第76話 ダークエルフ

朝から昼へ変わろうとする慌しく仕事をする午前中。

寒村としたゴブリンの村に踏み込む一団がいた。

精霊族と呼ばれる人間よりや魔族よりも、自然に近い存在と言われている種族たちがガルガンディアの地に踏み込んでいた。


敵勢力に気付いたゴブリンは逃げ出した。

ゴブリンも土の精霊と言われているが、知能が低く精霊たちから認められない存在であった。

どこに属してもゴブリンは弱小な存在としてしか扱いわれない。

来襲した精霊族はゴブリンが逃げ出しても、興味を示すことなく進軍を続けた。


ゴブリンは精霊の軍団を見て逃げていく。当たり前の話だ。

ゴブリン如きが勝てる軍団ではないのだ。

それを分かるだけゴブリンも知恵をつけたものだと、この軍団の大将を務めるダークエルフは思った。


褐色の肌に白銀の髪は日の光照らされて、神秘的であると同時に危険な香りを放っている。


「さぁ、始めましょうか」


寒村とした雰囲気など女性には関係ない。

むしろ、女性がいるだけでそこらじゅうに花が咲きそうなほど、妖艶で華やかな存在である。

魔力の放出と共に、身体から水蒸気が天高く上がっていき霧へと姿を変える。

霧は、ガルガンディアの領地を包む込むように森全体へと広がっていった。


しかし、ガルガンディア要塞へ霧が差し掛かると、霧は要塞を避けるように包み込むことができなかった。


「あら?ふふふ、頑張っている子がいるわね」


ダークエルフは楽しそうに笑う。自分の方が力が強い。

実際ガルガンディア要塞を護るように作られた透明な結界は、霧を完全に撥ね返してはいない。

確かに霧を退けている場所はダークエルフの影響は受けない。

しかし、一歩でもガルガンディア要塞から出てしまえば、ダークエルフの術中に嵌ってしまう。


「戦う意志が無いのであれば、素通りしてしまおうかしら?」


本気でダークエルフはそんなことを思っていた。

健気に頑張る存在がいることで可愛く思えた。

圧倒的な強者を相手に仲間を護るため頑張る存在。

そんな存在は可愛くもあり潰してしまいたくなる。


「でも、ダメね。王国に帝国の力を分からせなければならないもの。

でなければ、死者が増えるだけね。頑張っている子にも絶望をプレゼントしてあげなくてはね」


彼女は手を高々と掲げる。


「霧の軍団、前へ」


ダークエルフの号令と共にノーム族とシルフィー族が出陣していく。

彼女達も元々は精霊族ではなるが、この世界では存在するものとして認識されている。

ダークエルフの号令と共に動き出した軍団を見て、ダークエルフは村にある家に入り身体を休める。

いくら強力な魔力を持っているハイエルフであろうと、霧を維持するためには自身が無理をすることはできない。


「じっくりと吉報を待たせてもらうとしましょうか」


持ってきたワインを優雅に口に含み、傍観者を決め込んだ。



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ゴブリンの村に入った軍団の情報は、すぐにガルガンディア要塞へと伝令が送られた。ダークエルフが弱小と思ったであろうゴブリンこそが、ヨハンの伝令掛かりであり、敵の数や相手の場所、種族なども教えてくれる偵察隊員になる。


「やはりダークエルフか」

「予想通りですね」


サクの予想があたったことで、ゴブリン達には動いてもらうことになる。


「伝令の連携をしっかりさせろ」

「わかったよ」


チンが飛び出していき、ゴブリン伝令隊が動き始める。

ゴブリン達はその数と小さな体を生かして、森に隠れながら伝令を送ってくる。


「ご主人!」


次の指示を言う前にシェーラが会議室に飛び込んでくる。


「どうしたシェーラ」


シェーラの必死な様子に聞き返した。


「霧が迫ってる」

「霧?」

「そう、あれはエルフが使う迷いの霧」

「迷いの霧とはなんだ?」


シェーラの説明によれば、エルフは数も少なく他種族に狙われやすい。

そのため自らの里を霧や幻覚を使って分からなくしているのだという。

霧の中に入れば術者の意思次第で相手を迷わしたり幻覚を見せたりできるそうだ。


「それはヤバイな……どうにかできないか?」

「あっちの方が強い」


シェーラは悲痛な面持ちで力の無さに項垂れる。


「ならこのガルガンディア周辺だけでも守れないか?」

「ここを?」

「そうだ。限定的なら、護れないか?」

「やってみる」


シェーラはすぐに会議室を飛び出し、広場へと向かった。


「ゴブリン達にも霧が来る前に伝令を送ってくれ。自らの命を大事に」


いくつかの指示をゴブリン達に伝えている。

「命を大事に」は戦わず逃げるか、隠れることを意味する。

霧によってこちらが不利になるのなら無理に戦えば戦力を減らしてしまうだけだ。


「サク、対策を考えろ」

「はっ!」

「リン、長期戦になる。飯と警戒のシフトを変えろ」

「はい」

「ガンツ殿、ミリー。籠城に入る。よろしいな?」

「お任せいたす」

「ああ」


二人の了承を得て、ヨハンはダークエルフに対抗するため会議室を出た。

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