第82話 ガルガンディア防衛 3
伏兵を動かしたことで、ダークエルフの軍が瓦解する。
元々数が少ないダークエルフは、他の精霊族を交えた混合軍なのだ。
サクはそこに付け入るスキがあると策を作った。
伏兵の襲撃により、ダークエルフたちから悲鳴が聞こえてくる。
ヨハンは作戦が上手く行ったことに、気分を高揚させる。
しかし、すぐに気分を変えて勝ってはいないと気を引き締めた。
敵の大将を討ち取るか、捕まえるまでは戦いは続くのだ。
「卑怯な!」
「戦場において卑怯などと言う言葉はない」
弓を放ったダークエルフの戦士に対して、ハンチャが反論する。
それはゴルドナの言葉であり、ドワーフ共通の認識のようだ。
奇襲をかけたお陰で、ドワーフ達の優勢な状況が続いている。
単純に数で言えば向こうが四万。こちらが三万なので不利に見える。
しかし、精霊族は種族の違う者たちが混在しているので、上手く連携が取れない。
こちらはドワーフを主として、ゴブリンが交じっているだけなので戦闘はドワーフに空かせてゴブリンには援護や止めを任せた。
作業を単純化させることで、連携に近い戦闘が行えている。
ドワーフは精霊族の中でも戦闘が一番強い。
こちらに有利な戦いになるなど目に見えている。
「中央の部隊も突撃をかけて、一気に決着をつけろ」
ヨハンが命令を出せば、ハンチャもそれに従う。
混在する戦場に飛び込んでいく。ドワーフの勝利を確実なものにする。
「ドワーフの誇りを見せよ!いけー!!!」
ハンチャの叫びは、ドワーフだけでなくゴブリンにも伝わって鼓舞される。
「次の段階に入るか」
相手にワザと負けなくても、このまま押し切れるのであれば問題ない。
ヨハンは戦いの決着を見ることなくハンチャの下を離れた。
移動手段である穴の中に戻ると、乱戦による大勢の足音が響いていた。
地上では物凄い戦いが繰り広げられていることが想像できる。
「モグ、いるか?」
「おるで。やっと来たんかいな」
「悪いな。思った以上にドワーフの動きが良くて、夢中になってた」
「そら、恐いこって」
「恐い?何が恐いんだ?」
「あんさんはアホかいな?事が上手くいっているときほど警戒しろって言葉を知らんのか?」
モグの言葉に自分が楽観視していることが理解できた。
「実際、上手くいっているじゃないか?」
「あんさん……あんさん意外と大将失格かもな」
「なんだよ。どういう意味だよ」
「なら、教えたろか?ワシの上にあんのはなんや」
上を見上げると、トンネルで造られた土が固められていた。
「土だな」
「はぁ~そんなん聞いてるんとちゃうわ」
「なんなんだよ。ハッキリ言えよ」
「ええか?地上にはあのお方の霧が充満しとるんや、いくら戦闘でドワーフが優勢でもな」
モグの言葉にある考えに思い至る。
「それって」
「そうや、やっと理解したんかいな。言うたったやろ。あの方はそないに甘くないってな」
先程まで響いていた乱戦による地響きがいつの間にか止んでいた。
「これは!」
「あんさんはここまで来るんやなかったな。大将のくせに迂闊すぎるで」
「モグ!」
モグの名前を叫ぶのと同時に、地上へ繋がる穴が開いた。
そこには穴を除く顔が見えた。
この世の者とは思えぬほど美しく整ったダークエルフの女性がそこにいた。
「初めまして、ガルガンディアの大将さん。
私が八魔将が一人、ダークエルフのシーラ・シエラルクよ」
帝国八魔将軍、精霊族の頂点、シェーラが敵と呼び。
共和国の戦争を終わらせたダークエルフが女神がそこにいた。
心を奪われる強烈な美しさに一瞬言葉を失う。
そして、理解することができた。自分はハメられていたのだと。
「俺はどうなる?」
「そうね。まだまだ坊やみたいだね。素直にガルガンディアを引き渡してくれれば、命までは取らないでいてあげるわ。でも、少しでも抵抗するなら全員殺すわ」
穴から見えるダークエルフの瞳は、金色に輝き怪しく光っていた。
圧倒的な強者だけが発するオーラのようなモノを彼女は発していた。
「コェ~」
「だからいったやろ。あの方は恐ろしいて」
モグは穴の中で、やれやれと溜息を吐く。
「裏切ったのか?」
「裏切りちゃうで、ワシは元々こっち側の人間やからな」
「なら、俺の予想通りだな」
妹を差し出したモグは裏切る奴じゃないと思っていた。
だ・か・ら・こそ最初から仲間を裏切っていなかったのだ。
「もしも、俺の方が先に会ってたら裏切らなかったか?」
「そうやな。あんさんのことは嫌いやないよ。潔いところとかな」
「それは大間違いだけどな」
穴から這い出て地上に上がる。
地上には不思議なことに霧は消えており、ドワーフが倒れていた。
「彼等には眠ってもらったわ。全員に幻惑をかけるのは手間で面倒なのよ」
穴の中ではわからなかったが、少女のような声に凛とした立ち姿をしていた。
幼いのか老獪なのか、ヨハンでは経験値が足りなさ過ぎてわからない。
「自己紹介させていただきます。ガルガンディア地方領主、ヨハン・ガルガンディアです」
ヨハンは自己紹介して、お辞儀をした。
「礼儀正しい子ね」
用意された椅子に座ったダークエルフは足を組み替え、ヨハンを品定めするように視線を体へ這わせる。
「改めてお聞きします。モグの妹とゴルドナ殿を捕虜としています。俺と彼らの交換ではダメですか?」
「ダメね。あなたの価値はそれ以上だと私は判断しているもの」
シエラルクの言葉に、ヨハンは大きく息を吐く。
「なら仕方ないですね」
「何もさせないわよ」
一気に霧の濃度が上がり、ヨハンとシエラルクを包み込む。
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