第90話 閑話 勇者ランス
名誉騎士ランスは帝国からハイエルフの王族を救い出した。
救い出したハイエルフは王国への亡命を成功させた。
ランスが救い出したハイエルフには、他にもいくつか分かれた集落が存在するため、ランスが救うことができたのは一部だとランスは後から知ることになった。
「本当についてくるのか?」
「ええ、私も帝国と戦いたいのです」
ランスたちの部隊には王国に亡命して、そのままランスの隊に任意で参加しているハイエルフの王女様がいた。
エルフ王国第一王女シェリル・シルフェネスが部隊を率いて、ランスの隊に参加したのだ。
「そうか、なら頼りにさせてもらう。エルフの精霊魔法と弓の腕は頼りになるからな」
ランスは心強い味方を得たことを喜んだ。現在ランスは第一軍総大将である。
元帥閣下の命令により、第三軍の援軍に来ていた。
第一軍本隊は半分が王都の守護を、もう半分はランスのように遊撃隊や調査達として様々な地域に赴いている。
「敵は巨人族、生半可な相手じゃないぞ」
砦からでも見える巨大な姿にランスの部隊は息を飲む。
それはハイエルフたちも同じで、相手の脅威を理解しているのだ。
「勝算はあるのですか?」
「ない。出たとこ勝負だ。こんなときにアイツがいてくれたら助かるんだけどな」
「アイツ?」
ランスの呟きにシェリルが反応する。
「俺の幼馴染でヨハンっていう奴がいるんだ。アイツはバカだけどさ。
こういうピンチのときに変なことを思いつくのが上手い奴なんだ」
「頼りにされているのですね」
「ああ。だが、アイツも今は別の場所で頑張っているはずだ。俺も負けていられない」
闘志を燃やすランスの姿は巨人を前にしているとは思えない勇猛さを持っている。
「行きましょう。ランス」
ランス、シェリル、ルッツが率いる三部隊に、サクラが指揮する暗部が合流する。
「勝手はダメ、偵察は私の仕事」
「サクラ殿!しかし……」
「いいから、任せて」
サクラの部隊はランスの部隊を追い越して、森の中へと姿を消していく。
「ランス、今の方は?」
「彼女はミリューゼ様直属部隊六羽の一人でサクラさんだ。俺よりもずっと偉い人なんだ。今回は俺の補佐についてくれるらしくて来てもらった。
諜報部隊の部隊長だから、巨人の情報を持って帰ってきてくれるはずだ。
彼女の情報は戦場で役に立つ。もっとも危険な場所に身を投じなければならな役目をしてるなんて偉いよな」
サクラはランスのためにその身を危険にさらそうとしてくれている。
「彼女にばかり負担をかけられないぞ。ルッツ!用意はいいな?」
「おうよ。皆でやれば恐くないだな」
「そうだ。デカい奴は格好の的だと教えてやろう」
ランスは巨人に通用する武器としてロープと強矢を用意した。
十人小隊を作り、強矢を放つ準備に入る。
ハイエルフたちには標準を合わせる手伝いをしてもらう。
弓の得意な彼らがいれば命中率が一般兵よりも圧倒的に高いはずだ。
「俺達が巨人を退けるぞ」
ルッツとランス、さらにサクラとシェリル。
それぞれの部隊を合して合計二千の兵が百人の巨人に挑もうとしていた。
「マジか、森を物ともせず、使づいてきやがる。近くなってくるとデカさがわかるな」
ルッツの声にランスも息を飲む。
大木と思える木々よりも、さらに頭一つ高い位置にいる巨人たち。
脅威を感じるなと言う方が無理がある。
「木々に隠れているが小さい巨人もいるぞ」
伝令の報告にランスが思考を巡らせる。
どれほどの巨人が隠れているかわからないランスの下へサクラが姿を現した。
「向こうに隠れながら戦える丁度いい場所がある」
平原ではなく森を指差すサクラ。ランスは運河のことを思い出す。
敵を足止めするのに川が使えないだろうか。
「サクラさん、ありがとうございます」
「別に……仕事をしてるだけ」
サクラは照れたような顔で、ランスを誘導するように歩き出す。
ランスを気遣っているのが良くわかる。サクラの様子にランスも照れてしまう。
「ランス!デレデレしすぎ」
シェリルに脇を突かれて悶絶する。
「シェリル?」
「ふん、知らない」
あまり感情を表に出さないハイエルフとは思えない感情表現に。
ランスが唖然としてしまう。そんなランスの頭をルッツが叩いた。
「イッテ!」
「羨ましい奴」
ルッツはそれだけ言うと、ランスの前を歩いていく。
部隊の仲間達もランスを見て笑う者や、羨ましそうに睨み付ける者など様々な視線を向けて通り過ぎた。
そんな部隊の雰囲気が嬉しくて、今から化け物退治をするなど微塵も感じられない。相手に命のやり取りをするとは思えない雰囲気に、気持ちがリラックスしていく。
「巨人が相手だ!油断するなよ」
それは誰に向けて言ったのか、ランスは先頭まで歩く。
ランスたちが場所を移動している間も強矢が巨人に向けられている。
「いくぞ!」
木々に隠れる巨人たちに、ランスの部隊はロープで巨人の足を取る。
倒れた巨人を数人で一斉に攻撃する。
獅子奮迅の活躍を見せるランスの背中を追う兵士たち。
巨人に怯えていた兵士達もランスの姿に勇気をもらう。
「我らが隊長は勇者かもしれないな。あんな化け物に挑んでいかれるのだ」
誰かが言った。
その言葉は部隊を奮い立たせ、また彼の側では美しい女性たちが舞い踊る。
黒装束に身を包んだサクラは地味な衣装とは打って変わって、派手な技で敵を攪乱させる。
ランスを守るように弓を放つ金髪美女が、精霊魔法で巨人を惑わせる。
全身を白いフルメタルアーマーに身を包んだ騎士はランスと背中を預け合う。
「我らには勇者と三人の女神がついているな」
何も語ぬ勇者の背中は、兵士達の心を鼓舞する。
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あとがき
次話より本編に戻ります。
どうぞよろしくお願いします('◇')ゞ
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