第84話 ガルガンディア防衛 終

モグの言葉はヨハンにとっては褒め言葉に思えた。

エグイや卑怯は、策が上手く行った証拠である。

美しいエルフを捕まえることだけに全てを注がれた作戦。

それがヨハンとサクが考えた。勝つための策なのだから。

他のことを気にしている余裕などなかった。

被害を最小に抑え、敵に有利な地盤を固めさせる前に決着をつけるためにはこれしかなかった。


「それでどうするんだ?」

「モモのこともあるからな。ワシはあんさんに付くで」

「モモは本当にお前の妹か?」

「失礼なこといいなや。間違いなくワシの妹や。そうやないと信用されへんおもて。モモを差し出したんや」


モグの必死さに笑顔を浮かべる。


「そうか。では、八魔将シエラルク殿、穴倉で申し訳ないが。

我が城までご同行願えますか?」

「仕方ないわね」


モグの先導の下、シエラルクを穴の中に入れる。


「もちろんついてきた場合は容赦なくシエラルク殿に危害を加える。

殺すことはしないが、傷をつけられたくはないだろう?

彼女はあんたたちにとって大切な人なんだからな?」


ダークエルフの戦士は、悔しそうな顔でヨハンを睨み付けた。


「丁重に頼む」

「もちろんだ」


ダークエルフの戦士はシエラルクを心配して頭を下げた。

他のダークエルフたちも頭を下げる。

その場を去ると、ダークエルフたちが手分けして手当てを始める声が聞こえてきた。

爆風により、傷ついた者が大勢いることだろう。

モグの先導の下、ガルガンディア要塞へ戻った。

穴から出ると、オークに肩を借りたゴルドナが待っていた。


「シエラルク!」

「ゴルドナ……」

「すまぬ」

「いや、あなたが捕まったときにこうなるのではないかと思っていた」


二人だけに分かる何かがあるのだろう。


「リン!ゴルドナ殿とシエラルク殿を客間に案内してくれ。シエラルク殿の鎖は外さず、ゴルドナ殿の腕にもこの腕輪をつけろ」


シエラルクは大量の魔力を持っていたので、鎖でなければ抑えることはできないが、ゴルドナの魔力はシエラルクほど多くないので、鎖の切れ端で作った。腕輪で十分だろう。


「はい。では、こちらに」


リンの先導でドワーフとエルフの大将が連れられて行く。


「モグ、頼みがある」

「なんや……」


腕を組んで不貞腐れた顔をしている。


「帝国に捕まっている。もしくは領土をもらっている全精霊族の情報を集めてほしい。もちろん、連れ出せるならばこちらに連れて来てくれないか?」

「そないなこと!」


モグはサングラスを外して、アーモンドアイの瞳をぱちぱちさせる。

瞳はモモにそっくりな顔をしている。

モグラでも目はあるのだなと思いながら、モグの瞳を見つめた。


「頼めるな?」

「あんさんは人使いが荒いな」

「それは仕方ない。他に頼める奴がいないんだ。あと、ノーム族の大将がいるなら話がしたい」

「へいへい。なんでもワシに言いなや。自分でそれぐらいしいや」

「お前を信頼してるからな」

「カー!あんさんホンマ嫌なお人やな」


モグはそれだけいうと穴の中に消えて行った。

精霊族と言っても、今回ここに来ていたのは、ノーム族、エルフ族、ドワーフ族、シルフィー族の四種族だけだった。

シルフィー族をヨハンは見ていない。

臆病な性格をしているシルフィーは、身体が小さく妖精のような存在らしい。

今回はエルフとドワーフの伝令や見張りの仕事をしており、穴で移動をしていたヨハンが見る機会がなかったのも空を飛んで移動するからだった。


「チン、ここは頼む。ガンツとミリーにも伝令を送っておいてくれ。会議室に集合だとな」

「わかった」


ジェルミーとサクが待つ執務室に行く前に自室へと戻った。

戦いに次ぐ戦いで疲労も溜まっていた。砂埃や自分で流した血もついている。

多少の被害やケガ人は出たが、最小限で戦いを抑えられたと思う。

これからのことを考えなければならない。

色々考えているうちにベッドの中にダイブしていた。

意識を取り戻したときには、リンに頭を撫でられていた。


「リン?」

「おはようございます」

「俺はどれくらい寝てた?」

「半刻ほどだと思います」

「皆を待たせてたか?」

「サクさんが休ませておくようにと。捕虜の方々も客間で休んでおられます」

「そうか、すまない」

「いえ、お疲れ様でした。ヨハン様が単身で敵首領を捕まえて下さったのでガルガンディアの民には被害がありません」


リンは慈しむようにヨハンの頭を撫で続けていた。


「俺が出来たことなんて限られているさ。ミリー、ガンツが城を護ってくれていなかったら安心して戦えなかった。

チンやトンがゴブリンを使って正しい情報を持ってきてくれなかったら、敵の位置は把握できなかった。皆が支えてくれたからなんとかなっただけだ」


目覚めたことで疲れていた脳が回り始めて整理出来た。

それと同時に勝利を治めることができたのだと、精神的な安堵が心を満たしていく。


「はい。本当にお疲れ様です」

「リンもお疲れ様」


身体を起こして、リンの頭を撫でてやる。

14歳になるリンは、少女から女性に代わっていくように日々成長している。

たまに見せる女性らしい仕草にドキッとさせられることがある。


「いつの間にかリンも大人っぽくなったんだな」

「まだまだ成長期です」


母親に似てリンは美人になること間違いなしだ。


「そうだな。俺もだ」

「はい」


リンは嬉しそうに、撫でられる手に身を預ける。


「お取込み中、申し訳ありません。そろそろ会議を始めたいと思いますので。皆さんを集めてもよろしいでしょうか?」


いつの間に立っていたのか、扉のところにサクがいた。


「サク!いや、これは!」

「別にお二人がどうなろうと知りません。

ですが、まだ戦時であることをお忘れなく。皆さんを呼んでまいります」


弁明を口にする前に、サクはさっさと部屋を出ていってしまった。


「サクさん怒ってましたね」

「ああ……」

「ぷっはははは」

「はははは」


サクの態度に笑いが込み上げて来て、どちらともなく笑っていた。

ガルガンディア防衛は進軍の知らせから一週間ほどで帝国敵将を捕虜にするという形で決着がついた。

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