第86話 閑話 アリルーア草原の戦い 1

前書き


少し閑話を挟んでから第四章の後半戦に入ります。

楽しんで頂ければ幸いです(*'ω'*)


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アリルーア草原


王国第二軍を率いる将軍ミゲール・アンダーソン侯爵。

帝国八魔将の黒騎士がアリルーア草原に対面して陣を引いていた。


ガルガンティア領よりも帝国や獣人王国に近い元共和国領土を下賜されたミゲールは、国境近くにあるアリルーア草原を戦場と定めた。


王国最大の軍と帝国軍の戦いが始まろうとしていた。


ミゲール・アンダーソンは騎士としての腕前はもちろんのこと。

王国内でも三指に入る策士であった。

槍を持たせれば敵なし。頭を使えば戦略に敵なし。

そう呼ばれる戦の申し子であった。


「戦況を説明せよ」

「はっ、黒騎士が指揮する帝国軍5万。黒騎士は元々共和国の傭兵をしていた者のようです」

「そうか、名のある者はいるか?」

「傭兵時代に名前を馳せたものであれば、氷結魔法のヒュドラ、爆弾頭のバクジー、殺戮婦人のキラーでしょうか?」

「そいつらは要注意人物に入れておけ、俺は籠城などという策は取らん」

「ではっ、どうするので?」

「第二軍の将たちを集めろ。祭の始まりだ」



ミゲールの横で報告を伝えていたのは、第二軍の副総大将であり、ミゲールの副官を務めるライスだった。


「かしこまりました」


ライスの号令により、第二軍の将軍と軍師が集められる。

総勢20人もいる第二軍の将たちは元々家柄が由緒正しき貴族たちばかりだ。

彼らが集まるだけで本陣が華やぐ。


「よくぞ集まってくれた。敵の数は5万。

もしかすればまだまだ増援されるかもしれない。

そのため我々も総力戦を強い得られる。心してかかってほしい」


気負いもなく、戦をするとは思えないほど落ち着いたミゲールの声は、集まった者たちにやる気を与える。


「ミゲール様さえ居れば私達は安心して戦いに赴ける。なぜならばそこには勝利が約束されているのだからな」


ライスの言葉に将軍達も楽しみだと笑い合う。


第二軍は三つある軍の中で一番人工が多い。

貴族である彼等を頂点にして、その小間使いや下働きも共に第二軍に配属される。

派閥となる小貴族も混ざっているの私兵がどうしても増える。

私兵が手柄を上げれば、それは貴族である彼らの手柄となる。


「そうだ。今回も君達に勝利と、勲章をプレゼントしよう。

今回のターゲットは四人だ。名を上げた傭兵たちが指揮していることだろう。

また、黒騎士の首を取った者は勲章以外に王へ直訴して褒賞を与えることも約束しよう」


貴族は名誉と褒美のためにここにいる。

常勝無敗のミゲールについていけば勝利は約束されたようなものだ。

将軍になったばかりの若い貴族などは勲章がほしくて目をギラギラと輝かせる。


彼らは貴族としての教養と同時に様々な訓練を受けて育っている。

そんな彼らはスリルと血が騒ぐような躍動を楽しみにしている節があった。

ミゲールはそういう若者たちを焚きつけるのが上手い。


「ミゲール様!一番槍はこのチャハーンへ!」

「いやいや、このパッスタへ」

「何を言っている。お前達よりも俺の方が向いている決まっているではないか。

我こそが一番槍に相応しい。そうですよねミゲール様」


体格のいい若手貴族が二人を押し退けてミゲールに直訴する。


「トッカツか、確かに貴様の武力は我が隊でも指折りだ。一番槍任せても良いか?」

「もちろんでございます」


二メートルを超える大男に若手二人は怖気づく。

トッカツは膝を突いてミゲールからの命令を受けた。

膝をついていても、目線はほとんど変わらないというほどの巨体はミゲール自慢の一番槍である。


「ならば、トッカツに一番槍を任せよう。チャハーンとパッスタはトッカツの左右を固めよ」

「「はっ!」」


二人は不満をもらすことなく、ミゲールの言葉を受け入れた。

トッカツから放たれる威圧に認めてのことだった。

ミゲールからの命令であれば逆らう意味を持たない。

それほどまでにここに集まった貴族たちは、ミゲールのことを信頼している。


「ならば、見事一番槍果たして見せよ」

「承知!」


トッカツは任を受け、すぐさま会議室を後にした。

チャハーンとパッスタもそれに続く。第二軍は現在4万弱の兵を有している。

そのほとんどが貴族の私兵ではあるが、王国へ褒賞をもらうことで貴族として土地や金貨を得ることができるのだ。

そうすれば格が上がり、他者を見下すことができる。

貴族はプライドが高く、格を競う人種なのだ。


「若者ばかりで大丈夫ですかな?」


この場で一番の高齢者であり、ミゲールの懐刀と呼ばれる。

ボルシチが声を上げる。

幾度も続いた共和国の戦いを第一軍総大将である元帥と共に戦い抜いた男なのだ。

元々第二軍の総大将であったが、歳を理由にミゲールにその席を譲った。

歳と言ってもその知力と戦闘能力は今も健在であり、またミゲールの師でもあるので、ミゲールとしては心強い相談役と言える。


「相手の出方を見るのには丁度いいでしょう。

ですが、それだけで終わらせる気はありませんよ。ここは広い草原です。

両軍の総戦力が激突してもできる。思い切りやらせてもらいますよ」


戦いを楽しむミゲールをボルシチも頼もしそうに見ていた。


「ふむ。前回は攻防戦でしたが、今回は防衛線。余裕と言うところですかな?」

「いや、相手の方が数が多い以上は油断はしない。だが、攻撃を仕掛ける者にはどうしても隙ができる。それを攻めさせていただく」

「ふむ。合格ですな」


ボルシチはそれ以上口を開くことはなかった。


「では、マーボー、ホー」


ミゲールは二人の貴族の名前を呼ぶ。


「二人は部隊を率いて、敵の背後に回り、輜重兵を狙え」

「なるほど、食料を奪うのですな」

「腹が減って戦える者はいないですからな」


戦の常套手段ではあるが、最も効果的な手段とも言える。


「かしこまりました」


二人の軍師は、それぞれの私兵を連れて席を立った。

会議に集まった者が半分ほどになったところで、それぞれの持ち場の維持と敵の視察を申し付けて解散となった。


王国と帝国による最多戦闘が始まろうとしていた。

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