第102話 精霊領奪還 終

「知らない天井だ」


異世界的テンプレを体験しながら、目を覚ますとベッドの上だった。

どうやら無事に生還できたらしい。

ジャイガントの攻防を思い出して、恐怖が蘇ってくる。

それでも俺は何とか生き残れたんた。


「目を覚まされましたか?」


泣いたのだろうか?リンの顔には涙の後があった。心配そうな顔をしている。

治癒魔法をかけてくれたのだろう。体の痛みはない。

それでも、体が重だるい。魔力枯渇の症状だ。

この感覚も久しぶりなので懐かしい。


「俺はどれくらい眠っていたんだ?それに、ここは?」

「一つ一つ説明してまいります」


目を覚ましたことを喜んでくれているのだろう。

リンは優しく微笑み、一滴の涙を流した。


「すまなかった」

「いえ、ヨハン様が無事で本当によかったです。

それに謝罪の言葉などいりません。私からはお礼を言わせてください。

ヨハン様がいたからこそ私達は死なずに済んだのです。ありがとうございます」


リンはヨハンとジャイガントが戦っているのを知っていた。

地表が変わるほどの戦いなのだ。国境の街にいる者で気づかなかった者はいない。


そして、リンは二人が戦った場所を見てきたのだ。二匹の化け物が暴れた後を。

大地は割け、巨大な穴が出来、岩山で有った場所は更地となり、この星の物ではない鉱物が散乱しているあの光景を。

 

ヨハンがどれほどの化物を相手に戦い傷ついたのかリンは知っている。


「そうか、なんとかなったか」

「はい。ヨハン様が眠られて三日が経っております」

「三日……そんなに眠っていたのか」


大きく息を吐く。体のあちこちが痛いような錯覚が起きる。

身体はどこも痛くない。

それでもジャイアントから受けた傷は今までの、どんな戦いよりも激しく過酷なモノだった。生き残れたのが不思議なほどであった。


「現在、国境の街は制圧が完了しています。見張りにはゴブリン兵を配置しています。すでにサク殿、ジェルミー殿にも報告を済ませて、サク殿からいくつか報告が上がってきています」

「聞こう」


ベッドで体を起こす。魔力枯渇による倦怠感で、まだ身体を起こすのもしんどい。

しかし、大事な報告を寝たまま聞く気にもなれなかった。


「まず、王国軍第二軍団が壊滅状態で敗戦しました」

「巨人の増援があったからか?」

「はい。それもありますが。黒騎士だけでなく、闇法師が参戦してきたことで、ゾンビや骸骨兵など不死のモンスターたちが戦場に出してきました。

そのせいで、倒したと思った敵から襲われ、死んだ仲間が敵になり、時間と共に第二軍は消耗していったそうです」


第二軍の将であるアンダーソンも、アンデット系モンスターが昼間から出て来るとは思わなかったことだろう。

光魔法や炎魔法でゾンビは焼き払うことができる。

しかし、骸骨兵は元々骨人族と呼ばれる指揮官が指揮をとっている。

そいつを倒さなければ死体から指揮下の兵を増やして増幅し続ける。


「第三軍はどうしていたんだ?」

「巨人族が第二軍を奇襲することがわかっておりましたので、巨人族の追跡を行い戦闘に入ったようです」


巨人の相手をしていて、第二軍の救援に間に合わなかったのか。

ランスがいれば状況も違っていたかもしれないが仕方ないな。


「最後になりますが、精霊領は我々が占拠することができました。

それにともないシーラ・シエラルク様と、ゴルドナ様がこちらに味方すると首を縦に振ってくださりました」


リンとジェルミーが上手く説得してくれたのだろう。ありがたいことだ。


「そうか……よかった」


やっと安心することができた。

倒れたことで、シーラやゴルドナが兵を挙げて戦闘に入れば、ガルガンディアはすぐに蹂躙されていたことだろう。

しかし、そうならずに、こちらに味方してくれるのはありがたい。


「では、さっすくシーラ殿とゴルドナ殿をこちらに呼んでほしい」

「そう言われると思い。すでに手配しております」

「そうか、他に報告はあるか?」

「サク殿からは以上です」

「そうか、モグはどうしている?」

「すでにノーム族は国境の街に入っております。

これでノーム、ゴブリン、ドワーフの三つの種族が国境の街に集結したことになります」

「そうか。ドワーフは?ココナはどこにいる?」

「ドワーフ達は破壊された家の修復を率先して手伝ってくれています。

またココナ様はその陣頭指揮をとられています」


不測の事態が起きたことで、リンやココナに国境の街制圧を任せてしまった。

彼女たちは上手くやってくれたようだ。


「そうか、二人には苦労をかけたな」

「何をおっしゃいます。ヨハン様が一番大変なことをしてくださったのです。

先ほども申し上げた通り、感謝の言葉しか出てきません。本当にありがとうございました」


リンは先程よりも深々と頭を下げた。

恐縮そうに頭を下げるリンに対して、そっと頭に手を置いた。

髪を梳くように優しく撫で、それをゆっくり繰り返す。


「あっあの、ヨハン様」


リンが恥ずかしそうな声を出したので頭から手を退かせる。リンは恥ずかしそうな顔を真っ赤にしていた。


「まぁ、なんだ。一仕事終えたわけだしな」


力の入らない身体を倒すようにリンへ近づく。

顔を赤くしたまま固まっていたリンの肩に手を置き、顔を近づけていく。

良い雰囲気が作れたと思う。自然な流れでヨハンはリンとキスを……


コンコン


「リン殿、ヨハン様の容態はどう?」


突然のノックに二人は飛び退いた。声の主はココナのようだ。


「ココナ殿、ヨハン様は目を覚まされておられます」

「そう、シエラルク様、父様が到着されました」


眠っている間に様々なことが動いていたのだろう。

優秀な部下たちだと改めてありがたいと思う。


「会おう」


ココナの報告に対して、ヨハンが返事をする。


「すまないが、ここに案内してくれるか?」

「わかった」


ココナが返事を聞いて去って行くのが気配でわかった。

先程までのムードは台無しだと互いに笑い合った。

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