第81話 ガルガンディア防衛 2
サクの策が実行に移されたことで、ガルガンディア要塞内は慌ただしく人が行き交う。シェーラとエルフによって護られている状況を早くなんとかしたい。
ガルガンディアに住む者だけでなく、王国の騎士も誇りにかけて作戦に取り組んでいた。
「出陣!」
「「「ウオォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」
ヨハンの号令にゴブリンやオークが雄叫びを上げる。
それは遠くにいるダークエルフにも届くような大きな声で叫んだ。
雄叫びに応じるように、ガルガンディア要塞の前で陣形を組んでいたドワーフが、森にあるゴブリンの集落へ向けて進軍を開始する。
「なっなにが起きたんや!」
ドワーフと共に陣を構えていたノーム族がドワーフの奇行に慌てふためく。
「オッチャン。逃げなアカンで!ドワーフ共が裏切った!」
叫んでいたノームに向かってモグが耳打ちする。
それは外のノームにも聞こえるほど大きな耳打ちを。
「なんでや!ゴルドナ殿がいたらそないなことならんやろ」
「そのゴルドナ殿が捕まってもうたんや」
「なんやて!」
モグはゴルドナが捕虜になった話を多くのノーム族へと話していった。
それと同時に主戦力であったドワーフ族一万が寝返ったことで、三千ほどしかいないノーム族は慌てふためく。
「そないなことしたら帝国におるもんはどないなるんや」
ノーム族の一言にモグは奥歯を噛み締めた。そうなのだ。
全ての者が家族全員で戦場に来ているわけではない。ピクニックではないのだ。
戦えない老人や、身重な女性を連れてくる奴などいない。
ノーム全員を掌握できないと言ったのもそこにあった。また、帝国の恐ろしさもそこにあった。
「そんなん知らんわ。アホなドワーフ共にでも聞けや」
ドワーフてと同じはずなのだ。全ての者が戦場に来ているわけではない。
それでも彼等は故郷にいる家族よりも、この場で戦う者達と、大将であるゴルドナを迷いなく選んだ。
「とりあえずは、このことはあの方に伝えなあかんな」
「そうや。頼んだで、この場はワシに任せて、ノーム族皆であの方の下まで戻ってや」
「ああ、みんなに伝えるわ」
ノーム族はモグの話を聞いて撤退命令を出した。
これにより、ドワーフと共に進軍してきたノーム族もガルガンディア要塞より去り、逆にドワーフ達の進軍が始まった。
「これでええんか?」
モグが作った穴の中で待っていたヨハンに声をかける。
「ああ、上出来だ」
「ワシは次の段階に入るで」
「ああ、俺もドワーフ達に指示を出しに行ってくる」
モグは穴を掘って先へと進んでいく。ヨハンは予めモグに掘ってもらった穴を使って、ドワーフの下へと向かう。
ドワーフの中に数名のゴブリン兵を紛れ込ませている。
ゴブリンの役目はあくまで、ドワーフの監視であり、戦闘を行うのはあくまでドワーフにやらせるように言って聞かせている。
「ハンチャ、状況はどうだ?」
予定していた穴からハンチャに話しかける。
ハンチャは指示を出す立場にあるので、後方でヨハンの指示を待っていた。
先頭はドワーフ族の若者二人に任せている。
ロリロリ幼女はゴルドナの孫娘らしく。
先頭を歩くだけでドワーフの指揮も高くなる。
男性の方は、孫娘の護衛で若いが戦士として優秀だという。
「今のところ、我々の裏切りは伝わっていないようだ。このまま進めばすぐに村に着くだろう」
「そうか、警戒していないなら奇襲と行こうか」
「よろしいのか?サク殿の策とは違うようだが」
サクの策は、ドワーフに派手に騒いでもらい。
敵と交戦後、ドワーフが逃げながら敵をおびき寄せるというものだった。
「まぁまずは小手調べで三千ほどで向こうさんを攻めてくれないか?口上を述べるだけでいい」
「口上?」
「そうだ。こう言ってくれ」
ヨハンはハンチャに口上の内容を告げた。
「ヨハン殿が大将だ。信じよう」
ハンチャが指示を出せば、右翼の三千がゴブリンの村へ向かって突撃をかけた。
村には門も無ければ柵もない。障害物になる物が何もないのだ。
ドワーフの突撃と共に多数の矢が降り注ぐ。
「貴様ら!何のつもりだ!」
村の方から叫び声が上げる。霧なので相手の姿は見えない。
それでも防衛を担当していたダークエルフが叫んだ。
「我々は王国へ亡命する。ダークエルフの者達よ。
貴様らは帝国へ恨みはないのか!我々は多くの仲間を殺された。
生まれ住んでいた土地を奪われた。誇りを、魂を破壊された。
お前達は悔しくないのか!」
ハンチャの叫びは、次第に気持ちがこもって叫びになる。
「我々は新たな地で、新たな主と共に、新たな生活を送る。主らも来ぬか?」
ドワーフの叫びは、ガルガンディアの森全てに響いているようにヨハンには聞こえてきた。心からの本音であり魂の叫びは、人の心を打つ。
「なっ何を言っておるか、帝国には自治権を貰っている。
お前達も家族が住んでいるではないか」
「何が自治権か、帝国の支配の下、帝国の望む物を作る。
そこに自由などない。誇りの無い仕事に何の意味がある。
お主らも同じ精霊族であるならば、自由を愛する民のはずだ。
精霊は何にも縛られない。誰かに支配されるモノではない。本当にそれでよいのか?」
ドワーフの叫びはダークエルフに反論を奪い去る。
「降伏するならば受け入れよう。抵抗するならば、ドワーフの戦士ハンチャが相手をする。選ぶがいい」
ドワーフの戦士たちの威圧に、精霊族の者達が慌てている声が聞こえてくる。
しかし、一本の矢が全ての言葉を消し去ってしまう。
矢は霧を切り裂くように風切音で「ピーーー!!!」と鳴り響いて、ハンチャの頬を掠めていく。
「次はないぞドワーフ。我はダークエルフの戦士。裏切り者のドワーフの言葉など聞くものか。我の矢に恐れをなして逃げるがいい」
ダークエルフの戦士を名乗った男は続けて矢を放つ。
それに続くように多数の矢が降り注いだ。
三千のドワーフ兵は盾を使い矢から身を護るが完全に動きを封じられてしまう。
「次の一手だ。左翼から奇襲をかけろ」
ヨハンは、隠していた伏兵三千を突入させる。
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