第87話 閑話 アリルーア草原の戦い 2

一番槍のトッカツは私兵を率いて草原へと躍り出る。

肩に担いだ矛は、一薙ぎで十人の帝国兵を吹き飛ばした。

目立つトッカツの部隊を見つけた帝国軍が包囲するため集まり始める。


「やぁやぁやぁ!我こそは王国随一の武勇を誇るトッカツである。

我と戦う勇者はおらぬか!王国の力に恐れを抱くならばそれも仕方なし」


トッカツの挑発に応える部隊は、傭兵部隊を預かる爆弾頭のバクジーである。


「けけけ、自ら名乗って死に来る騎士など笑いのネタでしかないな。バカかお前は」


巨大なモーニングスターを片手で担ぐ爆弾頭のバクジーに笑われる。

トッカツが自分に負けない武器を持つ男の挑発を受け止める。


「騎士を笑う者は貴様か、ならば貴様が私の相手をするか?」

「いいぜ。ご自慢の矛を見せてみろよ」


重いモーニングスターをバグジーは軽々と振り回す。

鎖に繋がれた鉄球が高速でトッカツに襲い掛かった。


「よかろう、一刀のもと斬り伏せてくれよう」


トッカツが馬の腹を蹴り、鉄球を回避しながら疾走を開始する。

互いの隊長同士の戦いに、帝国側はやんややんやと盛り上がり出した。

傭兵の声に負けぬよう。トッカツの私兵たちも声援を上げ始める。


「御託は良いからかかってこいよ」


一騎打ちを開始した両者の周りでは、チャハーンとパッスタが露払いの戦闘を繰り広げていた。

互いに数は一万、中央で繰り広げている一騎打ちと打って変わり、こちらは混戦の最中、両貴族の働きにより戦いは互角よりもやや王国優勢に運べていた。


「ゆくぞ!」

「おうよ!」


トッカツの疾走を真正面から爆弾頭のバクジーが受け止める。

反撃の巨大な鉄球がトッカツめがけて振り下ろされ、地面が地響き上げたことで馬が身を引く。


「小癪な」

「馬などに頼るからそうなるのよ」


爆弾頭のバクジーによる挑発にのり、トッカツが馬から降りる。

騎士が馬から降りれば、その重たい鎧に足をとられ遅くなるとバグジーは考えていた。

しかし、トッカツはその程度で衰えるほど、弱い騎士ではなかった。

馬から降りるとバグジーへ向かい駆け出す。

重たい鎧を着ているとは思えない速度に、モーニングスター以外は軽装のバグジーは大いに慌てて、鉄球を振りかぶる。


「遅い!」


鉄球が振り下ろされるよりも先に、トッカツの矛がバグジーの身体を真っ二つに引き裂いた。


「グハッ!」

「バグジー様がやられたぞ!」


バグジーの取り巻きが大きな声を張り上げる。


「敵将爆弾頭のバクジー、トッカツが討ち取ったり!」


爆弾頭のバクジーに剣を突き刺して、トッカツが名乗りを上げる。

王国側の兵士は歓声を上げ、トッカツの勝利に呼応するように勢いを増していく。


「このまま一気に黒騎士の首、もらい受けるぞ!」


トッカツが叫ぶのと同時に王国兵が宙を舞う。

パッスタが守護していた左翼から人が舞うように飛んでくる。


「何事だ!」

「敵襲です」

「何っ?どういうことだ?」

「黒馬が我が軍を突っ切ってきます」


急いで馬に跨り、人が舞う方を見る。

そこには黒馬に乗り、黒い鎧に身を包んだ黒騎士が単身で突っ込んできていた。


「バカな!これだけの兵の中を一騎だと」


トッカツが見たときにはパッスタが迎え撃つところだった。

パッスタは細身の体を生かしたしなやかな両剣使いだ。

馬の扱いも巧みで両方に剣を持ったまま馬を足だけで操ることができる。


「我こそは王国随一の双剣使い。黒騎士殿とお見受けいたす。尋常に我と勝負を!」

「邪魔だ」


パッスタが名乗りを終えると同時に黒騎士がパッスタの横を通りぬける。

黒騎士の動きに付いていけなかったパッスタは、自身が死んだこともわからぬうちに胴と頭を切り離された。


「バクジーをやった者よ。我と死合え!我こそが八魔将が一人。黒騎士アンリである」


黒騎士はトッカツの下へ向かいながら叫び声を上げる。

それに呼応するように、トッカツも黒騎士に向かって馬を走らせる。

その身だけで二メートル近いトッカツが馬に乗れば、三メートル以上の大男となる。

しかし、トッカツも昔から大きかったわけではない。

戦闘訓練を続けていく内に強く大きくなった。

そのため小兵時代は槍に明け暮れ、槍から矛へと武器を持ち替えても自信を鍛えること、武を磨くことを生きがいとしていた。


「我こそが、バクジーを討ったトッカツである!」


トッカツの名乗りに応じるように黒騎士が一直線に戦場を翔る。


「王国の将トッカツ!その首もらい受ける」

「貴様を倒せば我々王国の勝ちだ」


トッカツは巨大な体と長い腕を振り回して矛を振り回す。

リーチはトッカツの方が有利であり、勢いに任せて振るう矛の威力は王国随一である。黒騎士をもってしても容易に近づくことを許さない。


「振り回すだけが騎士か?」

「笑わせるな。貴様の勢いを止めたに過ぎんわ」


戦場を一直線に向かってきた黒騎士の勢いを止めるための牽制。


「見よ。我が矛を。渾身の一撃」


トッカツが矛を肩に担いで勢いをつける。

馬の突進力とトッカツの踏み込む力が重なり人馬一体となって黒騎士へ襲いかかる。


「笑わせる。それが武だと?」


只々力任せに振り下ろされる矛は重みも加わり、恐ろしい速度を生み出す。

バグジーのモーニングスターを高速と表現するならば、トッカツの矛は音速。

威力もスピードに比例するように増している。

トッカツの必殺の一撃が黒騎士へと振り下ろされる。


「当たらなければ意味がないな。スマッシュフレア」


黒騎士が持つ黒曜剣は炎を纏って、必殺を放ったトッカツに連撃を繰り出す。


「笑止!小細工が通じると思うな!」


連撃を一振りで薙ぎ払う。


「ふむ。王国の将トッカツ。やるな」

「黒騎士よ。貴様の首もらい受けるぞ」


トッカツは馬を反転させる。そのまま一回転するように矛が横薙ぎに振られる。


「大回転扇舞」


トッカツの大技が馬ごと黒騎士の身を襲う。


「面白い技だが、終わりだ」


黒騎士は黒馬を踏み台に、空中に跳びあがる。黒騎士と馬の間を矛が通り過ぎる。

トッカツは黒騎士の動きについていく。回転を横から縦へと変化させる。


「黒流星」


黒騎士は足元に炎を出現させて空中で跳んだ。

黒馬がトッカツの馬を通り過ぎ、黒騎士が着地する。


「グー!」


トッカツは矛を握っていた左腕が肩から無くなっていた。

馬が倒れ立つこともできない。


「キラー!」


黒騎士の叫びに応えるように、音もなく現れた金髪美女がトッカツの首を切る。


「終わりました」

「次だ!」


黒騎士はトッカツとの戦いに後を濁さず、チャハーンの首を取りいく。

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