですね」
「サクが?」
「ええ、我が主は部下を求めません。ただ仲間を探しておられるますと、言われていました。それは部下よりも大変だともおっしゃっていましたが」
コロコロと笑うシエラルクは美しかった。
もともとダークエルフ族は整った顔をしており美しい。
笑っているシエラルクは一段ときれいなのだ。
「そんなことは?ただ望むのは自ら考えることだと思っているだけです」
「誰かに指示されるよりも、自分で判断して考えることが難しいのですよ」
シエラルクは一人で決め一人で責任を負ってきた。
だからこそヨハンが言っていることが、どれほど大変でしんどいことなのかを知っている。
「もしも、シエラルク殿に相談できる友人がいたらどうですか?」
「相談できる友人?」
「そうです。対等の立場で話ができる相手がいたなら。私たちの出会いも変わっていたかもしれませんよ」
シエラルクはゴルドナを見る。ゴルドナも友人と言えなくはない。
だが、相談をしようとは考えなかった。
ヨハンを見れば確かにヨハンになら相談をしてもいいかもしれないと思えた。
自らを倒し、ジャイガントを退けた。
全てを受け止めてくれそうなヨハンにならば、胸の内を話しても受け止めてもらえるのではないかと。
「そう……かもしれませんね……」
シエラルクの中でストンと付き物が落ちたような気がした。
言葉を代えれば、肩の荷が下りたというのだろうか。
もう頑張らなくてもいいのだ。ヨハンが自分を支えてくれる。そう思うだけで心強いと思えた。
「ヨハン殿」
「はい」
「改めてあなたの仲間になることを許してほしい。
私が代表して精霊族はあなたと対等の友人になりたい」
シエラルクの言葉にヨハンが手を差し出す。
「こちらこそよろしくお願いします」
差し出した手をシエラルクがとり、その上にゴルドナのゴツイ掌が乗せられる。
「主ならば信用できる。これから共に歩んでいこう」
ゴルドナの言葉に、後ろに控えていたココナが目を伏せる。
彼女も協力してくれていたが、思うこともあったのだろう。
「では今後の方針を話し合っていきましょうか?」
協力関係が結べたので、国境からゴブリンは撤収させて、国境の町はこのままドワーフが引き継ぐことになった。ドワーフが住んでいた町はノームへ。
エルフは森の管理を続けることになり、すべてを精霊族に引き渡すことが決まった。こうして、八魔将シーラ・シエラルクとの戦いに決着をつけることができた。
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