第80話 ガルガンディア防衛 1
新たな援軍を獲得することができたヨハンは、サクの下に赴き今後の方針を考える作戦会議を行うことにした。
その場には、リンとノーム族のモブ。ドワーフ族の戦士ハンチャが同席している。
「モグ、協力してくれるのはありがたい。だがノーム族はどこまでできる?」
「先にいうとくがな。ワシ一人だけや。ノーム族の全員は無理やで。
ゴルドナの旦那を助ける代わりにワシは協力する。ワシが協力する証拠のために妹を人質に出すんや。やけどな、ノーム族は個々で動いとる。
個人の意思で全員を動かすのは無理なんや」
ノーム族の習性みたいな話なのだろう。モグ一人でどこまで役にたつのか。
「妹はどこにいるんだ?」
モグラ顔の女性を想像して残念感を感じながら聞いてみる。
「ちょい待ち」
会議室から出ていったモグは5分もかからずに戻ってきた。
城門前に掘られた穴の中から小さな少女を連れて来た。
アーモンドアイの綺麗な瞳とモグラよりも人に近い特徴を持つ体をした可愛らし女の子だった。
モグと似ているのは、穴を掘るために発達した大きい手と長くしっかりとした爪が特徴的であった。
「こいつがワシの妹で、モモいいます」
「モモです」
ペコリと音がしそうなほど可愛らしいお辞儀にリンが溜息をもらす。
次の瞬間にはリンが叫んでいた。
「可愛いー!!!」
リンは止める間もなく、モモを抱き上げていた。
あまりにも素早い動きに誰も対応できなかった。
どうやら可愛い者に目が無いリンのお眼鏡にかなってしまったようだ。
「なんや!なんなんやこの姉ちゃん!」
モグはいきなり隣にいた妹をかっさわれて慌てふためく。
「モグ、妹に感謝しろよ。ノーム族のモグを仲間とする。俺の為に働け」
「どういうことや?」
「リンが気に入った。それだけだ」
「なんや、この姉さんあんさんのこれかいな」
モグが三本しかない爪の一本を立てる。
「うるさい。とりあえず、サクはうちの軍師だ。今後の話をするぞ」
「ガルガンディア領で軍務を任されています。サクです」
サクに協力者たちを紹介して、進行はヨハンが務める。
「ちなみに穴から霧がはいってくることはないのか?」
「それは大丈夫やで」
「根拠は?」
「根拠はあの方が言っとっわ。自分の出せる霧の範囲は、都市一つ分ぐらいやと。しかも一度出してしまえば消さなければ範囲を変えることはできんてな」
ガルガンディアを包み込めるほど広範囲に十分な脅威を感じるが、制約がいくつかあることがわかった。
ただ、ダークエルフが自分の力を全てモグに話しているとは思えない。
全てを鵜呑みにはできない
「なら念のために穴は塞いでおいてくれ」
「用心深い人やな」
「仲間を護るためだ」
「そう言われたらやるしかないな」
モグは文句を言いながらも、穴を塞ぎに行った。
戻ってきたとき、二人のドワーフを連れて上がってきた。
「ドワーフを連れてきていいとは言ってないぞ」
「そない言いなや。兄さんが魔法をぶっ放すから、ほとんどが怪我人になってもうて、この二人だけ無事やったんやで。穴の中で生き埋めさせい言うんか?」
「引き返せばいいだけだろ」
穴に潜んでいたドワーフは、ヨハンが放った魔法によってケガをした。
頑丈な身体のお陰で死者はしなかったようだ。
ケガを免れた二人のドワーフをモグが連れて来たそうだ。
女性のドワーフは12、13歳ぐらいの見た目をした。ロリロリ幼女でタンクトップがヨレヨレなのが心配になる。
もう一人はドワーフとしては珍しい髭の生えていない若い男のドワーフだった。
「若いな」
「あんさんがいいなや。あんさんはワシから見てもガキやぞ」
「見た目はな。まぁいい。モグとドワーフ三人は俺についてきてくれ。
リンはモモを保護できるところに案内しろ。
大事な捕虜だ。後、ここの指揮をチンに頼んでおいてくれ」
「はい!」
リンはモモを抱きしめる力は緩めず嬉々として会議室から退出していった。
「ヨハン様、それでは門で起きたことから説明をお願いできますか?」
ヨハンはゴルドナが行っていたことから、モグたちとの状況説明から始めた。
「そうでしたか」
「ああ。こいつらの大将であるゴルドナは治療中だ。今はリンの両親に任せてベッドで寝かせている。ゴルドナの代わりに、このハンチャがドワーフ代表だ」
「ハンチャです」
「サクです。あなた方を信用したわけではないですが。今は同盟関係と考えます」
「それで構いません。我々も族長を助けるために動くだけです」
ハンチャの言葉にサクが頷く。残りの二人のドワーフはハンチャに従うようで黙って控えていた。
改めて自己紹介のためモグが妹を人質に出したのも説明すれば、サクはモグの覚悟に感心していた。
「よろしゅうな」
「はい。よろしくお願いします」
軽いモグに対して、サクはどこか敬意を込めた返事をしていた。
「お膳立てはできた。策はあるか?」
ヨハンの問いに、サクは少し沈黙してから口を開いた。
「あります。先程までの一か八かではなく。かなり効果的だと思いわれます」
サクが考え出したサクは、漠然とした賭けではなく随分と勝算が高くなっていた。
「よし、現実的になってきたな。早速作戦に取り掛かろう」
「よろしいのですか?これには彼らを信用する必要がありますが」
「まぁ最後はとっておきの一手があるから大丈夫だ」
「とっておきの一手?そんなものが」
「ああ、俺を信じろ」
サクに対して、常にヨハンは優位でいなければならない。
彼女はあくまでセリーヌの軍師なのだ。敵になる可能性を常に考慮しておく必要がある。
「ヨハン殿、我々は先程のサク殿の話し通り動けばいいのだな?」
ハンチャは作戦を聞いて、本当にできるだろうかと不安そうにしていた。
「ああ、頼む。俺はドワーフの力を信じる。
何よりお前達のゴルドナ大将を思う気持ちに賭ける」
「そこまで……それほどまでに頼られては断りきれませんな」
ハンチャは感極まって目が潤んでいた。内心チョロイ奴だとほくそ笑む。
「ヨハンさん。あんたハンチャさんのことチョロイ思てはるやろ?」
モグが小さい声で耳打ちしてくる。
「悪いか?」
「悪いのは悪いけどな。これも戦場の習わしや。仕方ないことやろう。
やけどな、笑うのはちと早いんとちゃいますか?」
「どういう意味だ?」
「案外あんさんも甘ちゃんかもしれへんな」
ハンチャのことを笑ったようにモグに笑われてしまう。
「まぁええわ。ワシはモモを人質に取られとるからな。
あんさんらの動きに付きおうたる。だけどあのお方はそないに甘ないで」
モグはそれだけいうと、「ふん」と鼻息荒く。執務室を出て行った。
「大丈夫なのでしょうか?」
「わからん。だが、アイツは裏切らないような気がするんだ」
「根拠がおありですか?」
「いや、俺の勘だ」
モグの背中を見送るとドワーフ達も足早にかけて行った。
ヨハンは最後の詰めをサクと話して、ガンツとミリーにも作戦の内容を伝えて実行へ動き出した。
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